Yokohama Research Institute · Bulletin

ブロイラーの体系

連合弛緩とは何の崩壊なのか
Le système de Bleuler
松石 竹志Takeshi Matsuishi, M.D., Ph.D. · 横浜基礎研究所
Septembris MMXXVI
教科書を読む
エーの読解を追う
連合弛緩の前提を掘る話す中身は、当日資料にすべて書いてあります。
0

ピレネー山麓の夏

一九二五年
米とベーコン、玉ねぎとニンニク。 無人の家。山に向けた机。本とノートと鉛筆。
二五歳のエーが訳していたのは、一四年前のドイツ語の大著であった。
Die Wiege vieler Wahnideen
sind die akuten Zustände.
急性期は多くの妄想観念の揺りかごである。
vieler ≠ aller 「多くの」であって「すべての」ではない。
この一語が、第二回の伏線になります。
この一文は箴言ではない。 「妄想観念の成立と運命」——
そう題された節の、冒頭に置かれた宣言である。
… als „Residualwahn“ (Neißer)
in den „sekundären“ Zuständen fort.
急性期に生まれた妄想が、状態を越えて残る。
ブロイラーはそれに名を与えている。
薄暮状態では数週間
意識清明な患者では、しばしば数年急性状態とは、同じ内容が桁違いの速さで結晶する場である。
症例の詳細は当日資料へ。
I

五つの著作

Quinque opera
一冊の著者ではない
エーが読んだのは体系全体である
1911 統合失調症論文 1916 / 1920 精神医学教科書 1921 魂の自然史 1925 精神様体 1931 機械論・生気論・記憶論 エーが読んだのは、この五つ全体である
II

教科書を読む

第 3 版(1920)
Comparatio
問いの向きが逆である
クレペリン 1899 症状 外から観察する 何が観察されるか ブロイラー 1920 連合・思考・情意 =正常心理学の機制 なぜそれが生じるか 内側から演繹する 問いの向きが逆である
心理学なき精神医学は、
生理学なき疾患学である。 Bleuler, Lehrbuch der Psychiatrie, 第 1 版序文
Structura
構成それ自体が主張である
正常心理学 → その病的変形 → 疾患単位
A 章 心理学的手引き 意識 知覚 c 連合と思考 知性 記憶 情意 k 自閉的思考 B 章 一般精神病理学 同じ機能の病的変形として記述する——幻覚は二次症状、感情平板化は解離 N 章 統合失調症群 基本症状=連合障害・情意変化・自閉症 / 副次症状=幻覚・妄想・緊張病症状
患者と健常者の違いは
量的なだけである。 自閉的思考は、夢・神話・詩・哲学と連続している。
III

エーの読解

Thesis
骨は弱くなっている
一次症状と二次症状
一次症状 · 陰性 連合弛緩 疾患の必然的な現れ 患者は体験として語れない 解放されるもの 自閉症 現実に拘束されない思考 =妄想の「揺りかご」 二次症状 · 陽性 妄想・幻覚 欠如しうる・変化しうる 患者が意識的に報告できる 骨は弱くなっている——これが病そのもの。折れるかどうかは、転んだかによる。
Le principe de l’écart organo-clinique
あいだに介在するもの
一次的・直接的 脳の器質的過程 「陰性的」作用 存続する精神活動のすべての厚み toute l’épaisseur de l’activité psychique subsistante 間接的・媒介的 症状学 「陽性的」 器質—臨床間隔の原理 le principe de l’écart organo-clinique
IV

連合弛緩の哲学的重み

「連合が弛緩している」から
「脳に病変がある」へ——
この橋は、どこに架かるのか。
Duae traditiones
橋が架かるのは、どちら側か
アリストテレス Aristoteles 『オルガノン』——論理学 正しい推論の形式的規則 スコラ哲学・トマス → デカルト 「ロゴスを持つ動物」という人間規定 『記憶と想起について』 類似・対比・近接 — 連想の三原理 イギリス経験論的受容 ホッブズ 1651 / ロック 1690 ヒューム 1739 / ハートリー ヴント(反応時間の測定) 連合は経験によって後天的に 形成される → 失調は個体的・偶発的 大陸合理論・先験論的受容 カント(統覚の先験的統一) ヘルバルト 1824(意識閾・抑制) グリージンガー 1845 連合は脳に構造的・先天的に 組み込まれている → 失調は器官の病変の証拠 ブロイラー この橋は経験論の側からは架からない
連合弛緩とは、症状の記述ではない。
人間的思考を成立させる条件そのものの崩壊
についての主張である。 なお、それは単語連想実験によって測定可能なものとして出発していた。
V

シュナイダーの批判

Das ist ein Glaubensbekenntnis
und es fehlt nicht an Anfechtungen.
これは信仰告白であり、異論に事欠かない。
Paradoxon
診断に有用な症状こそ、欠如しうる
一次症状 連合弛緩 疾患が存在すれば必ずある 二次症状 思考吹入・思考奪取 声が話し合う 欠如しうる 残存精神活動の産物 シュナイダー一級症状 診断に有用な症状こそ、 疾患が存在しても欠如しうる症状である。 信頼性と病態発生的基本性は、相反する方向に働く
次回——一九二六年八月、ローザンヌブロイラー本人が来て、フランス精神医学と正面から向き合った六日間。
本日そろえた道具が、その討論を裁くために要ります。
?

質疑応答

15 min.
← → move  ·  T index  ·  P print theme

Index — 目次