第10章 睡眠・覚醒障害群

「眠れない」「日中眠そう」の背景にあるものを読み解く

コア層 約13分/全層 約30分
この章で学ぶこと

睡眠の問題は、知的発達症の利用者、児童養護施設の子どもたち、そして高齢化が進む施設利用者において、職員がきわめて頻繁に遭遇する事象です。しかし、その背景は単純ではありません。本章では、ICD-11 第7章「睡眠・覚醒障害群」の枠組みを概観し、施設職員が現場で出会う代表的な睡眠の問題――不眠(7A0x)、閉塞性睡眠時無呼吸(7A41)、むずむず脚症候群(7A80)、悪夢・夜驚症・夢遊病・REM睡眠行動障害(7B0x)――の臨床的特徴と、観察すべきサインを解説します。とりわけ、知的発達症の利用者では睡眠障害が言葉にできない苦痛として現れやすく、児童養護施設では悪夢や夜驚がトラウマ反応の一つの表現となりうることを強調します。

そしてもう一つ、本改訂で最も強調したいことがあります。睡眠の問題は、認知機能の低下を「装う」ということです。「日中ぼんやりしている=認知症の始まり」と早合点する前に、夜に何が起きているかを確かめてください(8節の囲み)。

章名の表記について

ICD-11第7章の名称は「睡眠・覚醒障害群(Sleep-wake disorders)」です。文献によっては「睡眠覚醒障害群」と中点なしで表記されることもありますが、同じものを指します。本マニュアルでは「睡眠・覚醒障害群」に統一します。

どこから読めばよいか

新任の方・時間のない方は、3つの「その場でどうするか」9-1節 夜間に起き出したとき7-3節 夜驚・悪夢のとき4-3節 睡眠時無呼吸を疑ったとき)と9節「観察と記録」だけをお読みください。これだけで日々の業務に必要な内容は足ります。経験のある方・主任以上の方は、全体をお読みください。折りたたみの「もっと詳しく」は、関心のある方向けの補足です。

1. 睡眠・覚醒障害群とは何か

睡眠は単なる「身体の休息」ではなく、学習・記憶の固定、免疫機能、代謝の再生、感情調整など、生命活動の多くの側面を支える基盤的なプロセスです。慢性的な睡眠の障害は、抑うつ、物質乱用、高血圧、心血管疾患、肥満、内分泌・免疫機能の変化、そして長期的には死亡率の上昇とも関連することが知られています。施設で支援する利用者の多くは、何らかの形で睡眠の問題を抱えており、それは本人の苦痛であると同時に、日中の支援の質や安全にも直接的に影響を及ぼします。

ICD-11 において、睡眠・覚醒障害群は第7章として独立した一群を構成します。これは精神疾患(第6章)とも、神経系疾患(第8章)とも別の章に置かれています。施設職員がよく目にする「不眠」や「悪夢」は、精神疾患の一部ではなく、独立した医学的領域として扱われるという位置づけです。

睡眠・覚醒障害を別章に置いたことについて、CDDRが述べていること

本章は、CDDR(ICD-11第6章の診断ガイド)が扱う範囲のにあります。

CDDRは、精神・行動・神経発達の疾患の診断において特に注意を要する他章の一つとして第7章(睡眠・覚醒障害)を挙げており(CDDR p.27)、そのうえで次のように記しています。

「これらの病態を睡眠・覚醒障害という別の章に配置したことは、適切な訓練を受けた精神保健の専門職がこれらを診断し治療すべきでない、という意味では決してない」(CDDR p.28)

CDDRはあわせて、ICD-11がこの章を統合したのは、これらの障害の大半の「病態生理」が複雑で、生理的な要素と心理・行動的な要素の両方を含むという事実を反映したためであり、「器質性/非器質性」という時代遅れで誤った前提を捨てたためだと説明しています(CDDR p.28)。

以下は本マニュアルの運用上の考え方です。本マニュアルが睡眠に1章を割くのは、施設の日常で睡眠の問題に出会う頻度が高いためです。

もっと詳しく:ICD-10 から ICD-11 への大きな変化

ICD-10 では、睡眠の問題は「器質性/非器質性」という二分法に基づいて分類されていました。すなわち、心理的・行動的要因による「非器質性」の不眠・過眠・概日リズム障害・夢遊病・夜驚症・悪夢などは精神疾患の章(F51)に置かれ、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの「器質性」の障害は神経系疾患の章(G47)に置かれていたのです。

