第8章 食行動症または摂食症群
食の問題の背景を読む──ASD・知的発達症との関係と医療連携
コア層 約15分/全層 約40分食に関する問題は、当法人が支援するすべての利用者層に共通して高頻度で出現します。知的発達症や自閉スペクトラム症(ASD)のある方は、感覚過敏・食へのこだわり・異食などのリスクが有意に高く、また被虐待体験を持つ子どもには食行動の乱れや過食が現れることがあります。さらに、神経性やせ症は精神疾患の中で最も高い致死率をもつ疾患の一つであり、見逃すと生命に関わる重大な状況となります。本章は、「食べ方の問題」を表面的に叱ったり放置したりするのではなく、その背景を読み解き、適切に医療につなぐための視点を提供します。
本章では、ICD-11 が定める食行動症または摂食症群(6B80–6B85)を、施設支援の現場に引きつけて解説します。特に施設職員が日常的に出会う可能性の高い異食症(Pica)・反芻吐き戻し症・回避制限性食物摂取症(ARFID)の3症を中心に扱い、ASD・知的発達症との関係と見立て方を学びます。加えて、神経性やせ症・神経性過食症・むちゃ食い症については、施設入所の青少年において見落とされやすい観点から扱います。食の問題への対応において、職員の丁寧な観察と速やかな情報共有が、医療スタッフによる早期介入を左右します。
1. なぜ食の問題は見逃されやすいのか
食に関する問題は、施設の現場でしばしば「わがまま」「こだわり」「食欲がないだけ」として見過ごされるか、あるいは逆に「行儀の問題」として指導的に対応されることがあります。しかし、食行動症または摂食症群は、背景に深刻な生物学的・心理的・発達的問題を抱えた独立した医学的状態です。
見逃されやすい理由はいくつかあります。
- 言語的説明の困難さ──知的発達症のある方は「なぜ食べられないか」を言葉で説明できないことが多く、行動としてしか現れない
- ASD特性との混同──感覚過敏や食へのこだわりは「ASDの特性だから仕方ない」と処理され、医療的介入の必要性が認識されにくい
- 体重変化の発見の遅れ──施設内では系統的な体重測定や栄養評価が行われないことがあり、神経性やせ症の深刻化に気づくのが遅れる
- 羞恥心による隠蔽──過食・嘔吐・異食などは本人が意図的に隠す行動であり、日常観察だけでは把握が難しい
- 「施設あるある」とする慣れ──施設の経験が長いほど、異常な行動に慣れてしまい、危険なサインを見落とす可能性がある
「あの子は昔から食が細い」「あの子はいつも変なものを口にする」という慣れと諦めは、適切な医療介入を妨げる大きな障壁になります。食行動の問題は固定したものではなく、適切な支援によって改善しうる医学的状態です。「いつも通り」に見えるからこそ、定期的な客観的評価(体重・栄養状態・機能への影響)が重要です。
2. ICD-11における分類と施設への関連性
ICD-11は本章で扱う疾患群を、大きく「食行動症(体重・体型への懸念を伴わない食行動の問題)」と「摂食症(体重・体型への強いこだわりを伴う摂食の問題)」の2種に分け、6つのカテゴリーを設けています。
ICD-11はこれらを「発達的に年齢相応でなく、文化的に受け入れられるものでもなく、他の医学的状態では説明できない、食または摂食に関連する異常な行動」として定義しています。診断の確定は医師の役割ですが、施設職員がこれらの疾患の「現れ方」と「観察すべき点」を知ることが、早期の医療連携につながります。
3. 回避・制限性食物摂取症(ARFID)6B83
回避・制限性食物摂取症(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder:ARFID)は、体重や体型への懸念とは無関係に、食物の回避または制限が著しく、結果的に栄養・エネルギー摂取が不十分になる状態です。ICD-11における最大の特徴は、「やせたい」という動機が存在しない点で神経性やせ症と区別されます。
施設での典型的な現れ方
ARFIDの利用者には、しばしば以下のような姿が見られます。
- 食べられるものが非常に少なく(例:白米・パン・特定のお菓子のみ)、新しい食べ物を試すことを強く拒否する
- 食べ物の匂い・食感・色・見た目・温度に極端に敏感で、特定の条件が変わるだけで食べられなくなる(感覚的嫌悪)
- 以前に食べ物を喉に詰まらせた・嘔吐した経験から、特定の食品や食べること全般を恐れるようになった(嫌悪体験に基づく恐怖)
