他者の権利および社会規範の持続的侵害をめぐる障害
本章は ICD-11 において「秩序破壊的または非社会的行動症群」と総称される一群の障害を概観する。本群の障害は、小児期および青年期に発症が集中している。そのため、本書の関係諸職種が成人臨床の場で、最初の相談内容としてこの群に出会うことは多くない。しかし、関与する場面がないわけではない。たとえば、本群が成人まで持続した症例の評価、本群と非社会性パーソナリティ症との連続性の判断、そして職場における行動上の問題や司法場面での精神医学的評価との関連である。本章は、本群の枠組みを実務的な観点から整理する。
本群は、前章で論じた衝動制御症群と対をなす位置にある。両群はいずれも行動上の問題を中核とするが、何を中核に置くかが異なる。衝動制御症群の中核は、「衝動・欲動・urge に抵抗しようとして繰り返し失敗する」という、本人の内的な体験のレベルでの定義である。これに対して本群の中核は、「持続的な行動パターン」という、外から観察できる行動のレベルでの定義である。したがって本群の診断は、本人が語る内的体験の報告ではなく、複数の場面にわたって観察される行動の積み重ねを土台とする。
本群の障害は、次の要素を共通の土台とする。第一に、持続的な行動上の問題が、家庭・学校・職場・施設・地域など複数の場面にわたって現れること。第二に、その行動が、目立った反抗や不従順から、他者の基本的権利の侵害や、年齢相応の社会規範・規則・法律のより重大な違反にまで及びうること。第三に、その行動が、本人の年齢・性別・社会文化的な背景から見て、正常の範囲を明らかに外れていること。第四に、その問題が、他の精神疾患の症状が出ている期間だけに限られるものではないこと。第五に、本人の生活機能に重大な支障をもたらすことである。本群には、反抗挑発症(6C90)と素行・非社会的行動症(6C91)の二つのカテゴリーに加えて、どちらにも当てはまらない場合のための残余カテゴリー(6C9Y・6C9Z)が含まれる。
本群を評価するときは、CDDR(ICD-11 の「臨床記述と診断要件」。診断の手引きにあたる文書)が明示する一つの原則を見落としてはならない。それは、本人の置かれた環境への適応として生じた行動を、それだけを根拠として本群の診断を下すことに使ってはならない、という原則である。たとえば、虐待を受けている家庭から逃げ出すことや、生き延びるために盗むことがこれにあたる。CDDR は、本群が、家族機能不全、仲間・同僚・恋愛相手との関係の問題、学業や仕事での失敗といった心理社会的環境、そして仲間からの拒絶、逸脱した仲間集団の影響、親の精神疾患といったリスク因子と、ひんぱんに関連することを述べている。反抗挑発症については、養育関係の大きな断絶を経験した家庭や、厳しく一貫性を欠く、あるいはネグレクト的な養育がなされる家庭の児童・青年に多いことも記されている。これは、本群を「個人の病理」だけの問題として閉じたかたちで理解することには限界がある、ということを示している。本書の関係諸職種は、観察される行動の形だけでなく、その背景にある適応としての意味と、生活史の文脈をあわせて考慮する必要がある。この点は、第 7 章で論じたストレス因関連症群、とくに不適切な養育に起因するアタッチメント(養育者との情緒的な結びつき)の障害と深く関連する。
ICD-11 における本群の整備には、ICD-10 からのいくつかの組み直しが含まれる。第一に、ICD-10 の「行為障害(F91)」が、本群「秩序破壊的または非社会的行動症群(6C9)」へと位置づけ直された。第二に、ICD-10 の「行為および情緒の混合性障害(F92)」は廃止された。これは、ICD-11 が、あらゆる種類の併存症(同時に存在する別の疾患)をそれぞれ独立した診断として並べてコーディングする方式を採り、児童精神科の実務で用いられてきた多軸分類の枠組みをやめたことに対応する。これにより、行為の問題と情緒の問題は、それぞれ独立した診断として記述されることになった。
