第5章 不安または恐怖関連症群

知的発達症のある方に見落とされやすい併存症

コア層 約12分/全層 約30分
この章で学ぶこと

不安症は、こころの病気のなかでもっとも多くみられるものです。知的発達症(知的障害)のある方や、つらい経験をした子どもには高い頻度で併発しますが、本人が言葉で訴えられないことが多いため、「行動の問題」と見なされて見落とされがちです。本章では、ICD-11における不安または恐怖関連症群の全体像、それぞれの不安症の臨床像、発作や拒否が目の前で起きているときに職員が何をするか、知的発達症のある方における現れ方、不安症状を引き起こす身体疾患(特に甲状腺疾患)、そして「不安症と決めつけないため」の見分けの視点と医療連携の目安を扱います。

どこから読めばよいか

新任の方・時間のない方は、3節「その場でどうするか」と5節「知的発達症のある方の不安の現れ方」だけをお読みください。これだけで日々の業務に必要な内容は足ります。経験のある方・主任以上の方は、全体をお読みください。とくに6節「不安症と決めつけないために」は、記録の書き方と医療への伝え方を左右します。折りたたみの「もっと詳しく」は、関心のある方向けの補足です。

1. はじめに

不安症は、こころの病気のなかで、いちばん多くみられるものです。子どもや若い人にもよく起こります。CDDRも、不安または恐怖関連症群は小児期・青年期にもっとも多い精神疾患であると述べています(CDDR p.268)。

知的発達症のある方や、つらい経験をした子どもには、さらに多く起こります。けれども、自分の気持ちを言葉でうまく伝えられないことが多いため、「行動の問題」と見られて、不安症であることに気づかれないことがよくあります。

利用者のいちばん近くにいる職員が、「もしかしたら不安症かもしれない」と気づくこと。そして、不安が目の前で噴き出したときに、正しく動けること。この二つが、よい支援の第一歩になります。

もっと詳しく:このマニュアルの背景

このマニュアルは、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)にもとづいています。ICD-11は2019年にWHO総会で承認され、2022年に発効しました。ICD-11は、世界中の臨床家にとって使いやすいことを大切にしてつくられています。

ICD-11では、不安症のなかまが「不安または恐怖関連症群」というグループとして整理しなおされました。前の版(ICD-10)は、日本でも死因統計・傷病統計、診療報酬、公費負担制度などで広く使われてきましたが、臨床の場で診断基準として逐条的に運用されることは限られていました。そのため、現場で覚えなおす負担は大きくないと考えられます。

なお、この分類の歴史的な経緯については、当法人の『精神医学マニュアル』の該当章で扱っています。

2. 不安症のなかま(全体像)

不安症は、「何に対して不安になるか」によって分けられます。CDDRは、この「不安の焦点(何を心配しているか)」に注目することが、それぞれの不安症を見分ける主要な方法の一つだと述べています(CDDR p.265)。

「恐怖」と「不安」のちがい

恐怖は、いま目の前にある危険にたいする気持ちです。

不安は、これから起こるかもしれない危険にたいする気持ちです(CDDR p.265)。

診断は医師が行います。次の表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。

コード名前何をこわがるか現場で最初に見えるサイン
6B00 全般不安症 いろいろなことが、いつも気になる 同じ質問をくり返す、腹痛・頭痛の訴え、そわそわ、眠れない
6B01 パニック症 とつぜん強い発作がおこる 突然の過呼吸・ふるえ・泣き叫び。数分で最大になる
6B02 広場恐怖症 逃げられない・助けを呼べない場所 外出・送迎車・人混みを避ける、付き添いを強く求める
6B03 限局性恐怖症 特定のもの・状況(動物、高所、注射など) その対象が出る場面だけ固まる・叫ぶ・逃げる
6B04 社交不安症 人から悪く思われること 集団活動に入れない、声が極端に小さい、視線を合わせない
6B05 分離不安症 大切な人と離れること 特定職員から離れられない、別れ際の腹痛・嘔吐、夜の不穏
6B06 場面緘黙症 (特定の場面で話せなくなる) 家では話すのに、施設や学校では話さない

このほかに、どれにも当てはまらない場合の「他の特定される不安または恐怖関連症(6B0Y)」「不安または恐怖関連症、特定不能(6B0Z)」があります(CDDR p.265)。

もっと詳しく:ICD-11で新しくなった点

職員の観察・記録に関係する変更にしぼって示します。

強迫症は、このグループから分かれました。強迫症は「強迫症または関連症群」という別のグループになり、身体醜形症、自己臭症、心気症、ためこみ症、抜毛症、皮膚むしり症などとまとめられました。詳しくは第7章で扱います。(このグループ分けの理由については、当法人の『精神医学マニュアル』の該当章で扱っています。脳科学的な説明としてしばしば紹介されるものは、CDDRの記載ではありません。)

