第 22 章 ・ ICD-11 ・ 7A – 7B

睡眠覚醒症群

睡眠の障害と覚醒の障害をめぐる包括的枠組み

Praefatio

本章では、ICD-11 で「睡眠覚醒症群」とまとめて呼ばれる一群の障害を概観する。ICD-11 において本群は、精神・行動・神経発達の疾患の章(第 6 章)ではなく、独立した第 7 章を構成する。ICD-10 は「非器質性睡眠障害」を精神疾患の章(F51)に置き、「器質性睡眠障害」を神経系疾患の章(G47)に分けて配置していた。独立章化は、睡眠の障害を器質性か非器質性かによって別々の章に振り分けるこの扱いからの、本質的な転換である。本書は、本群を精神医学的観点からの締めくくりの章として末尾に収録する。その理由は二つある。第一に、本書の関係諸職種にとって、睡眠の問題は産業保健(不眠・シフト勤務・閉塞性睡眠時無呼吸)と地域保健(高齢者の睡眠問題、レム睡眠行動障害など)の双方で頻繁に取り扱われる主題である。第二に、本群は気分症群・不安または恐怖関連症群・物質使用症などの精神疾患と深く関連し合っている。これらのことから、本書の体系のなかで取り上げる意義は大きい。

睡眠覚醒症群とは

本群の障害は、睡眠の開始・維持・質、覚醒の維持・効率、または睡眠と覚醒のリズムに、無視できない障害があることを中核とする。ICD-11 における本章の整備には、ICD-10 までの分類体系からの本質的な転換が含まれる。第一に、ICD-10 が用いていた「器質性/非器質性」の二分法が廃止された。というのも、本群の多くの障害は、生理学的・心理的・行動的要素が組み合わさった複合的な病態生理(病気が生じ進む仕組み)をもち、「器質性か非器質性か」という古い区分はこの実態にそぐわないからである。第二に、ICD-10 では精神疾患の章・神経系疾患の章・内分泌疾患の章・呼吸器疾患の章・周産期に発生した病態の章に分かれて置かれていた睡眠関連の障害が、独立した一つの章へと統合された。第三に、本章の構造は現れる症状のかたちに沿って再編され、六つの主要群として整理された。すなわち、不眠症群(7A0)、過眠症群(7A2)、睡眠関連呼吸障害群(7A4)、概日リズム睡眠覚醒障害群(7A6)、睡眠関連運動障害群(7A8)、睡眠時随伴症群(7B0)である。

もっとも、独立章化は、本群を精神医療の領域から切り離すことを意味しない。CDDR(ICD-11 の臨床記述と診断要件)は、睡眠覚醒症群を独立した章に置いたことが、適切な訓練を受けた精神医療専門家による診断・治療の対象から外すことを意図するものでは決してない、と明記している。この位置づけに沿って、本群の障害は本書の体系のなかでも引き続き扱われる。

不眠症群(7A0)

本群は、適切な睡眠の機会と環境があるにもかかわらず、睡眠の開始・維持・深さ・質に困難をきたす状態を中核とする。慢性不眠症は、症状が週に数回以上、3 か月以上にわたって続き、日中の機能障害(疲労感、抑うつ気分、易刺激性〔いらいらしやすさ〕、認知機能の低下)を伴うものとして定義される。短期不眠症は、同様の症状が 3 か月未満にとどまるものをいう。

慢性不眠症の臨床において重要なのは、悪循環の存在である。患者はしばしば「今夜眠れるか」という心配にとらわれ、睡眠を妨げる考え、内的な緊張、覚醒の高まりが互いを強め合って、不眠を持続させている。本症の治療では、認知行動療法(CBT-I、不眠に特化した認知行動療法)が第一選択として国際的に確立している。その効果の大きさはベンゾジアゼピン受容体作動薬(ゾルピデム、ゾピクロンなど)を上回り、効果の長期的な持続にも優れる。ベンゾジアゼピン系薬剤および Z 系薬剤の使用は、リバウンド不眠(中止時にかえって強まる不眠)と依存形成のリスクがあるため、原則として短期間(2–4 週間)に限定されるべきである。CBT-I の実施が難しい場合や効果がない場合の選択肢として、鎮静系抗うつ薬(ミルタザピン、トラゾドンなど)の低用量使用、メラトニン製剤、近年認可されたオレキシン受容体拮抗薬がある。

過眠症群(7A2)

本群は、夜間に十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず、日中に過剰な眠気をきたす状態を含む。代表的な障害として、ナルコレプシー、特発性過眠症、Kleine-Levin 症候群が挙げられる。

ナルコレプシーは、典型的には四つの徴候によって特徴づけられる。入眠発作(単調な活動のときに抑えられずに眠り込んでしまうこと)、情動性脱力発作(カタプレキシー、笑い・驚きなどの感情が動く場面で誘発される、意識は保たれたままの突然の筋の脱力)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)である。病態には、視床下部のヒポクレチン(オレキシン)系の機能障害が関与し、HLA との強い関連(最も特異的には HLA-DQB1*06:02。DR15 ハプロタイプに含まれる)が知られている。発症は典型的には 35 歳以前であるが、診断が遅れる例が多い。治療としては、日中の眠気に対してモダフィニル(第一選択)、メチルフェニデート、ピトリサント、ソリアムフェトールなどが用いられる。カタプレキシーおよび夜間の睡眠障害には、ナトリウムオキシバートが用いられる。