- 食事への興味・食欲が慢性的に低く、「食べるのが面倒」「お腹が空かない」と訴える(食への関心の欠如)
- 食事中に高い不安・パニックを示し、席を立ったり食事の場を避けようとする
「偏食」「わがまま」との違い
ARFIDの最も重要な判断基準は、食の制限が健康・栄養・成長・社会的機能に実際の影響を与えているかどうかです。ICD-11は「著しい体重減少・栄養不良・経管栄養依存、または社会的機能への重大な障害」のいずれかを要件とします。
「好き嫌いが多い」「食が細い」という程度であれば診断はつきませんが、以下のような状態は医療的評価が必要です。
- 体重増加が止まっている、または体重が減少している
- 特定の栄養素の欠乏が疑われる(疲れやすい、髪が抜ける、肌荒れが著しいなど)
- 食事の場に参加できず、社会生活に影響が出ている
- 食を中心とした高い不安・パニックが生活全体を制限している
もっと詳しく:ARFIDと神経性やせ症の鑑別
ARFIDと神経性やせ症は、どちらも食の著しい制限と体重減少を示すことがあるため、混同されやすい疾患です。決定的な違いは動機にあります。
- 神経性やせ症──「太りたくない」「やせていたい」という体重・体型への強い執着が原動力。「太ることへの恐怖」が明確(ただしアジア圏では言語化されないこともある)
- ARFID──体重・体型への懸念はない。感覚嫌悪・恐怖・無関心が原動力。「やせたいわけではないが、食べられない」
ただし、ARFIDで治療を始めた患者が体重回復の過程で体重・体型への懸念を示し始めることがあり、その場合は診断を神経性やせ症に変更することが適切なこともあります。知的発達症のある方や言語化が困難な方では、動機の聴取自体が難しく、行動観察と医療的評価が不可欠です。
またARFIDはASDとの併存診断が可能です。ASDの感覚過敏による食の制限がARFIDの診断基準(体重減少・栄養不良・機能障害)を満たす場合は、両者の診断を付けることができます。この場合、支援は発達特性への配慮と食行動の両方にアプローチする必要があります。
4. 異食症(Pica)6B84
異食症は、土・紙・布・プラスチック・金属・毛髪・ペンキ・洗剤など、栄養のない非食用物質を繰り返し摂取する症状です。ICD-11の診断要件は、①摂取が頻繁または深刻で健康への被害・機能障害がある、②その人の発達年齢(概ね2歳以上)からして食べられないものと判断できるはずである、③他の医学的状態(栄養欠乏など)では説明できない、の3点です。
異食行動は消化管穿孔・腸閉塞・鉛中毒・感染症・窒息など、深刻な身体的合併症を引き起こす可能性があります。施設内での異食を発見した場合、物質の種類と量を確認し、直ちに医療スタッフに報告してください。食べたと思われる物質が毒性を持つ可能性がある場合(洗剤・塗料・金属など)は、救急対応も検討します。
施設での典型的な現れ方
- 床や庭の土を繰り返し食べる
- 紙・ティッシュ・布・衣類の一部を噛んで飲み込む
- 髪の毛・爪・皮膚の一部を食べる(毛髪摂取は毛髪球症〔ラプンツェル症候群〕のリスクあり)
- プラスチック片・ボタン・ビーズ・消しゴムなどを口に入れ飲み込む
- 大量の塩・生粉・チョーク・石灰などを摂取する
- ゴミや腐敗した食品を食べようとする
知的発達症・ASDとの関係
CDDR(ICD-11公式臨床記述)は「知的発達症のある子どもや成人では異食が多く見られる」と明記しています。知的発達症やASDのある方での異食は、以下のようなメカニズムが考えられます。
- 感覚探索──触感・味・質感への強い好奇心や快感刺激の追求
- ストレス・不安の発散──口から物を摂取することによる自己刺激・自己なだめ効果
- 食物と非食物の区別の困難さ──認知的な発達の特性として、食べられるものと食べられないものの境界が不明確
- 環境からの刺激不足──単調な生活環境や退屈から異食行動が出現・維持される
知的発達症やASDのある方の異食に対して、行動論的なアプローチ(機能分析に基づく支援)が有効なことがありますが、まず医療的評価が必要です。「これが普通」と慣れてしまわず、異食の有無・種類・頻度を記録し、定期的に医療スタッフと共有することが重要です。
もっと詳しく:異食の機能分析と環境調整