分離不安症は、おとなでも診断できます。おとなでは、配偶者・恋人・子どもとの分離が焦点になります(CDDR p.289)。

場面緘黙症が、このグループに入りました。社交不安症の一種として理解されることが多い状態です(CDDR p.293)。

パニック症と広場恐怖症は、別々に診断できます。ただし条件があります。広場恐怖症の方の発作が広場恐怖の場面のなかだけで起こっているなら、パニック症は追加せず「パニック発作を伴う」という特定用語で示します。予期しない(とつぜん・理由のない)パニック発作も起きている場合に限り、パニック症の診断を追加してよい、とされています(CDDR p.278)。

「パニック発作を伴う(MB23.H)」というしるし(特定用語)が使えるようになりました。パニック発作は、ほかの不安症でも起こるからです。ただし場面緘黙症には通常適用されません(CDDR pp.296–297)。

持続期間の要件は「数か月」を目安とする書き方になりました。ただし書き方は一様ではありません。全般不安症だけは「少なくとも数か月、症状のない日より症状のある日が多い状態で」という断定形(CDDR p.266)、広場恐怖症・限局性恐怖症・社交不安症・分離不安症は「長期間(例:少なくとも数か月)」という例示形(CDDR pp.276, 280, 284, 289)、場面緘黙症は「少なくとも1か月。ただし就学後の最初の1か月に限られないこと」という条件つき(CDDR p.293)です。

3. その場でどうするか

この節は、不安が目の前で噴き出しているときに、職員が実際に何をするかをまとめたものです。観察・記録・報告に加えて、「その場の対応」を第四の柱として身につけてください。

パニック発作が起きているとき

その場でどうするか

突然、動悸・過呼吸・ふるえ・強い恐怖が始まり、数分のうちに最も強くなったとき

  1. まず、けがを防ぐ──倒れたりぶつかったりしそうなもの(椅子、机の角、熱いもの)を、本人ではなくまわりのものをどける。無理に立たせない、抱えて運ばない。
  2. 次に、刺激を減らす──テレビ・音楽を消し、照明を落とし、集まってきた人に離れてもらう。本人が自分で歩けるようなら、静かな場所へ誘う。動かないなら、その場でよい。
  3. そばに残り、短く伝える──「そばにいます」「ここは安全です」「すぐおさまります」。10文字くらいの短い文を、低い声で、ゆっくり、間をあけてくり返す。質問はしない。
  4. 時計を見る──始まった時刻を確認する。個々のパニック発作はふつう数分でおさまります。それより長く続くこともあります(CDDR p.272)。
  5. 呼吸は本人にまかせる──「大きく吸って」「息を止めて」と命じない。職員が自分のゆっくりした呼吸を見せる程度にとどめる。
  6. ふだんと違うと感じたら、判断せずに医療へつなぐ──初めての発作、強い胸の痛みが続く、意識がはっきりしない、けいれん、唇や指先が青い、けが。これらがあるときは、パニック発作と決めつけずに、その場で医療職に連絡する(必要なら救急要請)。
  7. おさまったら、いつもの日課に静かに戻す──水分をすすめ、しばらく静かに過ごせるようにする。「なぜああなったの」と問いつめない。責めない。特別扱いもしすぎない。
  8. その日のうちに記録する──下の6項目は必ず書く。
    • 始まった時刻/おさまった時刻(=続いた時間)
    • 直前に何があったか(場所・人・音・要求されたこと)
    • どんな症状が見えたか(呼吸、顔色、発汗、ふるえ、言葉)
    • 職員が何をしたか
    • どうやっておさまったか(自然に/場所を変えて/誰かが来て)
    • おさまったあとの様子(疲労、眠り込み、その場を避けるようになったか)
してはいけないこと
  • 紙袋を口にあてて呼吸させる(紙袋呼吸)──現在は行ってはいけません。血液中の酸素が下がる危険があり、また心臓や肺の病気による症状だった場合に発見が遅れるためです。過換気(速く浅い呼吸)に対しても行わせないでください。
  • 大声で励ます・叱る・急がせる──刺激が増え、発作が長引きます。
  • 身体を強く押さえる、羽交い締めにする──恐怖が強まり、けがの原因になります。押さえるのは、本人や他人に危険が及ぶときだけにとどめ、その場合も応援を呼んでから行います。
  • 「気のせい」「大げさ」と言う──本人には本当に苦しい体験です。信頼を失い、次から隠すようになります。
  • 発作の最中に、原因や気持ちを聞き出そうとする──不安が高いときは言葉が届きません。聞くのは落ち着いてからにします。

不安による拒否・怒りに出会ったとき

CDDRは、パニック症・広場恐怖症・限局性恐怖症・社交不安症の項で、同じ注意をくり返しています。不安・恐怖・パニックを引き起こす状況に限って反抗的な行動や怒りの爆発が出るのであれば、反抗挑発症の診断は通常適切でない、というものです(CDDR pp.275, 279, 283, 288)。現場に翻訳すると、次のようになります。