ICD-11 はこの二分法を明確に放棄しました。CDDR は、「ICD-11は睡眠・覚醒障害の病因についての時代遅れで誤った前提――とりわけ『器質性』と『非器質性』という旧来の区別――を放棄した」と明記しています(CDDR p.28)。CDDRによれば、これらの障害の大半は、その病態生理が複雑で、生理学的な成分と心理・行動的な成分の両方を含むからです(CDDR p.28)。たとえば夢遊病は、心理的ストレスではなく、深睡眠から覚醒への移行を司る生物学的メカニズムの未成熟が中心的な機序であることが明らかになっています。

その結果 ICD-11 では、睡眠の障害は原因ではなく現象で――すなわち「原因が何であるか」ではなく「どのような睡眠の問題が観察されるか」によって――分類されることになりました。これが第7章の枠組みであり、本章で解説する基本構造です。以下は本マニュアルの運用上の考え方です。原因が分からなくても、観察したことをそのまま書いてください。

2. ICD-11 による分類

ICD-11 第7章「睡眠・覚醒障害群」は、観察される現象に基づいて以下の大区分を含みます。施設職員がまず把握すべきは、これら六つの大区分があるという全体像です。

ICD-11 第7章 睡眠・覚醒障害群の構造 睡眠・覚醒 障害群 ICD-11 第7章 不眠障害 7A0x 過眠症群 7A2x 睡眠関連呼吸障害 7A4x 概日リズム障害 7A6x 睡眠関連運動障害 7A8x 睡眠時随伴症 7B0x 器質性/非器質性の二分法は廃止され、観察される現象で再分類された
図10-1 ICD-11 における睡眠・覚醒障害群の六大区分
表10-1 ICD-11第7章の六大区分。診断は医師が行います。この表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。
大区分 コード 主な内容
不眠障害 7A0x 入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、非回復性睡眠。慢性型(3か月以上)と短期型に分けられる
過眠症群 7A2x ナルコレプシー、特発性過眠症、Kleine-Levin 症候群(周期性過眠)など。日中の過剰な眠気が中核
睡眠関連呼吸障害 7A4x 閉塞性/中枢性睡眠時無呼吸、低換気。施設利用者、特にダウン症の方で重要
概日リズム睡眠覚醒障害 7A6x 位相後退型、位相前進型、不規則型、シフト勤務型、時差型など、社会的時間と内的リズムの不一致
睡眠関連運動障害 7A8x むずむず脚症候群(7A80)、周期性四肢運動障害、ブラキシズム(歯ぎしり)、リズム性運動障害など
睡眠時随伴症 7B0x ノン REM 覚醒障害(夢遊病、夜驚症、混乱性覚醒)、REM 関連随伴症(REM 睡眠行動障害、悪夢障害、反復孤立性睡眠麻痺)
もっと詳しく:睡眠の生理学的な基本構造

睡眠・覚醒障害を理解するには、睡眠そのものの基本構造をある程度知っておく必要があります。睡眠はノン REM 睡眠と REM 睡眠の二種類の状態が交互に現れるサイクルから成り立っています。

ノン REM 睡眠(NREM)

  • N1(浅睡眠):覚醒から睡眠への移行段階
  • N2(浅睡眠):全睡眠時間の 55〜60% を占める
  • N3(深睡眠/徐波睡眠):全睡眠時間の 15〜25%。加齢とともに減少。夢遊病・夜驚症はこの段階から発生する

REM 睡眠

  • 全睡眠時間の 20〜25%。脳は活発に働いているのに体は眠っているため「逆説的睡眠」とも呼ばれる
  • 心拍・呼吸・脳血流が増加するが、運動は通常抑制されている
  • 夢の想起が多く、内容は鮮明で感情的
  • 夜の後半(明け方)に増加するため、悪夢は明け方に多い
  • REM 睡眠行動障害では、本来抑制されている運動が現れ、夢の内容に従って動いてしまう