同年代・発達水準・性別・社会文化的な背景と比べて、著しく反抗的・不従順・挑発的な行動パターンが続くことを中核とする障害である。その行動には、権威者と言い争う、要求・指示・規則に従うことをはっきりと拒む、わざと他者を苛立たせる、自分の失敗や非行を他者のせいにするといった、他者と折り合うことの持続的な困難が含まれる。また、他者を挑発する、意地悪な、あるいは執念深い行動も含まれる。さらに、極端な易刺激性(いらいらしやすさ)や怒り——怒りっぽくすぐに苛立つ、かんしゃくを起こす、怒りと恨みを抱く——も、この行動パターンの一部として挙げられている。ただし、易刺激性と怒りだけでは、本症の診断にとって必要でも十分でもない。診断には、この行動パターンが長期間(例:6 か月以上)持続していることが必要である。重要なのは、この行動パターンが、特定の権威者との特定の関係だけでは説明できず、複数の場面・複数の相手に対して広く現れる点である。後述の素行・非社会的行動症との違いは、行動の重症度の水準にある。本症の中核が権威者との対人葛藤や不従順であるのに対し、素行・非社会的行動症の中核は、他者の基本的権利や主要な社会規範・規則・法律の侵害である。なお CDDR は、重篤な非社会的行動が「ない」ことによって本症を定義する立場(ICD-10 の枠組み)を採っていない。両症はしばしば併存し、それぞれの診断要件がともに完全に満たされる場合には、二つの診断を並記することができる。発症の典型は児童期の半ば(学童期のなかごろ)であり、最初の症状は就学前の幼児期から現れるのが典型である。青年期の初めより後に初めて症状が現れることはまれであり、有病率は青年期・若年成人期以降には減少する傾向がある。
本症には、慢性的な易刺激性(いらいらしやすさ)・怒りがあるかどうかによって、二つの下位型が指定される。慢性の易刺激性・怒りを伴う型(6C90.0)は、怒りや恨みを持続的に抱え、些細なことで苛立ち、頻繁に激しい癇癪を起こすパターンが、ほぼ毎日、複数の場面で現れるものである。この型は、後年に抑うつ症・不安症を発症するリスクと特異的に関連することが報告されている。慢性の易刺激性・怒りを伴わない型(6C90.1)は、怒りや易刺激性が刺激に応じて一時的に見られることはあるものの持続的ではなく、反抗・不従順が中心となるパターンである。なお、DSM-5 は、この易刺激性・怒りが前面に立つ臨床像を、抑うつ症の章に「重篤気分調節症(DMDD)」として独立した疾患として設けた。これに対し ICD-11 は、この臨床像を独立した疾患としては設けず、反抗挑発症の限定詞(診断に付け加える指定)として扱う道を選んだ(独立した疾患とするだけの証拠はないというこの判断の経緯は、CDDR 本体ではなく、作業部会に関わった研究者らの文献に述べられている)。
反抗挑発症よりも重篤な障害である。他者の基本的権利、または年齢相応の主要な社会・文化的規範、規則、法律を、繰り返し持続的に侵害する行動パターンを中核とする。その行動は次の四つの領域にわたる。(1) 人や動物への攻撃(いじめ・脅迫・けんかの開始・武器の使用・身体的虐待・動物虐待・強奪・性的強要など)。(2) 所有物の破壊(深刻な損害を目的とした放火、他者の財物の意図的破壊など)。(3) 欺瞞または窃盗(万引き・偽造、他者をだまして利益を得る、または義務を逃れる、住居・店舗・自動車への侵入など)。(4) 重大な規則違反(夜間外出の禁止に反する、家出の繰り返し、無断欠席の繰り返しなど)。診断には、これらの行動が長期間(例:少なくとも 1 年以上)にわたって繰り返し持続的に続いていることを満たす必要がある。非行行為が一回以上あったという事実だけでは、本症の診断には不十分である。回数の問題ではなく、繰り返し持続するパターンであることが求められる。
本症には、発症年齢による二つの下位型が指定される。小児期発症型(6C91.0)は、一つ以上の特徴が青年期に入る前(例:10 歳以前)に明確かつ持続的に存在したものである。この型は、持続的で重症の経過をたどるリスクがやや高い。青年期発症型(6C91.1)は、青年期(例:10 歳)以前にはどの特徴も存在しなかったものであり、仲間集団の影響などが背景にあることが多い。経過としては、発症が早く症状が重いほど予後(その後の見通し)は不良であり、そのような症例では成人後の犯罪行動・物質乱用・他の精神疾患の併発リスクが高まる。経過は総じて多様であり、成人期までに完全に寛解する(症状がおさまる)例もある。性差としては男児に多く、行動パターンに男女差がある傾向が知られている。
なお、本群の設計について一点補足しておきたい。ICD-11 は、反抗挑発症・素行・非社会的行動症のいずれにおいても、診断に必要な最低症状数の規定を設けていない。これは DSM-5 と対照的である。DSM-5 は、反抗挑発症で 8 項目中 4 項目以上、素行症で 15 項目中 3 項目以上といった症状数の閾値(診断に必要な最低ライン)を引き続き定めている。なお ICD-11 でも、特定の指定のレベルには準閾値的な規定が残っている。慢性の易刺激性・怒りを伴う型では、列挙された特徴の大部分を含むことが、向社会的情動の乏しい型では、列挙された特徴のうち複数が繰り返し現れることが求められる。ICD-11 のこの設計は、症状の数を数えることよりも、臨床的判断による全体的なパターンの評価を優先するという、ICD-11 全体の設計思想を反映している。