その場でどうするか

入浴・通院・送迎・集団活動など、特定の場面に限って、拒否・かんしゃく・怒りの爆発が出たとき

  1. まず距離をとる──1メートル以上離れ、正面ではなく斜め前か横に立つ。手は見える位置に置く。他害の可能性があるときは、先に応援を呼び、ほかの利用者を離す。
  2. 要求をいったん取り下げる──「今はやめましょう」と一度だけ伝える。説得を続けない。
  3. 逃げ道を残す──出口や、戻れる部屋への通り道をふさがない。人で囲まない。
  4. 収まるのを待つ──指示・質問・声かけを重ねない。落ち着いてきたら、水分や休憩をすすめる。
  5. 段階を下げてやり直す──「浴室に入る」ではなく「脱衣所のドアの前まで行く」など、一段やさしい形で提案する。できたところで終える
  6. 場面を書きとめる──どの場面で/何を求めたときに/どんな行動が/どのくらい続き/何をしたら収まったか。「特定の場面に限って出るのか、場面を問わず出るのか」は、医師がもっとも知りたい情報です。
  7. 職員間で共有する──同じ場面で職員によって対応が違うと、不安はさらに強くなります。
してはいけないこと
  • 力ずくで従わせる──恐怖が強まり、次はもっと早く、もっと激しく出るようになります。
  • 「反抗的」「わがまま」とだけ記録する──不安が原因の拒否を、反抗挑発症などの行動の問題と取り違える原因になります。行動の名前ではなく場面を書いてください(CDDR pp.275, 279, 283, 288)。
  • 罰を与える・楽しみをとりあげる──不安は罰では減りません。関係が壊れ、支援全体が難しくなります。
  • その場で説得を続ける──不安が高いときは言葉が届きません。

爆発が起きている最中の一般的な対応(前兆・発生時・収束後の三段階)は、第3・4章で詳しく扱っています。あわせてお読みください。

段階的に慣れていく支援をするとき

こわい場面を完全に避けさせ続けると、短期的には楽になりますが、長い目で見ると不安は強くなります。少しずつ慣れていけるよう支援することが大切です。ただし、この支援は、必ず医療職・心理職と相談のうえ、計画として合意してから行ってください。職員の判断だけで「思いきってやらせてみる」のは、強い恐怖体験を新たにつくるだけで、逆効果になります。

その場でどうするか

こわい場面を避け続けている方に、少しずつ慣れてもらう関わりを始めるとき

  1. まず相談する──嘱託医・看護師・心理職に相談し、「誰が・どの場面で・どこまで」を計画として決める。合意なしに始めない。
  2. 目標を一つに絞る──「外出できるようにする」ではなく「送迎車の座席に1分すわる」のように、その場で達成できたかどうかが分かる形にする。
  3. 段階を書き出す──不安の低いものから高いものへ、5段階程度に分ける。(例:①車を窓から見る ②車の横まで行く ③ドアを開ける ④座席にすわる ⑤エンジンをかけた車にすわる)
  4. 本人に選んでもらう──今日はどの段階までやるかを、絵カードや実物で示して選んでもらう。選べたこと自体をねぎらう。
  5. できたところで終える──成功で終える。「せっかくだからもう一歩」を足さない。次への意欲がなくなります。
  6. 同じ段階をくり返す──その段階が楽にできるようになってから次へ進む。何回でくり上げるかは決めず、本人の様子で決める。
  7. 記録して次に渡す──実施した段階/かかった時間/表情・身体のサイン/どこでやめたか/次回の段階。
してはいけないこと
  • こわい場面にいきなり長時間さらす(いわゆる「荒療治」)──強い恐怖体験になり、回避がかえって強く固定します。医療職・心理職の計画なしに行わないでください。
  • 泣いている・パニックになっている段階で続ける──その回はそこで終えます。「泣いてもやり通す」は逆効果です。
  • だまして連れて行く──「散歩」と言って通院させるなど。一度で信頼を失い、以後すべての外出が拒否になります。
  • ごほうびで押し切る──ごほうびは段階を選べたことに対して使い、恐怖に耐えさせるための道具にしない。
  • 完全に避けさせ続ける──その場は静かになりますが、避ける場面がじわじわ広がります。

4. それぞれの不安症

以下の不安症はいずれも、症状が短期間で終わらず長くつづくことが診断の条件です。ただしCDDRの書き方は一様ではありません。全般不安症だけは「少なくとも数か月、症状のない日よりも症状のある日のほうが多い状態で」という断定形です(CDDR p.266)。広場恐怖症・限局性恐怖症・社交不安症・分離不安症は「長期間(例:少なくとも数か月)」という例示形で、数か月は目安として挙げられています(CDDR pp.276, 280, 284, 289)。場面緘黙症だけは「少なくとも1か月。ただし就学後の最初の1か月に限られないこと」という条件つきです(CDDR p.293)。引っ越しや職員交代の直後などに数日〜数週間だけみられるこわがりや回避は、多くの場合正常な反応の範囲です。ただし記録は続けてください。

全般不安症(6B00

いろいろなことが、いつも気になり、心配しつづける状態です。心配の対象は、仕事、健康、家族、お金など、日常生活のさまざまな面におよびます。こうした状態が一時的なものではなく、数か月以上、症状のない日よりも症状のある日のほうが多いという頻度でつづくときに診断されます(CDDR p.266)。