異食行動への支援で最初に行うべきことは、その行動が何のために行われているか(機能)を理解することです。同じ「異食」でも、機能が異なれば支援の方向性も変わります。
- 感覚刺激の獲得が目的の場合→ 安全な代替物(噛んでよいシリコン製のチューブやアクセサリーなど)の提供、感覚統合アプローチ
- 不安・ストレスの発散が目的の場合→ 不安の原因を同定・軽減する、安心できる別のなだめ方を提供する
- 退屈・刺激不足が原因の場合→ 活動量と刺激の種類を増やす環境整備
- 注目獲得が目的の場合→ 異食以外の行動で職員の注目が得られる関係づくり
機能分析は、行動が「いつ・どこで・誰といるときに・何の前後に」起きるかを記録することから始まります。この記録は、心理士・医師・作業療法士との連携においても極めて有用です。
また、鉛や鉄分の欠乏が異食に関連することがあります(例:貧血のある方が土や氷を食べたがる)。栄養状態の医学的評価を忘れずに依頼してください。
5. 反芻・吐き戻し症6B85
反芻・吐き戻し症は、一度飲み込んだ食物を意図的に口の中に戻し、再び噛んで飲み込むか、吐き出す行動を繰り返す症状です。「嘔吐」ではなく、自分で意図的に逆流させる点が特徴です。食後すぐに発生することが多く、腐敗した臭いを伴うこともあります。
ICD-11の診断要件は、①週に数回以上・数週間以上持続する、②2歳以上の発達段階である、③食道狭窄や神経筋疾患など他の身体疾患による嘔吐ではない、の3点です。
施設での観察ポイント
- 食後に口をもごもごさせ、何かを咀嚼しているような動作がある
- 食後に酸っぱい臭い(胃酸の臭い)が口からする
- 食後すぐに吐き出す動作があるが、苦しそうな様子はない(苦痛なく行っている)
- 食べた内容物が衣類や周辺に付着していることがある
- 体重増加不良や歯のエナメル質の侵食が見られる(身体的サイン)
CDDRは「知的発達症やASDのある方では、反芻行動が自己なだめ・自己刺激として機能することが多い」と述べています。これらの方では恥や羞恥心を感じないため隠さないことが多く、発見はむしろしやすいですが、長期間「特性のひとつ」として放置されるリスクがあります。
放置すると栄養不良・逆流性食道炎・歯のエナメル質侵食・誤嚥性肺炎などの身体合併症につながります。専門的な行動的介入(食事姿勢の調整・横隔膜呼吸訓練・構造化された食事環境)が有効とされており、早期の多職種連携が重要です。
6. 摂食症群──体重・体型への強いこだわりを伴うもの
神経性やせ症・神経性過食症・むちゃ食い症の3症は、体重や体型への強いこだわりが中心にある摂食症群です。これらは施設内の青少年・成人利用者、特に養護施設の被入所者に出現する可能性があります。
6-1. 神経性やせ症(Anorexia nervosa)6B80
神経性やせ症は精神疾患の中で最も高い致死率を持ちます。死因は飢餓による身体合併症と自殺です。疑いがある場合は速やかに医療スタッフに報告し、専門的評価につなぎます。「本人の意思」「ダイエット好き」などと見過ごすことなく、体重の急激な低下や食行動の変化は必ず報告してください。
神経性やせ症の中核的特徴は3つです。①年齢・身長に対して著しく低い体重(成人BMI 18.5未満が一般的目安)、②体重増加への強い恐怖や体重・体型への過度のこだわり、③自分の体型・体重を歪んで認識する(実際にはやせているのに「太っている」と感じる)。
施設での観察サイン
| 観察できる行動・状態 | 注意すべき点 |
|---|---|
| 急激な体重減少、または成長期なのに体重が増えない | 「食が細かっただけ」と処理せず、体重の推移を記録する |
| 食事を細かく切る、ゆっくり食べる、食べ物を隠す・捨てる | 食事量が少ないだけでなく、「儀式的」な食行動に注目 |
| 食後にトイレに急ぐ(自己誘発嘔吐の疑い) | 嘔吐と判断した場合は必ず報告 |
| 過度な運動(夜中・早朝も含む)、じっとしていられない | 体重を増やさないための代償行動の可能性 |
| 体の冷え、産毛の増加、脱毛、低血圧、浮腫 | 飢餓の身体サイン。専門的医療評価が緊急に必要 |
| 体型・体重の話題に強い反応(激怒・泣く・話を打ち切る) | 食の問題を「秘密」として維持しようとしている可能性 |
アジア圏では「太りたくない」という言語的表明なしに神経性やせ症が発症することがあります(CDDRも明記)。「やせたいとは言っていない」からといって除外せず、食行動の変化と身体徴候を合わせて評価することが重要です。