睡眠関連呼吸障害群(7A4)

本群には、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)、中枢性睡眠時無呼吸症、低換気症が含まれる。閉塞性睡眠時無呼吸症は、古典的な推計では人口の 0.5–2 % に認められるとされてきたが、近年の疫学調査はこれを大きく上回る頻度を報告している。40–60 歳の男性および肥満者に多い。本群のなかで、本書の関係諸職種がもっとも頻繁に出会う障害群である。臨床像としては、激しく不規則ないびき、睡眠中に繰り返される呼吸停止(10 秒以上)、日中の過度の眠気、朝の頭痛、注意・記憶の障害、抑うつ症状が挙げられる。なお、精神障害の CDDR には、認知機能の障害が不眠や睡眠時無呼吸などの睡眠・覚醒の障害によってよりよく説明される場合には、軽度神経認知障害(6D71)の診断を追加しない、という境界規定が置かれている(第 18 章参照)。本症は循環器疾患(高血圧の悪化、不整脈、心筋梗塞、脳卒中)のリスクを高める。また、日中の眠気は職務遂行および運転中の事故リスクに直結する。

診断は心呼吸ポリソムノグラフィ(睡眠中の脳波・呼吸・心電図などを一晩かけて同時に記録する検査)によって確定される。標準治療は経鼻持続陽圧呼吸療法(CPAP)である。軽症例では、減量、アルコール・鎮静薬の制限、口腔内下顎前進装置(下あごを前に出させるマウスピース)、寝る姿勢の調整が併用される。本症の治療は、本人の安全(とくに就労場面)、心血管リスクの管理、家族の生活の質の改善のいずれの観点からも、見過ごせない臨床課題である。

概日リズム睡眠覚醒障害群(7A6)

本群は、睡眠と覚醒のリズムが、社会的に望ましい時刻とかみ合わない状態を含む。下位分類として次のものが整備されている。睡眠相後退障害(就床・起床の時刻が著しく遅い方にずれる型で、思春期に発症することが多く、青年の約 10 % に認められる)、睡眠相前進障害(典型的には高齢者にみられる早寝早起き型)、不規則睡眠覚醒型、非 24 時間睡眠覚醒型、シフト勤務障害、時差障害(時差ぼけ)である。

本書の関係諸職種にとって、本群はとくに産業保健領域での重要性をもつ。シフト勤務障害は、夜勤・交代勤務に従事する従業員において、睡眠の質の低下、日中の眠気、消化器症状、心血管リスクの増大として現れる。これは、職場の勤務シフト編成と健康管理にまたがる課題である。治療としては、勤務スケジュールの調整、明るい場所・暗い場所への計画的な暴露(光療法)、メラトニン製剤、シフト勤務時の眠気に対するモダフィニルなどが用いられる。

睡眠関連運動障害群(7A8)

本群には、レストレスレッグス症候群(RLS、むずむず脚症候群)、周期性四肢運動障害、睡眠関連歯ぎしり症(ブラキシズム)、睡眠関連リズム性運動障害、夜間下肢痙攣などが含まれる。

レストレスレッグス症候群は人口の 5–10 % に認められる、比較的頻度の高い障害である。それにもかかわらず、診断の遅れがしばしば問題となる。診断基準としては、次の五項目すべてを満たす必要がある。不快感を伴う脚を動かしたい衝動、安静時・無活動時の出現または悪化、動かすことによる改善、夕方・夜の悪化、そして他の医学的状態・行動による説明が除外できることである。鉄欠乏(フェリチン値〔体内の鉄の貯蔵量を示す血液検査値〕の評価)、腎不全、葉酸・ビタミン B12 欠乏、妊娠との関連が知られている。また、向精神薬(とくにミルタザピン、抗精神病薬)が誘発・悪化の要因となりうる。治療の中心は、鉄欠乏例における鉄補充(経口または静注)であり、それで不十分な場合には非エルゴット型ドパミン作動薬(ロチゴチン、ロピニロール、プラミペキソール)が用いられる。なお、L-ドパは増強現象(augmentation、症状が日中へ広がり強まる現象)の主要な原因となるため、続けて使う治療には推奨されない。

睡眠時随伴症群(7B0)

本群は、睡眠中または睡眠と覚醒の移行時に現れる異常な行動・知覚・体験を含み、ノンレム睡眠覚醒障害群とレム睡眠時随伴症群に大別される。

ノンレム睡眠覚醒障害群には、混乱性覚醒、睡眠時遊行症(夢遊病)、睡眠時驚愕症(夜驚症)、睡眠関連摂食障害が含まれる。睡眠時遊行症と夜驚症は深い睡眠の最中に出現し、夜の前半に集中する。いずれも幼児期・学童期に頻度が高く(少なくとも一回の経験は学童期の 15 % 程度)、目覚めた後、エピソードについての記憶が残らない(健忘)。家族内に集積しやすいことが知られている。