つぎのような症状をともないます(CDDR p.266)。

現場で気づくポイント

知的発達症のある方では、「心配ごと」を言葉にできないことが多いです。かわりに、つぎのような形で現れます。

・腹痛や頭痛をくり返し訴える
・同じ質問を何度もする(安心を求める行動)
・予定の変更にひどく動揺する
・いつも何かにおびえているように見える

CDDRも、心配の内容を言葉にできず、慢性の身体症状だけを訴える方がいること、また安心を求めて何度も確認する行動や先延ばしが「不安を減らそうとする努力」として現れることを述べています(CDDR p.267)。

もっと詳しく:全般不安症

ICD-11では、全般不安症の「著しい不安症状」は、2つのどちらかの形で現れればよいとされています。ひとつは、特定の状況にしばられない自由浮動性不安(free-floating anxiety。何か一つのことではなく、漠然と全体的に落ち着かない不安)。もうひとつは、日常生活のいくつもの面(仕事・お金・健康・家族など)についての過度の心配です。自由浮動性不安がこの2択の一方として残されたことは、心配の内容を言葉にできない方の評価にも役立ちます(CDDR p.266)。

子どもでは、ルールに過度にこだわる、仲間の行動を監視して報告する、完璧主義で宿題に異常に時間がかかる、安心を求めて何度も確認する、といった形で現れることがあります。頭痛・腹痛などの身体症状が前面に出ることも多く、寝つきの悪さや夜間の覚醒もみられます(CDDR p.268)。

発症はどの年代でも起こりますが、多いのは30代前半から半ばです。症状は閾値を上下しながら波打つことが多く、完全に消えてしまうこと(完全寛解)はまれです(CDDR p.267)。

パニック症(6B01

パニック発作が、くり返しおこる病気です。

パニック発作とは、つぎのような症状が、とつぜん始まり、急速に同時に現れる状態です(CDDR p.271)。

発作の少なくとも一部は、「とつぜん」「理由なく」おこります。そして発作のあとに、持続する心配(また発作が来るのではないか、心臓の病気ではないか)が残るか、発作を避けるための行動の変化(信頼できる人としか外出しない、など)がみられることが、診断の要件です。CDDRは持続の目安として「例:数週間」を挙げています(例示であって、線引きではありません)(CDDR p.271)。

現場で気づくポイント

知的発達症のある方は、発作の体験を言葉で説明できないことが多いです。とつぜんの激しい身体症状(過呼吸、嘔吐、ふるえ)、激しい泣き叫び、自傷行為、暴力的な行動として現れることがあります。

とつぜん」「短い時間で最も強くなる」エピソードのくり返しに注目してください。夜中にとつぜん目がさめてパニックになること(夜間パニック発作)もあります(CDDR p.272)。

個々の発作はふつう数分ですが、それより長引くこともあります。頻度は人によって大きく違い、1日に何度もという方から月に数回という方までいます(CDDR p.272)。

もっと詳しく:パニック症

パニック発作は、パニック症だけでなく、ほかの不安症(広場恐怖症、社交不安症、限局性恐怖症、分離不安症)や、強迫症、PTSDなどでも起こります。ほかの病気の文脈だけで起こる場合は、その診断に「パニック発作を伴う(MB23.H)」というしるしを付けます。「とつぜん・理由なく」の発作もあるときは、パニック症の診断が追加されます(CDDR pp.275, 296–297)。

パニック症は、不安症のなかでも生活への支障が大きいものの一つです。救急外来をくり返し受診し、心臓や呼吸器の検査を何度も受けても異常が出ない、ということが起こります(CDDR p.272)。施設では、救急搬送の記録が積み重なっているのに診断がついていない、という形で気づかれることがあります。

発症は20代前半が典型です(CDDR p.273)。時間がたつと、発作が特定の場所(電車、エレベーター、人混み)と結びつき、その場所を避けるようになります。これが進むと広場恐怖症を併発することがあります(CDDR p.274)。

広場恐怖症(6B02

「もし困った症状がおきたら、逃げられない」「助けが得られない」と感じる場所に対する、強い恐怖です(CDDR p.275)。

こわがる場所の例:

おそれているのは場所そのものではなく、そこで起きたら困ることです。パニック発作のほか、倒れる失禁する嘔吐するといった「体が言うことをきかなくなる/恥をかく」出来事が焦点になります(CDDR pp.275–276)。これらの場所を避けるか、付き添いがあるときだけ行ける状態になります。重症になると外に出られなくなり、就労や受診ができなくなります(CDDR p.276)。

もっと詳しく:広場恐怖症

パニック発作の経験がある方が広場恐怖症になることは多いですが、パニック発作がなくても診断できます。実際、その状況を避けているために発作がまったく起きていない方もいます(CDDR p.276)。

「安全確保行動」がよくみられます。付き添いを求める、決まった時間帯にしか行かない、薬やタオルを必ず持って出る、などです。同じ人が日によって違う方法を使うこともあります(CDDR p.276)。持ち物へのこだわりを「変な習慣」と見ずに、不安への対処として記録してください。

