第 10 章 ・ ICD-11 ・ 6C0

排泄症群

排尿および排便の制御をめぐる障害

Praefatio

本章は ICD-11 において「排泄症群」と総称される一群の障害を概観する。本群は児童期に発症することが多い。そのため、本書の関係諸職種が成人臨床において直接の主訴として出会う頻度は高くない。しかし、知的発達症および神経認知障害群を有する利用者・患者の支援場面では、これらの障害が併存する所見として日常的に観察される。本書の関係諸職種は、本群の診断の枠組みを把握しておくことで、家族相談・学校保健連携・施設支援・神経認知障害群の在宅支援において、医学的説明と心理社会的支援の道筋を提供する役割を果たすことができる。

なお、本研究所の刊行する「ICD-11 に基づく神経発達症群と併存症の臨床マニュアル」第 2 章は、知的発達症および被虐待経験を有する利用者を支援する施設職員に向けた実用的な解説を収めており、本章と相互に参照される構成となっている。本章は、その診断的・臨床的な概念の枠組みを、精神医学マニュアルの体系のなかに位置づけることを目指すものである。

排泄症群とは

本群は二つの障害を含む。遺尿症(6C00)と遺糞症(6C01)である。このほか、残遺カテゴリーとして排泄症、特定不能(6C0Z)が設けられている。両症はいずれも、排尿・排便のコントロールがふつう身についている発達年齢に達している人において、適切でない場所での排尿または排便が、繰り返し持続的に生じることを中核とする。この適切でない排尿・排便は、意図的に生じる場合と、意図によらず生じる場合とがある。ICD-11 は、そのどちらの場合にも診断を認めている。

ICD-11 における本章の整備には、ICD-10 までの分類体系からの位置づけの変更が含まれる。ICD-10 では、これらの障害は「小児期および青年期に通常発症するその他の行動および情緒の障害(F98)」のなかに含まれており、神経症圏の一隅に位置づけられていた。ICD-11 ではこれを独立した障害群(グルーピング)として再編し、また神経発達症群とは別の障害群として位置づけた。この位置づけの変更には二つの意味がある。第一に、これらの障害は、必ずしも神経発達上の問題を背景とするわけではないということである。第二に、これらの障害は、成人期の神経認知障害群においても、臨床的な注意が必要な症候群として現れうるということである。さらに ICD-11 は、両症について特定子(診断に付け加える下位区分)を整備した。遺尿症については夜間/日中の発現パターン、遺糞症については便秘・溢流性失禁(あふれ出るように便が漏れること)の有無に基づくもので、臨床的に意味のある下位区分が診断構造に組み込まれた。

本群の診断において本質的に重要なのは、症状が他の原因では説明されないことである。すなわち、物質または薬剤の生理学的作用によって説明されないこと。また遺尿症の場合、多尿や尿意切迫を引き起こす医学的状態(尿路感染症、未治療の糖尿病、神経因性膀胱、神経系疾患、筋骨格系または結合組織の疾患、尿路の先天性または後天性異常等)によって説明されないこと。遺糞症の場合、便失禁を引き起こす医学的状態(無神経節性巨大結腸、二分脊椎、肛門狭窄、慢性下痢、消化管の先天性または後天性異常、消化管感染症等)によって説明されないことである。したがって本群の診断には、精神科的判断と身体科的検索との協働が必要である。

本群はまた、トイレットトレーニングをめぐる文化的多様性への留意が必要な障害群である。CDDR(ICD-11 の臨床記述と診断要件)は、次の点が文化集団によって異なることを指摘している。排泄の自立が達成される年齢に関する期待、排泄の失敗が病的と見なされる境目、その行動への寛容さ、そして関連する恥や偏見の程度である。本書の関係諸職種は、家族相談および学校保健連携の場面において、本人および家族が体験する苦痛と恥の感覚が、その文化的文脈のなかでどのように形づくられているかを理解することが必要である。

遺尿症(6C00)

就床中または衣服の中への、適切でない排尿が繰り返し持続的に生じること(例:数か月にわたって週数回以上)を中核の要件とする障害である。排尿は日中に生じる場合(日中性遺尿症)と夜間に生じる場合(夜間性遺尿症)とがあり、両方を伴う場合もある。本症の診断は、本人が、排尿の自立がふつう期待される発達年齢——おおむね暦年齢 5 歳に相当する発達段階——に達していることを条件とする。なお、児童期の半ば頃までは時折の尿失禁はまれなことではなく、それ自体は診断の対象とならない。