6-2. 神経性過食症・むちゃ食い症6B81 / 6B82
神経性過食症は、制御できない過食エピソードの反復+体重増加を防ぐための代償行動(嘔吐・下剤乱用・絶食・過剰運動など)が中核です。むちゃ食い症は過食エピソードは同様ですが、代償行動を行わない点が異なります。どちらも体重・体型への過度なこだわりがあります。
これらが施設内で見落とされやすい理由は以下の通りです。
- 食後に急いでトイレへ向かうという習慣が気づかれない、または「お腹が弱い」と思われる
- 体重が正常範囲内にあるため、「問題ない」と判断される(神経性過食症はやせていないことが多い)
- 本人が強い羞恥心・罪悪感から隠蔽しており、発見が遅れる
- 被虐待経験のある青少年では、感情調整の手段として過食・嘔吐が使われることがある
もっと詳しく:摂食症群の鑑別と重複
神経性やせ症・神経性過食症・むちゃ食い症は、互いに移行することがあります。
- 神経性やせ症の制限型から過食・排出型に移行することがある
- 神経性やせ症から回復後、体重が正常に戻った後も過食・排出行動が続く場合は神経性過食症に診断が変更される
- 神経性過食症の排出行動が停止して過食のみが残れば、むちゃ食い症の診断を検討する
施設では診断名よりも「何が起きているか(食行動・体重変化・感情状態)」を正確に記録・報告することが職員の役割であり、診断の変更・確定は医師が行います。
また、プラダー・ウィリー症候群(染色体異常を持つ神経発達症)では、制御不能な過食が特徴として現れます。この場合はむちゃ食い症の診断ではなく、症候群の特性として扱います。CDDR も「プラダー・ウィリー症候群など他の医学的状態で説明できる場合はむちゃ食い症の診断を使わない」と明示しています。
7. ASD・知的発達症と食行動症の関係
ASDや知的発達症のある方は、食に関する問題を抱えるリスクが有意に高く、その背景は多層的です。
重要なのは、ASD・知的発達症があることと、食行動症の診断は矛盾しないことです。ASDのある方が著しい食の制限により栄養不良を起こしていれば、ARFIDの追加診断が適切です。この場合、「ASDの特性だから」と諦めるのではなく、食行動の問題に対する積極的な支援が求められます。
8. 被虐待体験と食の問題
養護施設に入所する子どもたちの多くは、過去の虐待・ネグレクト・貧困・剥奪体験を持っています。これらの体験は食行動に深刻な影響を与えることが知られています。
ネグレクトと食の剥奪
食事を与えられなかったり、食事が著しく不規則だったりした体験を持つ子どもは、食物への過剰な執着・貯食・隠れ食い・速食い・他者の食物を盗るなどの行動を示すことがあります。これらは「しつけの悪さ」ではなく、食の剥奪に対する適応反応として理解すべきです。施設の安全な食環境に移行しても、しばらくの間はこれらの行動が続くことがあります。
性的虐待・身体的虐待と摂食症
性的虐待・身体的虐待の既往は、神経性やせ症・神経性過食症・むちゃ食い症のリスク因子として研究で確認されています。虐待体験のある青少年での摂食の問題は、以下のような文脈で理解されることがあります。
- 身体への制御感の獲得──コントロールできない体験をした後に「自分の体は自分が管理する」という意識から食を制限する
- 感情調整手段としての過食──圧倒的な感情や解離状態をなだめる方法として、食べることが使われる
- 身体への嫌悪・罰──被害体験から自分の身体を嫌悪し、やせることで「なくしたい」という無意識の動機
食行動の問題を「性格」「反抗」「甘え」と単純化することは、背景にある深刻なトラウマ体験や医学的状態を見逃す原因になります。食に関する問題行動を観察した際は、その行動がいつ・どこで・どんな状況で起きるかを記録し、心理士・医師・管理者と共有することが最初のステップです。特に「虐待歴のある子ども」というカテゴリーで一括りにせず、一人ひとりの文脈を理解しようとする姿勢が大切です。
9. 観察と記録のポイント
食行動症または摂食症の疑いがある場合、日常的な観察記録は医療スタッフの見立てを大きく支援します。以下の観察項目を意識してください。
| 観察領域 | 具体的な観察項目 |
|---|---|
| 食事の量と質 | 1食あたりの摂取量の変化、食べられる食品の種類・変化、特定食品への固執や完全拒否 |