発症は10代後半が典型で、大部分は35歳までに発症します。パニック症の既往がない方では、20代半ば〜後半とやや遅くなります。小児期の発症はまれです。慢性に経過しやすく、抑うつ症群、気分変調症(軽いうつ状態が長く続くもの)、物質使用症の併発リスクが高くなります(CDDR p.277)。

限局性恐怖症(6B03

特定のもの・状況に対する、強い恐怖です。実際の危険の程度につりあわないほど強い恐怖になります(CDDR p.280)。

よくみられる対象(CDDR p.280):

ひとりの方が複数の対象をこわがることのほうが多く、その場合も診断は一つにまとめられます(CDDR p.280)。

現場で気づくポイント

就学前の子どもでは、恐怖が凍りつき(動かなくなる)・かんしゃく・泣きとして現れます。年齢に応じた恐怖との区別は、続く時間・頻度・強さで行います(CDDR p.281)。この見方は、言葉での説明が難しい成人の方の観察にもそのまま使えます。

通院や歯科受診のたびに固まる、注射の場面だけ激しく抵抗する、という形で施設でも日常的に出会います。

もっと詳しく:限局性恐怖症

子どもでは3歳ごろから現れることがあります。年齢に応じた恐怖(幼児が暗闇をこわがるなど)は正常な発達の一部です。CDDRは、限局性恐怖症と診断するのは、同じ発達水準にある人と比べて明らかに過度である場合にのみ診断されるべきである、と述べています(CDDR p.281)。原語は at a similar developmental level(同様の発達水準にある他の人と比べて)です。

血液・けが・注射への恐怖症では、血管迷走神経反応(急に血圧と脈が下がって気が遠くなる体の反応)により失神することがあります。ほかの恐怖症とは異なる特徴です。注射のときに気分が悪くなる方には、横になった姿勢で行うなどの配慮を医療職と相談してください(CDDR p.280)。

初発は7〜10歳がもっとも多いとされます。子ども時代から思春期・成人期まで続いた限局性恐怖症が、自然に消えることはまれです(CDDR p.281)。

社交不安症(6B04

人から否定的に評価されることを、強くおそれる状態です。会話をする、人に見られながら何かをする(食事など)、人前で発表する、といった場面が焦点になります(CDDR p.284)。

これらの場面を避けるか、強い不安をかかえながら耐えることになります。本人は、赤面、発汗、ふるえなどの身体症状のほうを気にしていて、「人にどう思われるか」を最初は口にしないことも多いです(CDDR p.284)。

もっと詳しく:社交不安症

発症は8〜15歳に多く、就学とともに目立ってくることが多いです。「行動抑制」(新しい状況を苦痛に感じて避けようとする気質。新しい人や場になじむのに時間がかかる)はリスク因子ですが、それ自体は正常な気質の幅です(CDDR pp.285–286)。

知的発達症のある方では、新しい職員や利用者との場面で過度におびえる、グループ活動に参加できない、視線を合わせない、声が極端に小さくなる、といった形で現れます。CDDRも、会話量を減らす・視線を合わせないといった目立たない回避がよく使われることを述べています(CDDR p.286)。

不安をやわらげるためにアルコールに頼ることがあり、物質使用症の併発リスクが高くなります(CDDR p.284)。

日本には「対人恐怖症(taijin kyofusho)」という独自の概念があり、CDDRでも文化に関連する特徴として言及されています。自分の不適切な振る舞い──視線・表情・赤面・体臭・腹鳴など──が他人を不快にさせるのではないかという心配が中心になるものは、社交不安症の一つの形を表しうるとされます。CDDRは続けて、「対人恐怖症の他の現れ方は、妄想症、身体醜形症、または自己臭症の診断によってよりよく捉えられることがある」と述べています(CDDR p.286)。「対人恐怖」という言葉で括らず、何をどう心配しているかを記録してください。

分離不安症(6B05

深い情緒的な結びつきのある相手(愛着対象)と離れることに対する、強い恐怖です。子どもでは親や養育者、おとなでは配偶者・恋人・子どもが対象になります。子ども・青年では、その恐怖や不安が発達的に正常とみなされる範囲を超えていることが条件です(CDDR p.289)。

つぎのような形で現れます(CDDR p.289)。

現場で気づくポイント

施設では、特定の職員から離れられない、その職員が休みの日だけ荒れる、という形でよく見えます。職員の異動・退職は、分離不安のある方にとって大きな出来事です。予告と引き継ぎを計画的に行ってください。

児童養護施設では、虐待を受けた子どもが信頼できる職員を見つけたとき、その職員から離れることに極端な恐怖を示すことがあります。

不登校・通所拒否が分離不安によるものか、社交不安によるものか、あるいはほかの原因によるものかを見分けることが大切です。CDDRは、青年期の登校拒否は分離への不安よりも、怠学・仲間からの拒絶・いじめによることが多いと述べています(CDDR p.290)。

もっと詳しく:分離不安症

年少児では、養育者のあとを常についてまわる、別の部屋や別の階にいるだけで取り乱す、といった形で現れます。年長児・青年では、親が事故にあう・誘拐されるなどの具体的な恐れを語り、友人より家族と過ごすことを強く好むようになります(CDDR p.291)。