反抗挑発症と素行・非社会的行動症の双方に共通する追加の指定として、「向社会的情動」(他者への共感や思いやりなど、人とのつながりに向かう感情)のあり方が記述される。向社会的情動の乏しい型(6C9x.y0)は、次のような特徴が、複数の場面・複数の関係において持続的に認められるものである。すなわち、他者への共感や他者の苦痛への配慮の乏しさ、自分の行動への後悔・恥・罪悪感の乏しさ、学業や仕事の不振への関心の乏しさ、そして浅く、しばしば道具的な(目的達成のための手段としての)感情表現である。典型的な向社会的情動を伴う型(6C9x.y1)は、これらの特徴を持続的・全般的なパターンとしては示さないものである。本群に該当する者の多くは、こちらに分類される。
この指定を付けるときには、慎重さが必要である。本指定は本人の長期的な特性を表すものであり、一回の出来事や一つの関係性での観察だけで判定してはならない。長期間(例:1 年以上)にわたり、複数の場面・複数の関係性で観察されることが必要である。さらに、本人の自己報告だけでなく、長期間その人を知る複数の関係者からの情報を統合して、初めて該当すると判断される。なお、発症年齢の下位型と向社会的情動の限定とは別々の概念であり、別々に評価すべきものである。
本群を成人領域で扱う際の留意点として、次の三点を挙げておきたい。
第一に、成人まで持続した本群と、第 15 章で論じるパーソナリティ症との関係である。CDDR の記載に沿えば、素行・非社会的行動症はパーソナリティ症そのものではなく、両者は概念のうえで区別される。しかし、向社会的情動の乏しい小児期発症型の素行・非社会的行動症は、後年に非社会性の特徴をもつパーソナリティ症を発症するリスクが高いことが知られており、両者は併存もしうる。とくに、向社会的情動の乏しさを伴う成人例では、素行・非社会的行動症と、非社会性を顕著な特性とするパーソナリティ症との境界の判断が難しくなる。ICD-11 は、両者それぞれの診断要件がともに完全に満たされる場合に、二つの診断を並記することを認めている。ただしパーソナリティ症の側の境界規定は、より踏み込んだ条件を付している。すなわち、素行・非社会的行動症のある人にパーソナリティ症の診断を追加できるのは、非社会性のほかにも顕著な人格特徴があり、それが自己機能または対人機能の重大な障害に寄与している場合に限られる、という条件である。ただし、この境界の引き方そのものについては、なお検討を要する問題として残されている。本症が成人まで持続している場合、典型的には、小児期・青年期から重篤な行動上の問題が途切れずに続いてきた経過が認められる。本書の関係諸職種は、成人例の評価において、その行動パターンを発達史のなかに位置づけて理解する必要がある。
第二に、本群の鑑別(似た状態との見分け)である。鑑別では、第 13 章で論じた間欠爆発症との区別がとくに重要である。間欠爆発症の攻撃は衝動的・反応的である。すなわち計画性がなく、引き金となる出来事の直後に起こる。これに対し、素行・非社会的行動症における攻撃は、しばしば計画的・道具的である。この違いが鑑別の手がかりとなる。このほかに区別が必要なものとして、次のものが挙げられる。第 1 章で論じた注意欠如多動症(衝動性による問題行動はあるが、他者の権利侵害や社会規範の重大な違反には至らない)。気分症群(行動上の問題が気分エピソードの期間に限られる場合)。第 12 章で論じた物質使用症(反社会的行動が物質の入手・使用に限られる場合)。本群が職場の対人トラブルの評価で問題となる場面では、その行動が独立した本群の診断にあたるのか、それとも他の精神疾患や状況的な要因によって説明できるのかを、慎重に判断する必要がある。
第三に、適応的な行動および文化的な文脈をめぐる原則への留意である。CDDR は次の三点を明示している。環境への適応として生じる行動(虐待からの逃避、生存のための窃盗など)は、それだけを根拠に本群の診断を下してはならないこと。政治的抗議活動への参加は、本群の存在を示すものと見なしてはならないこと。そして、組織暴力の広がる地域や武力紛争のなかで強いられて生じた暴力・窃盗、季節労働に伴う長期欠席といった地域的・文化的状況のもとでの行動には、本群の診断をつけるべきでないことである。本群、とくに素行・非社会的行動症では、司法手続のなかで精神医学的評価が依頼される場面が生じうる。本書の関係諸職種が本群について司法精神医学的な判断を直接行う場面は限られる。それでも、本群の評価が求められる場面において、観察される行動を本人の置かれた環境的・文化的文脈から切り離さずに理解するという原則を知っておくことには、実務的な意義がある。
※ ※ ※