Yokohama Research Institute · Bulletin

一九二六年、ローザンヌ

ブロイラー対クロード
Lausanne MCMXXVI
松石 竹志Takeshi Matsuishi, M.D., Ph.D. · 横浜基礎研究所
Septembris MMXXVI
二層構造 / 大陸的前提 / vieleraller 前回そろえた三つの道具を、本日は一つの会議に当てます。
I

会議の場

八月二日〜七日
XXXe Session
一つの概念をめぐる公開審問
フランス語圏の学会における「報告」という制度
演題「統合失調症」 主報告 · rapport Eugen Bleuler チューリッヒから参加、六九歳 対抗報告 Henri Claude 「早発性痴呆と統合失調症」 討論 · discussion — 記録も報告書に収録される Minkowski / Angelade / Laignel-Lavastine / Courbon
Dramatis personae
その場にいた人々
器質的基礎づけ 現象学的記述 経過による定義 機制・構造による定義 Bleuler 解剖病理学的実体・連続性の原理 Claude 早発性痴呆と統合失調症を区別せよ Ey & Guiraud 急性統合失調症を否定、器質論は支持 Laignel-Lavastine Minkowski 現実との生命的接触の喪失 Courbon 連合弛緩の外延を問う ※ 討論記録から読み取れる立場の見取り図(解釈を含む)
II

ブロイラーの報告

« … j’ai l’impression d’être un personnage légendaire … » 自分は、語ったことのない言葉を帰せられる
伝説的人物のような印象を受ける。
統合失調症は臨床的実体であるだけでなく、
同時に解剖病理学的実体でもある器質的起源は今日、必要なすべての証拠をもって実証できる
ブロイラー——実証できる
シュナイダー——信仰告白である
III

クロードの対抗報告

早発性痴呆は経過によって、
統合失調症は機制によって定義される。 重ね合わせれば、経過診断の伝統が空洞化する。
——「急性統合失調症」の否定。
批判するところは批判し、
器質発生論は手放さない二六歳のエーがこの年に取った位置が、そのまま生涯の位置になった。
IV

討論の現場

コンゴの例
Exemplum Congi
何が失われているのか
« Où est l’Égypte ? » — « Entre l’Assyrie et le Congo. » 問い 「エジプトはどこにあるか」 活性化される連合の候補 ・地理的・空間的(北アフリカ、地中海) ・偶発的近接(博物館の展示室の隣接) アリストテレス:類似・対比・近接 正常な思考 問いの文脈が論理的・空間的制約 活性化し、偶発的連合を抑制する → 「北アフリカです」 統合失調症 文脈制約による選択的制御が弱化 偶発的連合が思考の表面へ浮上 → 「アッシリアとコンゴの間」 ブロイラーの論点 知識は失われていない——患者の答えはエジプトの位置を知っていることを証明している。 失われたのは連想そのものではなく、連想の選択的制御である。 クルボンの異論(1926) 「教育程度の低い一般人でも同じ返答をしうる」 百年後の裏書き 予測符号化(2009)・異常顕著性(2003)=文脈制御の障害
知識は失われていない。
失われたのは、連想の選択的制御である。 一九二六年には決着がつかなかった。
決着をつけたのは、百年後の神経科学であった。
Wahnideen — aber nicht alle —
im Traum gebildet
S. 357。二百五十頁を隔てて、同じ制限。
一度なら言い落とし、二度なら留保である。
エーは、ブロイラーが退けた道具
ブロイラーを読んだ。 夢幻様譫妄(délire onirique)——ブロイラーが距離を取ったフランスの分類。
それがエーの読解の枠組みそのものであった。
V

ミンコフスキーとの分岐

同じ書物から、二つの読解が分かれた。 理論の対立は、人間的断絶を意味しなかった——
エーは毎月、それとなくミンコフスキーを訪ねていた。
VI

ヤスパースの批判

… ein Schema der Idee, aber nicht ein
erforschbarer Gegenstand wirklicher Erkenntnis.
得られるのは理念の図式であって、
現実の認識の探究可能な対象ではない。
ヤスパースが探究不能な構成物を見たところに、
エーは唯一の地盤を見た。
VII

二重の創造的変換

Duplex conversio
正確な継承ではなかった
ブロイラーの器質発生論 連合弛緩 → 自閉症 → 妄想 Minkowski 1927 「自閉症」→ 生きられた時間 現象学・実存論的方向へ Ey 「揺りかご」→ 解体論 神経学的解体論の方向へ 代償=ドイツ語圏が保持した「一次妄想」   収益=百年後の神経科学と共鳴する枠組み
Chronologia
百年
1911 統合失調症論文 1920 教科書 第3版 1925 エー、翻訳 1926 ローザンヌ 1927 ミンコフスキー 1940 エー講演 1946 ボンヌヴァル 1993 仏訳公刊 2022 ICD-11 エーが読んだのは 1911 年の書物。その読解が公的に問われたのが 1926 年。 その帰結が制度に現れるまでに、百年近くを要した。
変換の代償収益を正確に記述すること。 それが、精神医学史における公正な評価の条件だと考えます。
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質疑応答

15 min.
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