ICD-11 に基づく神経発達症群と併存症の臨床マニュアル

知的発達症に関わる施設スタッフのための臨床ガイド(改訂3版)

このマニュアルの目的

知的発達症をもつ方々への支援には、中核となる特性の理解だけでなく、併存する多様な精神的・行動的問題への深い洞察が求められます。本マニュアルは、最新の国際疾病分類ICD-11に基づき、施設職員が日々の支援で遭遇する行動の背景を多角的に理解し、より質の高いケアを提供するための共通言語と臨床的視点を提供することを目的としています。

目次

マニュアルは複数の章に分かれています。新人の方は、まず第1章「神経発達症群」から順にお読みいただくことを推奨いたします。

利用方法

三層構造の学習設計

本マニュアルは、職員の経験年数や勤務状況に応じて柔軟に活用できるよう、以下の三層構造で設計されています。

第1層 コア層(必読) 新人を含むすべての職員が把握すべき基本情報 本文として常に表示されます。1章あたり5〜10分で読了可能 第2層 詳細層(発展学習) 中堅以上の職員が深く学習するための拡張情報 「+もっと詳しく」をクリックで展開/閉じる 第3層 図解層(視覚的理解) 本文中の重要箇所に随時挿入される図解 スマートフォンでも見やすく自動調整されます
図 三層構造の学習設計

新人職員の方へ

まずは第1章から、各章のコア層(本文)と図解だけを読んでください。それだけで、施設での日常支援に必要な基本的な視点は身につきます。「もっと詳しく」のボタンは無理に開く必要はありません。

中堅以上の職員の方へ

「+もっと詳しく」のボタンを開くと、各テーマについてより専門的な解説(精神医学的背景、鑑別診断のポイント、最新の研究知見など)が表示されます。シフトの合間や勉強会の準備に活用してください。

シフト勤務での学習について

本マニュアルはスマートフォン・タブレット・PCのいずれの端末でも快適に読めるよう設計されています。休憩時間や移動時間に少しずつ読み進めることが可能です。各章の所要時間(コア層のみ/全層含む)の目安は各章冒頭に表示されています。

学習のヒント

本マニュアルは「読んで覚える」ためのものではなく、「現場で迷ったときに開く」ためのものとして設計されています。施設で気になる行動に遭遇したとき、関連する章を開いて参照してください。何度も繰り返し参照することで、自然に視点が身についていきます。

本マニュアルの特徴

ICD-11という共通言語

ICD-11は世界保健機関(WHO)が発表した最新の国際疾病分類です。これを共通言語として用いることで、医師・セラピスト・支援スタッフが同じ枠組みで利用者の状態を理解し、多職種連携を円滑にすることができます。本マニュアルは、ICD-11の診断要件と分類を、施設職員の日常業務に直結する形で解説しています。

「行動の背景を読む」視点

本マニュアルが一貫して強調するのは、利用者の行動を表面的にではなく、その背景にある身体的・感覚的・心理的要因まで含めて理解する視点です。「問題行動」と見える行動の多くは、本人が言葉にできない苦痛のサインである可能性があります。

支援上の鑑別ポイント

各章では、現場で職員が直面する「迷い」――挑戦的行動と衝動制御症の鑑別、ASDのこだわりと強迫症の鑑別、知的発達症の特性とカタトニアの鑑別、もとからの特性と認知症に伴う行動変化の鑑別など――について、具体的な観察ポイントを提示しています。これらは医学的診断のためではなく、医療スタッフへの適切な情報提供のための職員側の視点を養うものです。

参考文献

本マニュアルの作成にあたり、主として以下の文献を参照としています。本文中で引用者名が示されている箇所は、これらの文献に典拠します。(いずれも現時点で邦訳未刊。邦題は仮訳)

CDDR の訳語について — CDDR の公式日本語版は、現時点では発行されておりません。本マニュアルの訳語につきましては、日本精神神経学会の解説論文を参照のうえ、原語が DSM-5-TR に現れる用語と一致する場合には DSM-5-TR 日本語版の訳語を用い、いずれにも現れない用語については著者による仮訳を当てております。そのため、CDDR の正規邦訳版が刊行された段階で、二、三の訳語が変更になる可能性がございます。

  1. World Health Organization. Clinical Descriptions and Diagnostic Requirements for ICD-11 Mental, Behavioural and Neurodevelopmental Disorders (CDDR). Geneva: WHO, 2024.
    (仮訳:ICD-11 精神、行動、および神経発達症群の臨床記述と診断要件)
  2. Lieb K, Frauenknecht S (Hrsg.). Intensivkurs Psychiatrie und Psychotherapie. 10. Auflage. München: Elsevier / Urban & Fischer, 2023.
    (仮訳:精神医学・精神療法集中講座 第10版)
  3. Tebartz van Elst, Ludger; Biscaldi-Schäfer, Monica; Lahmann, Claas; Riedel, Andreas; Zeeck, Almut (Hrsg.). Entwicklungsstörungen. Interdisziplinäre Perspektiven aus der Psychiatrie, Psychotherapie und Psychosomatik des Kindes-, Jugend- und Erwachsenenalters. Stuttgart: Kohlhammer, 2023.
    (仮訳:発達症群——小児・青年・成人期の精神医学、精神療法、心身医学からの学際的視点)
  4. Tebartz van Elst, Ludger; Schramm, Elisabeth; Berger, Mathias (Hrsg.). Psychiatrie und Psychotherapie. Klinik und Therapie von psychischen Erkrankungen. 7. Auflage. München: Elsevier / Urban & Fischer, 2024.
    (仮訳:精神医学と精神療法——精神疾患の臨床と治療 第7版)
  5. Hölzel LP, Berger M (Hrsg.). ICD-11 – Psychische Störungen: Innovationen und ihre Bewertung. Berlin, Heidelberg: Springer, 2024.
    (仮訳:ICD-11 精神疾患——その革新と評価)
  6. Tyrer P (ed.). Making Sense of the ICD-11: For Mental Health Professionals. Cambridge: Cambridge University Press (Royal College of Psychiatrists), 2023.
    (仮訳:ICD-11 を読み解く——精神保健従事者のために)
  7. Horwitz AV. DSM: A History of Psychiatry's Bible. Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2021.
    (仮訳:DSM——精神医学のバイブルの歴史)
  8. Shorter E. What Psychiatry Left Out of the DSM-5: Historical Mental Disorders Today. New York & London: Routledge (Taylor & Francis), 2015.
    (仮訳:精神医学がDSM-5から除外したもの——今日における歴史的精神疾患)
  9. van den Broek A-L. ICD-11 für die Psychiatrie: Praxisleitfaden zur Anwendung und Interpretation. Bookmundo, 2023.
    (仮訳:精神医学のためのICD-11——実践解釈ガイド)
  10. Pastor F. Diagnostic et accompagnement des troubles du neurodéveloppement : Validés par l'EBP, confirmés par les neurosciences. Préface de Pierre Oswald. Louvain-la-Neuve : De Boeck Supérieur, 2025.
    (仮訳:神経発達症群の診断と支援——EBP により検証され、神経科学により確証された)
  11. Yoshida A, Sugano T, Matsuishi T, Endo K, Yamada Y. An Epidemiological Study on the Cause of Mental Retardation in Yokohama City. Journal of Disability and Medico-pedagogy, Vol. 5, 2002.

※書誌情報の詳細は、法人内医療担当部署までお問い合わせください。