生涯有病率は女性でやや高く、女性5.6%・男性4%と報告されています。ただし小児期の登校拒否の頻度に男女差はありません(CDDR p.291)。

分離不安症は、抑うつ症群、双極症、ほかの不安症のリスクの高さと関連することが報告されています。秩序破壊的または非社会的行動症やADHDについても、リスクの高さを示す証拠があるとされます。いずれも「関連が認められる」という記述で、因果関係を述べたものではありません(CDDR p.290)。

CDDRは、反抗挑発症との見分けについて、怒り・易刺激性・かんしゃく・拒否がもっぱら愛着対象との分離(実際の分離、または分離が予想される場面)でのみ起こるなら、それは分離不安症の症状である、と述べています(CDDR p.292)。

場面緘黙症(6B06

家庭ではふつうに話せるのに、学校など特定の場面では一貫して話せなくなる状態です(CDDR p.293)。

診断の要件は次のとおりです(CDDR p.293)。

もっと詳しく:場面緘黙症

場面緘黙症は、社交不安症の一種として理解されることが多い状態です。話す場面での否定的な評価への恐怖が背景にあります(CDDR p.293)。

社交不安症との違いは、発症がより早いこと(多くは5歳未満。ただし就学時に初めて問題として現れることが多い)、わずかな言語の問題をともなうことがあること、話すよう求められたときに反抗的にみえる行動がみられることです(CDDR p.293)。話すことの拒否が場面緘黙症の特徴で完全に説明できる場合には、反抗挑発症の診断を併記すべきでない、とCDDRは述べています(CDDR p.294)。

平均8年ほど続いたあとに症状が薄れていくことが多いですが、社交不安症などの不安症が残ることもあります(CDDR p.294)。

表出言語(話す力)の直接評価は難しいですが、指示にしたがって動いたり絵を指さしたりする課題(受容言語=聞いて理解する力の検査)には協力することが多く、言語水準の見当をつける助けになります(CDDR p.293)。

5. 知的発達症のある方の不安の現れ方

知的発達症のある方の不安症は、見落とされやすいです。理由は、つぎの通りです。

不安症をうたがうサイン

・以前は平気だった場所や活動を急に避けるようになった
・同じ質問をくり返す
・常同行動が急に増えた
・夜眠れなくなった
・食欲が落ちた、おなかや頭の不調をうったえる
・特定の職員にひどく依存し、その人がいないと激しく動揺する
・とつぜん攻撃や自傷が出るようになった
・以前できていたことができなくなった(退行)

重症度による現れ方の違い

知的発達症の重症度によって、不安の見え方は大きく変わります。認知・言語の力が比較的高い軽度では、症状はかなり定型発達の成人に近い形で現れます。重度・最重度になるほど、症状は言語化されず、行動や身体症状として表現されます。

領域軽度知的発達症中等度知的発達症重度・最重度知的発達症
不安の訴え 「こわい」「心配」と言葉にできる。何がこわいかを部分的に説明できる 「いや」「行かない」など短い拒否として出る。理由の説明は断片的 言葉にならない。表情・声・身体の緊張から読みとるほかない
回避 特定の場所・人・活動を意識的に避ける。理由を聞けば答えられることがある その場面になると動かない、部屋に入らない、行き先を変えようとする 強い拒否行動(叫ぶ、暴れる、床に伏せる、固まる)。場面と結びついていることが手がかり
身体症状 動悸・発汗・ふるえ・腹痛・頭痛を自分から訴えられる 腹痛・頭痛・吐き気を、身ぶりや不定の訴えとして表す。頻回の受診要求 嘔吐、失禁、頻回の排泄、食事量の急な低下として現れる。訴えは出ない
行動の変化 確認・質問がふえる。飲酒や過度の休息など、不安を避ける習慣がつくことがある 同じ質問のくり返し、特定職員へのはりつき、活動からの離脱 常同行動の激化、自傷、他害、多動、凍りつき(急に動かなくなる)
睡眠 寝つけない、夜中に目がさめると訴えられる 就床を渋る、夜間に部屋を出てくる 夜間の覚醒・徘徊・叫声。日中の傾眠として現れることもある
観察の要点 本人の説明と、実際の行動の両方を記録する 行動観察が主な手がかり。「いつもと違う」への気づきが鍵 行動観察がほぼ唯一の手がかり。ふだんの状態(ベースライン)からの変化として捉える

※ この表は、CDDRが各疾患の「発達段階による現れ方(developmental presentations)」に記載している内容(たとえば就学前の子どもでは恐怖が凍りつき・かんしゃく・泣きとして現れること〈CDDR p.281〉、不安が身体症状として前面に出ること〈CDDR pp.266, 268〉、安心を求める行動として現れること〈CDDR p.267〉)を、当法人の観察の枠組みに沿って整理したものです。CDDRに「知的発達症のある人の不安症」という独立した表があるわけではありません。