1サイクルは「N1 → N2 → N3 → REM」と進み、夜間に4〜6回繰り返されます。深睡眠は夜の前半に集中し、REM は夜の後半に増えていくという基本パターンを覚えておくと、随伴症が「夜の前半に出る」のか「明け方に出る」のかという情報から、どのタイプかを大まかに推測できるようになります。

ライフサイクルにおける睡眠の変化

  • 新生児:総睡眠時間 約16時間、うち REM 睡眠が約50%
  • 成人:平均7〜8時間、深睡眠は青年〜若年成人期が最大
  • 高齢者:深睡眠の減少、睡眠効率の低下、中途覚醒の増加

この生理的変化を理解することは、施設での「夜中に何度も目が覚める高齢利用者」を「不眠障害」と即座に病的に解釈せず、加齢に伴う正常範囲との関係でアセスメントするうえで重要です。

3. 不眠障害(7A0x

不眠障害は、施設利用者にきわめて頻繁に見られる睡眠の問題です。本人が「眠れない」と訴える場合もあれば、夜間巡回で「ベッドにいるが目を開けたままじっとしている」「夜中に何度もナースコールを押す」「明け方早くから起きて廊下を歩いている」という形で職員が観察する場合もあります。

診断要件(ICD-11)

下位分類

分類 コード 特徴
慢性不眠障害 7A00 不眠症状が 3か月以上持続し、典型的には週数回以上出現する
短期不眠障害 7A01 不眠症状が 3か月未満。引っ越し、入所、近親者の死など、明確なストレス因と関連していることが多い
職員への注意点

「最近、夜中に何度も起きるようになった」「以前は朝までぐっすり眠っていたのに、明け方に目を覚ますようになった」という変化は、それ自体が重要な情報です。利用者本人がそれを言語化できない場合、変化に気づけるのは日々接している職員だけです。背景には、身体疾患(夜間頻尿を引き起こす状態、痛み、呼吸の問題)、薬剤の変更、抑うつや不安の高まり、環境の変化、トラウマ反応の再活性化など、さまざまな要因が考えられます。「変化に気づき、医療スタッフに伝える」ことが職員の中核的役割です。

不眠の悪循環 ― 「眠らなければ」が眠りを遠ざける

慢性の不眠には、特徴的な悪循環があります。きっかけはストレスや一時的な環境変化であっても、それが過ぎ去ったあとも不眠が続く理由は、本人が「眠れないこと」を意識し続けることにあります。

「睡眠圧」を理解すると、支援の意味が分かります

睡眠圧とは、起きている時間が長いほど溜まっていく「眠気の貯金」のことです。朝起きた瞬間はゼロで、日中の活動とともに少しずつ溜まり、夜には十分な量になって眠りにつきます。眠ると使われて、また朝にはゼロに戻ります。

この一点が分かると、現場でよく起きることの説明がつきます。

この悪循環に対して、世界の主要なガイドラインが第一選択として推奨しているのは、薬物療法ではなく不眠の認知行動療法(CBT-I)です。施設で完全な形を実施することは困難ですが、その構成要素のうち睡眠衛生刺激制御は、日々の関わりの中に取り入れられます。

もっと詳しく:不眠に使われる薬と、職員が見るべきこと

不眠に対する薬物療法は、原則として例外的・短期的に、行動面の工夫と組み合わせて用いられるものとされています。処方を判断するのは医師であり、職員の役割は副作用と変化の観察です。ここでは、日本の施設で実際に処方されるものに限って挙げます。

表10-3 不眠に用いられる主な薬剤と職員の観察点。処方の判断は医師が行います。この表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。
日本で処方される主なもの職員が観察すること
オレキシン受容体拮抗薬
スボレキサント〔ベルソムラ〕、レンボレキサント〔デエビゴ〕
翌朝の眠気、悪夢や睡眠中の異常行動の出現、日中のだるさ
メラトニン受容体作動薬
ラメルテオン〔ロゼレム〕
効果はゆるやかで、数週間かけて現れることがある。日中の眠気
鎮静系の抗うつ薬
トラゾドン、ミアンセリンなど(少量)
朝のふらつき、起立時のめまい、日中の眠気
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)
ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン
夜間に起きて歩き回る・食べる(本人は覚えていない)、翌朝の眠気、ふらつき、転倒
ベンゾジアゼピン系
ブロチゾラム、トリアゾラム、エチゾラムなど
持ち越し(翌朝まで残る眠気)、ふらつき、転倒、日中の混乱・せん妄。高齢者ではとくにリスクが大きい