ICD-11 は本症について三つの特定子を整備した。夜間性遺尿症(6C00.0)は最も一般的な形であり、典型的には眠りについてからの前半部分に生じる。日中性遺尿症(6C00.1)は起きている時間帯にのみ排尿が生じるもので、しばしば「尿失禁」として記述される。夜間性および日中性遺尿症(6C00.2)は、両方の時間帯に排尿が生じるものをいう。

排尿は典型的には意図によらず生じるが、場合によっては意図的に見える形をとることもある。診断はどちらの場合にも与えることができる。睡眠中の排尿はレム睡眠中に生じうることが知られており、本人が「排尿する夢を見ていた」と報告する場合がある。日中性遺尿症は、公衆便所を使うことへの社会的不安や、楽しい活動(遊戯、ゲーム等)を中断したくない気持ちから、排尿を避ける子どもに生じる場合がある。

経過については、大部分の子どもは青年期までに排尿のコントロールを確立するが、少数の人では遺尿が成人期まで続く。いったん排尿の自立を達成した子どもが遺尿を発症する場合、発症は 5–8 歳のあいだが多い。日中性遺尿症は、9 歳を超える子どもでは少なくなる。

本症は、知的発達症を有する人において頻度が高い。この場合、本症の診断要件をすべて満たしていること、および本人の発達年齢が、排尿の自立がふつう期待される発達段階に達していることが、診断を与える条件となる。神経認知障害群(認知症等)を有する人においても本症は生じうる。ただし、診断要件をすべて満たし、かつ本症が独立した臨床的注意を必要とする場合に限って、追加の診断として与えることができる。また、本症には家族性の傾向が知られており、親に遺尿の既往がある子どもでは、本症の頻度が高い。男児では夜間性が、女児では日中性が、それぞれ相対的に多い傾向にある。

鑑別(見分け)においては、抗精神病薬・利尿剤等の薬剤による失禁との区別が必要である。薬剤が原因と考えられる場合、失禁は薬剤の副作用として記録され、本症の診断はふつう与えられない。ただし、薬剤を使い始める前から本症が認められていた場合は、本症の診断を維持することができる。他の医学的状態との関係でも同様に、その医学的状態が生じる前から尿失禁が認められていた場合、または治療を受けた後も尿失禁が持続する場合には、本症の診断を与えることが正当化されうる。

遺糞症(6C01)

適切でない場所での排便が繰り返し持続的に生じること(例:数か月にわたって月 1 回以上)を中核の要件とする障害である。本症の診断は、本人が、排便の自立がふつう期待される発達年齢——おおむね暦年齢 4 歳に相当する発達段階——に達していることを条件とする。なお、児童期の早い時期に時折の便の失敗があることはまれではなく、診断には、失敗が頻回かつ持続的に生じていることが必要である。

ICD-11 は本症について二つの特定子を整備した。便秘および溢流性失禁を伴う遺糞症(6C01.0)は、本症の最も一般的な形であり、糞便の貯留(便がたまること)と嵌入(便が固くつまること)を特徴とする。便は典型的には——常にではないが——形のないもの(軟便または液状便)であり、漏出はときおりのものから持続的なものまでさまざまである。排便を避けることから便秘に至る経過がしばしば認められる。便秘および溢流性失禁を伴わない遺糞症(6C01.1)は、糞便の貯留と嵌入を伴わないものである。排便の生理学的なコントロールは正常に保たれているのに、社会的に受け入れられる場所で排便するという規範に従うことへの嫌悪・抵抗・失敗が認められる。便は典型的に正常な硬さであり、適切でない排便はとぎれとぎれに生じることが多い。

本症は多くの場合意図によらず生じるが、意図的に見える形をとる場合もある。診断はどちらの場合にも与えることができる。意図によらない排便は、便秘および溢流性失禁を伴う型において最も多く認められる。意図的な遺糞症は、第 14 章で論じる予定の反抗挑発症または素行・非社会的行動症と関連する場合がある。便の貯留行動(排便をがまんして先延ばしにする行動)は、過去に排便のときに困難や痛みを経験したことを背景として、排便を避けた結果として生じることがある。これが慢性化すると、後天性巨大結腸の発症に至ることがある。第 5 章で扱った限局性恐怖症および社交不安症(公衆便所を使うことへの恐怖等)が、貯留行動に関係している場合がある。