レム睡眠時随伴症群には、レム睡眠行動障害、反復孤立性睡眠麻痺、悪夢障害が含まれる。レム睡眠行動障害は、レム睡眠時に正常であれば働いている筋活動の抑制が外れることで生じる。その結果、夢の内容に対応する複雑な運動行為(殴る・蹴る・走るなど)が現れ、自傷および他害(しばしば寝室内の同伴者への暴力)のリスクを伴う。50 歳以降の男性に多い。神経変性疾患(とくにパーキンソン病、レビー小体型認知症)の前駆症状(本格的な発症に先立って現れる症状)として現れることが知られており、第 18 章で論じた神経認知障害群との関連で臨床的な意義をもつ。CDDR においても、レム睡眠行動障害は、レビー小体病に伴う認知症(6D82)の診断要件に列挙された症状の一つである。悪夢障害は、鮮明で感情を強く伴うエピソードがレム睡眠中に出現するものである。第 7 章で論じた心的外傷後ストレス症との併存が頻繁である。

成人領域における留意点

本群を成人領域で扱う際の留意点として、次の四点を挙げておきたい。

第一に、本群と他の精神疾患との関係である。本群と、本書の他章で扱った多くの障害群、とくに第 4 章気分症群、第 5 章不安または恐怖関連症群、第 12 章物質使用症および嗜癖行動症群とのあいだには、深い相互関連がある。慢性不眠症は抑うつ症の発症リスクを高め、抑うつ症では、睡眠の障害(入眠困難、中途覚醒の増加、早朝覚醒、または過眠)が特徴的な症状の一つとして高頻度に伴う(ICD-11 の抑うつエピソードで必須とされる中核症状は、抑うつ気分または興味・喜びの著しい減退であり、睡眠の障害はそれに並んで数えられる症状の一つである)。アルコール使用症はほぼ全症例で深い睡眠の減少を伴い、長期の使用は睡眠構築(一晩の睡眠の段階的な組み立て)の持続的な変化を引き起こす。本書の関係諸職種が本群の評価に関わる際は、これらの併存や相互の影響を念頭に置く必要がある。

第二に、慢性不眠症における第一選択治療としての CBT-I の重要性である。本邦の臨床現場では、不眠の訴えに対してベンゾジアゼピン系または Z 系薬剤の処方が依然として頻繁に行われている。しかし国際的なガイドラインは、慢性不眠症に対する第一選択を CBT-I に置いている。本書の関係諸職種が産業保健・地域保健の場面で慢性不眠の症例を評価する際は、次の二点を、本人および主治医との共通の理解として確立することが望ましい。薬物療法より先に、CBT-I および睡眠衛生指導(眠りやすくする生活習慣・環境の指導)を選択肢として検討すべきこと。薬物療法を用いる場合は、短期間に限定すべきことである。

第三に、産業保健における本群の臨床的意義である。閉塞性睡眠時無呼吸症は職務遂行および運転中の事故リスクに直結し、シフト勤務障害は夜勤・交代勤務従事者の健康管理の中心的な課題である。本書の関係諸職種には、産業医および主治医との連携のなかで、これらの障害の早期発見、専門医療への橋渡し、職場の勤務編成における配慮について、医学的観点からの提言を行うことが求められる。

第四に、レム睡眠行動障害と神経変性疾患との関連への留意である。本症は近年、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのシヌクレイノパチー(αシヌクレインというタンパク質の蓄積を共通の背景とする一群の神経変性疾患)の前駆症状として、発症の十数年前から認められうることが明らかにされている。本書の関係諸職種が中高年者で本症を疑う症例に出会った場合、専門医療への橋渡しを確保するとともに、長期的な観察の枠組みを整えることが重要となる。それが、神経変性疾患の早期発見・早期介入の機会を保つことにつながる。

本章は、ICD-11 の睡眠・覚醒障害群を扱う。この群は ICD-11 では第 7 章に置かれ、精神・行動・神経発達の疾患を対象とする CDDR(2024)には収載されていない。そのため本章の診断関連の記述は ICD-11 MMS 第 7 章に拠り、臨床的な記述は Lieb K(Hrsg.)『Intensivkurs Psychiatrie und Psychotherapie』(第 10 版, München: Elsevier / Urban & Fischer, 2023)の該当章を参考にした。DSM-5-TR が睡眠・覚醒障害の章を備えるのに対し ICD-11 の精神疾患の章にはこれがなく、産業保健・精神保健の実務では不便が大きいと考えられるため、本書では独立の章として補ったものである。なお CDDR で確認できる範囲(ICD-10 の F51/G47 の統合、「器質性/非器質性」の二分法の廃止、独立の章への配置が精神医療の専門職による診療の対象から外す趣旨ではないこと)は、CDDR 序論の原文と照合した。

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