もっと詳しく:診断の覆い隠し(diagnostic overshadowing)について

「診断の覆い隠し」とは、知的発達症のある方の行動上の変化が、すべて知的発達症そのものに原因があるとされ、その結果として併発している精神疾患(不安症、うつ病など)が見落とされる現象をいいます。

現場の職員が「いつもとちがう」「以前とちがう」と気づくことが、診断の覆い隠しを防ぐ最大の手段になります。この考え方は第1章で詳しく扱っています。

あわせて、CDDRが限局性恐怖症の項で「同じ発達水準にある人と比べて過度かどうかで判断する」と述べている点(CDDR p.281)にも注意してください。

6. 不安症と決めつけないために

気づくことと同じくらい大切なのが、不安症ではないものを不安症と呼ばないことです。CDDRは、正常との境界、および他の疾患との境界について、いくつもの記述を置いています。そのうち、当施設の利用者に直接関わる四つを取り上げます。

① 障害や医学的疾患のある人の回避について、CDDRが述べていること

CDDRは、次のように述べています。

障害や医学的疾患のある人は、動けなくなること・恥をかくことについてのもっともな心配から、特定の状況を避けることがある(例:移動に制限のある人が、初めての場所に段差や設備の問題があるのではと心配する。クローン病のある人が、突然の下痢を心配する)。広場恐怖症は、その不安と回避が、その障害や健康状態から予想される程度を超える機能障害をもたらす場合にのみ診断すべきである(CDDR p.277)。

社交不安症についても、CDDRは次のように述べています。「社交不安症の追加の診断は、すべての診断要件が満たされる場合にのみ与えられるべきであり、その際、医学的疾患の目に見える症状をもつ人が、自分の症状が他者にどう受け取られるかについていくらかの懸念を抱くことは正常であることを考慮に入れる」(CDDR p.288)。

以下は本マニュアルの運用上の考え方です。当施設の利用者には、身体障害、てんかん、失禁、嚥下の問題、視覚・聴覚の問題を合併している方が多くいます。「外出をいやがる」「人混みに行きたがらない」というだけで不安症を疑うのは早すぎます。

記録すべきこと:本人がその場面で実際に困った経験があるか(転倒した、失禁した、迷子になった、体調が急変した)。設備や介助の条件を整えたときに、回避が減るかどうか。この二点を、医療スタッフに伝えてください。

② 不安に伴う易刺激性・怒り・不従順について、CDDRが述べていること

CDDRは、パニック症(p.275)、広場恐怖症(p.279)、限局性恐怖症(p.283)、社交不安症(p.288)と、四か所でまったく同じ文言の注意をくり返し述べています。※分離不安症(p.292)・場面緘黙症(p.294)にも近い趣旨の記載がありますが、文言は異なります。

易刺激性、怒り、指示への不従順は、子どもや青年の不安にともなって現れることがある。たとえば、不安を感じさせる状況に入るよう求められたときに、怒りの爆発を示すことがある。反抗的な行動が、不安・恐怖・パニックを引き起こす状況や刺激によって引き起こされたときにだけ起こるのであれば、反抗挑発症の診断は通常適切ではない(CDDR p.288ほか)。

以下は本マニュアルの運用上の考え方です。観察では、次の点を分けて記録してください。

記録では、行動の名前(「反抗」「暴力」「わがまま」)ではなく、場面と、そのとき求めていたことを書いてください。これが医師にとって決定的な情報になります。反抗挑発症・素行・非社会的行動症については第3・4章を参照してください。

③ 自閉スペクトラム症・知的発達症との境界

当施設の利用者では、これがもっとも迷う見分けです。CDDRは二か所で次のように述べています。

社交不安症と自閉スペクトラム症:「自閉スペクトラム症のある人と社交不安症のある人は、どちらも社会的に引きこもっているように見えることがある。しかしながら、自閉スペクトラム症のある人は、社会的コミュニケーションの欠陥が存在すること、および典型的には社会的相互交流への関心の欠如によって、区別されうる」(CDDR p.288)。

場面緘黙症と自閉スペクトラム症・知的発達症:自閉スペクトラム症や知的発達症で言語・コミュニケーションの制限があるとき、その制限はあらゆる環境・あらゆる社会的場面にわたって目立ちます。これに対して場面緘黙症は、話せる場面と話せない場面がはっきり分かれているのが特徴です(CDDR p.295)。発達性発話または言語症群との区別も同じ考え方です。ただしこちらについてCDDRは、場面緘黙症は発達性発話または言語症群と併存することがあり、必要であれば両方を診断してよいと明記しています(CDDR p.295)。場面緘黙症の方に軽い発音・表出言語の困難がみられることはありますが、その多くはわずかなもので、機能は通常の範囲におさまるとされます。

職員が記録すべきこと:「話す/話さない」「関わる/関わらない」が、場面によって変わるかどうか。家庭では話すのか。特定の職員とだけ話すのか。人数が少なければ関わるのか。この一点だけで、医師の判断は大きく変わります。自閉スペクトラム症・知的発達症については第1章を参照してください。