本症は、知的発達症を有する人において頻度が高い。この場合、診断要件をすべて満たしていること、および本人の発達年齢が、排便の自立がふつう期待される発達段階に達していることが、診断を与える条件となる。神経認知障害群を有する人においても本症は生じうる。ただし、診断要件をすべて満たし、かつ本症が独立した臨床的注意を必要とする場合に限って、追加の診断として与えることができる。本症は男児における発症が相対的に多い。学齢期(6–12 歳)の子どもにおける有病率は 1.5–7.5 % と高く、経過は数年に及び、症状の増悪を繰り返すことがある。便秘を伴う遺糞症では、遺尿症との併存が認められる場合がある。両症の診断要件をすべて満たす場合は、両方の診断を併記することができる。

鑑別においては、薬剤・物質による便失禁との区別が必要である。一部の抗菌薬や抗がん剤、下剤、マグネシウムを含む制酸剤等は、便失禁を引き起こしうる。この場合、本症の診断はふつう与えられない。ただし、薬剤を使い始める前から本症が認められていた場合は、診断を与えることが適切でありうる。他の医学的状態との関係でも同様に、その医学的状態が生じる前から便失禁が認められていた場合、または適切な治療を受けた後も便失禁が持続する場合には、本症の診断が正当化されうる。

本症の臨床的な影響としては、次のものが挙げられる。本人における恥の感覚と自己肯定感の低下。年長児における仲間からのからかいや社会的孤立。そして、他者の前で排便してしまうことへの恐怖を背景とする、本人による社会的場面の回避である。本症の支援のときは、これらの心理社会的な影響への理解が、身体科的・行動的な介入と並んで重要となる。

成人領域における留意点

本群を成人領域で扱う際の留意点として、次の三点を挙げておきたい。

第一に、本群と知的発達症および神経認知障害群との併存についてである。本書の関係諸職種は、知的発達症を有する利用者の支援、および認知症を有する高齢者の在宅・施設支援において、本群の症状を併存する所見として観察する場面に頻繁に出会う。CDDR がこの二つの場合に付す条件は、同じではない。知的発達症を有する人については、本症の診断要件をすべて満たしていること、および本人の発達年齢が、排泄の自立がふつう期待される発達段階に達していることが、診断の条件である。神経認知障害群(認知症等)を有する人については、診断要件をすべて満たし、かつ本症が独立した臨床的注意を必要とする場合に限って、追加の診断として与えることができる。また CDDR は、本症が他の精神・行動・神経発達の疾患の一側面として現れる場合について、本症が独立した臨床的注意の焦点となるならば、その疾患の診断と併せて本症の診断を与えてよい、としている。実務のうえでも、本症の症状が支援計画における独立した焦点となる場合——たとえば施設入所の判断、夜間ケアの組み立て、家族の介護負担の評価——には、独立した診断として記述しておくことが、支援関係者間の意思疎通を円滑にする。

第二に、身体的原因の検索の重要性である。本群の診断要件は、症状が他の医学的状態によって説明されないものであることを、明示的に求めている。遺尿症においては、尿路感染症、糖尿病、神経因性膀胱、神経系疾患、尿路の構造異常等が鑑別の対象となる。遺糞症においては、無神経節性巨大結腸、二分脊椎、肛門狭窄、慢性下痢、消化管の構造異常等が鑑別の対象となる。本書の関係諸職種は、本群の症状を主訴とする家族相談に応じる場面において、身体科的な検索を確実に経たうえで精神医学的評価がなされる、という経路を確保することが必要である。なお、本症の診断要件を満たさない症例については、ICD-11 第 21 章「症候、徴候または臨床所見、他に分類されないもの」のうち、尿失禁(MF50.2)または便失禁(ME07)の症候カテゴリーを用いる経路が、CDDR によって示されている。

第三に、トイレットトレーニングをめぐる文化的多様性への留意である。本群の評価において、家族および学校がその行動をどの程度病的なものと見なすか、また本人がどの程度の恥と苦痛を体験しているかは、その文化的文脈のなかで形づくられる。本書の関係諸職種は、家族相談および学校保健連携の場面において、本人および家族の体験をその文化的文脈のなかで理解する姿勢が、本群の臨床的判断において他章にも増して必要になることを認識しておく。

※ ※ ※

v2