| 食事中の行動 | 食べ物を隠す・捨てる・口にためて飲まない、ゆっくり食べる・素早く食べる、儀式的な食べ方、食事への強い恐怖・拒否反応 |
| 食後の行動 | 食後すぐのトイレ使用、口をもごもごさせる(反芻の可能性)、嘔吐音・嘔吐の痕跡 |
| 非食用物摂取 | 何を・どのくらいの頻度で・どのような状況で口にするか。摂取した物の種類は必ず記録 |
| 身体的変化 | 体重の変化、顔色・肌の変化、疲れやすさ、脱毛、浮腫、歯の変色・エナメル質の侵食 |
| 感情・行動面 | 食事前後の情緒変化(不安・恐怖・興奮・抑うつ)、体型・体重の話題への過敏な反応、社会的回避(食事の場を避ける) |
| 背景状況 | 問題行動が始まった時期・きっかけ、ストレス的な出来事との関連、睡眠・学校・生活環境の変化 |
もっと詳しく:体重測定と記録の実務
食行動症または摂食症が疑われる場合、定期的な体重測定は基本的な観察の一部です。ただし、体重測定の場面は利用者にとって非常にストレスフルになることがあります(特に神経性やせ症の方は体重測定への強い抵抗を示すことがある)。測定の際は以下の点に配慮してください。
- 体重測定は医療スタッフの指示のもとで行い、記録は医療チームと共有する
- 「太った・やせた」というコメントは絶対に避ける。数値のみを淡々と記録する
- 測定を拒否する場合は無理強いせず、その状況を記録し医療スタッフに相談する
- 衣類の厚さを一定にする・同じ時間帯に測定するなど、測定条件を統一する
また、栄養士・看護師・医師による定期的な栄養評価の機会を、食に問題を抱える利用者に設けることが理想的です。BMIだけでなく、摂取カロリー・栄養バランス・成長曲線(子どもの場合)を定期的に確認する体制が重要です。
10. 緊急性の判断と医療連携
食行動症または摂食症に関連して、即時の医療対応が必要な状態と定期的な医療的評価が必要な状態を区別する必要があります。
以下のいずれかが確認または疑われる場合は、直ちに医療スタッフに報告し、緊急対応の判断を仰ぎます。判断に迷う場合は、まず報告することを優先してください。
- 毒性のある物質・危険な異物を飲み込んだ(洗剤・薬・金属・鋭利な物など)
- 神経性やせ症が疑われ、著しいやせ・低体温・脈の乱れ・失神・浮腫が見られる
- 嘔吐が止まらない、または血液を吐いた
- 意識の変容・混乱・異常な行動(電解質異常による精神症状の可能性)
- 食事を完全に拒否している状態が数日続いており、水分も摂れていない
- 自傷・希死念慮が食行動の問題とともに現れている
定期的な医療的評価が必要なサイン
緊急ではないが、次回の医療スタッフとの面談・回診で必ず報告すべき状態を以下に示します。
- 食べられるものの種類が著しく減少しており、栄養状態の悪化が疑われる
- 体重が数週間にわたり継続して減少している(特に成長期の子ども)
- 反芻行動・異食行動が出現または増加している
- 食後のトイレ使用が急増しており、嘔吐が疑われる
- 食事の場への参加を極端に避けるようになった
- 体型・体重への強いこだわりが言動に現れている
医療スタッフへの情報提供
医療スタッフへの報告の際には、以下の情報を可能な範囲で整理して伝えることが有用です。
- 「いつから」(開始時期・きっかけとなる出来事)
- 「どのような行動が」(具体的な行動の内容・頻度・量)
- 「どのような状況で」(食事の場面か、それ以外か。どんなときに多いか)
- 「どのような変化が」(体重・食事量・行動・感情の変化)
- 「本人は何と言っているか」(本人の認識・説明)
食行動症または摂食症群は、知的発達症・ASD・被虐待体験のある方が集まる当法人の施設で、高頻度に見られる精神医学的問題群です。
施設職員が特に意識すべき3点を確認しましょう。
- 「慣れ」に注意する──「いつものこと」として放置されがちな食の問題(異食・偏食・反芻)にも、医療的評価が必要な場合があります。「以前からそうだから」という理由で観察をやめないでください。
- 身体的危険の見極め──神経性やせ症は高い致死率を持ち、異食は身体的危険を伴います。体重の急激な変化・毒性物質の摂取・意識の変容は即時報告が必要です。
- 背景を読む──食行動の問題を「わがまま」「行儀が悪い」と判断せず、感覚過敏・トラウマ・ストレス・認知的特性など多面的な背景を考慮します。観察と記録が、医療スタッフによる適切な見立ての土台となります。