④ 強いストレス状況・現実の脅威への反応について、CDDRが述べていること

CDDRは、全般不安症について「きわめてストレスの強い状況(例:戦時下で生活している)にある人は、その環境にふさわしい強く、生活に支障をきたす不安と心配を経験することがある。そうした状況の下でのみ起こるのであれば、全般不安症の症状とみなすべきではない」と述べています(CDDR p.267)。またパニック発作についても、「その人の身体的・心理的なまとまり(integrity:不可侵性)に対する現実の脅威への反応として起こるパニック発作は、正常な反応の連続線上にあるものとみなされ、診断は妥当でない」としています(CDDR p.272)。さらに、現実的な心配が、背景の情報がないために「過度」と誤って判断されることがある、とも注意しています(CDDR p.269)。

以下は本マニュアルの運用上の考え方です。他害のある同室者がいて、実際にたたかれた経験のある利用者がおびえているとき。工事の騒音が続いているとき。担当職員が交代したばかりのとき。こうした場面では、まず環境を変えることを検討してください。居室の変更、動線の分離、見守りの強化が先です。環境を整えても不安が続く場合に、はじめて医療への相談を考えます。

7. 不安をひきおこす身体の病気

不安症状は、こころの病気だけでなく、身体の病気や薬の影響でもおこります。CDDRも、不安症状がほかの医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の現れではないこと、また物質や医薬品の作用・離脱によるものではないことを、診断の要件に含めています(CDDR pp.266, 271)。

甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、低血糖、不整脈、心不全、てんかん、気管支喘息、肺塞栓症、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、認知症、パーキンソン病、脳腫瘍など。

薬や物質の影響でも不安症状がおこります。CDDRは、カフェイン、コカインなどの中枢神経系への作用と、アルコールやベンゾジアゼピン系薬剤の離脱を挙げています(CDDR pp.266, 271)。施設では、抗精神病薬による「アカシジア(じっとしていられず、足がむずむずして動き回ってしまう副作用)」の見落としにも注意が必要です。

甲状腺の病気には特に注意してください

甲状腺の病気(特に甲状腺機能亢進症)は、不安症と非常によく似た症状を出します。動悸、発汗、ふるえ、落ち着きのなさ、体重の減少などです。

知的発達症のある方は、こうした症状を自分から訴えることができないことが多いため、見落とされやすい病気です。

さらに大事なことは、医療保険のしくみのため、甲状腺の検査はルーティーンには行われないということです。そのため、お医者さんも気づくのが遅れることがあります。

甲状腺の腫れ(首の前のふくらみ)に最初に気づくのは、毎日入浴介助や着替えの介助をしている現場の職員です。首の前にふくらみがある、以前よりふくらんでいる、と感じたら、必ず医療職に伝えてください。

あわせて、つぎのような変化に気づいたら、甲状腺の病気を念頭において医療相談を行ってください。

8. 日常の支援と医療への相談

日常の支援で大切なこと

医療への相談を考える目安

つぎのような場合は、嘱託医や精神科医への相談を考えてください

・攻撃や自傷が、ひんぱんに、または激しく出ている
・食事、入浴、排泄、睡眠に大きな支障が出ている
・パニック発作と思われる発作がくり返し起こっている
・発作のあとに、また来るのではないかという不安や、それを避けるための行動の変化が続いている(CDDRは目安として「例:数週間」を挙げています。CDDR p.271)
・身体の症状がはっきりしていて、身体の病気の検査が必要(特に首の前のふくらみ、体重の変化)
・薬を変えたあとに不安症状が出てきた、または悪化した
・支援を工夫しても、数週間以上、状態が変わらない
・外出が完全にできなくなった、食事が完全にとれなくなった

医療職に伝える情報

嘱託医や精神科医に相談するときは、つぎの情報を整理して伝えてください。

この章のまとめ

不安症は「何をこわがっているか」で分かれます。診断の名前を当てるのは医師の仕事ですが、どの場面で・どんな行動が・どのくらい出たかを書けるのは職員だけです。

パニック発作の最中は、けがを防ぎ、刺激を減らし、短い言葉でそばにいて、時間を計り、記録します。紙袋呼吸は行いません。不安による拒否・怒りには、距離をとり、要求を下げ、逃げ道を残します。段階的に慣れる支援は、必ず医療職・心理職の計画のもとで行います。

同時に、不安症ではないものを不安症と呼ばないことも大切です。障害や身体の病気からくるもっともな回避、実際に危険のある環境への正当な反応、自閉スペクトラム症・知的発達症による場面を問わない特徴は、いずれも不安症とは区別されます(CDDR pp.267, 272, 277, 288, 295)。

そして、不安によく似た症状を出す身体の病気、とりわけ甲状腺の病気を忘れないでください。首の前のふくらみに最初に気づけるのは、入浴介助をしている職員です。

本章の記述は、WHO『Clinical Descriptions and Diagnostic Requirements for ICD-11 Mental, Behavioural and Neurodevelopmental Disorders』(CDDR, Geneva: WHO, 2024)と照合し、有病率などの数値を含め、CDDRの記載に統一しています(2026年8月改訂)。CDDRの日本語版が刊行され、日本国内の数値が示された際には、あらためて追記する予定です。