職員が記録すべき4点は、どの薬でも共通です。

  1. 持ち越し(翌朝まで残る眠気)──朝の起こしやすさ、朝食時の様子、午前中の傾眠
  2. ふらつき・転倒──とくに夜間トイレ時と起床直後
  3. 夜のそわそわの出現時期──薬が始まった/増えた日と、そわそわが始まった日を並べて書く
  4. 眠れているかどうかの実際──「薬を飲んでいるから眠れているはず」ではなく、入眠時刻と中途覚醒を記録する

薬が始まった日・増えた日・止まった日を記録に残してください。この日付と、様子の変化の日付を並べられることが、職員にしかできない貢献です。

4. 過眠と睡眠関連呼吸障害(7A2x・7A4x

「日中に強い眠気がある」「夕食後すぐに椅子で眠ってしまう」「テレビを見ているといつの間にか寝ている」――こうした観察は、不眠とはまた別の重要な臨床的サインです。日中の過剰な眠気の背景には、夜間睡眠の質の問題(その代表が睡眠時無呼吸)と、原発的な過眠症(ナルコレプシー、特発性過眠症など)の両方がありえます。

4.1 閉塞性睡眠時無呼吸(7A41)――施設で見落とされやすい重要な障害

閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea, OSA)は、睡眠中に上気道が反復的に閉塞することで呼吸が停止し、低酸素と覚醒反応が繰り返される状態です。施設の現場でとりわけ見落とされやすく、しかし健康への影響が大きい障害として、本マニュアルでは特に強調します。

閉塞性睡眠時無呼吸の病態と日中への影響 ① 入眠 のどの筋肉がゆるむ 気道がやや狭くなる ② 上気道の閉塞 激しいいびき・呼吸停止 10〜60秒以上 ③ 低酸素・短い目覚め 深い眠りから浅い眠りへ 本人は気づかない これが一晩に数十回から数百回、繰り返される 日中・長期への影響 日中の強い眠気 朝の頭痛、集中力低下 活動意欲の低下 心臓・血管への負担 高血圧、不整脈 心筋梗塞・脳卒中の危険 行動・精神面への影響 いらいら・抑うつ 記憶・注意の低下 施設利用者でとくに危険が高い背景 ダウン症(顔面・口腔の構造、筋緊張の低下)/肥満/加齢/中年男性 ベンゾジアゼピンや鎮静系抗精神病薬/アルコール/鼻づまり・扁桃肥大 これらの背景がある方で「いびき+日中の眠気」があれば、医療相談を考える
図10-2 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の病態と日中への影響

職員が観察すべき所見

ダウン症の利用者における睡眠時無呼吸――特別な注意が必要

ダウン症(21トリソミー)の方々では、顔面中央部の発達の特徴、舌の相対的な大きさ、扁桃・アデノイドの肥大、筋緊張の低下といった解剖学的・生理学的要因が重なり、閉塞性睡眠時無呼吸の有病率が一般人口に比べて顕著に高いことが知られています。成人のダウン症の方では多くが無呼吸を有するとも報告されており、決して稀な合併症ではありません。

さらに重要なのは、ダウン症の方は若年期からアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが知られており(第9章9節参照)、睡眠時無呼吸は認知機能低下を加速する独立した危険因子です。「ダウン症の利用者でいびきが激しく、日中うつらうつらしている」という観察は、本人の生命予後と認知予後の両方に関わる重要な医療連携のきっかけとなります。

もっと詳しく:睡眠時無呼吸の治療と CPAP

睡眠時無呼吸の標準的な治療は、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)です。睡眠中にマスクを介して上気道に陽圧をかけ、気道の閉塞を機械的に防ぐ装置です。一般に、軽症では減量・体位の工夫・口腔内装置(下顎前進装置)が用いられ、中等症以上ではCPAPが第一選択とされます。どの治療を行うかは医師が判断します。

知的発達症の利用者にとって、CPAP の使用にはいくつかの困難があります。マスクを顔に装着することへの抵抗、装置の音、空気圧の感覚、装置の毎日の管理などが、本人の感覚特性やコミュニケーションの特徴によっては大きな障壁となります。職員の支援としては、以下のような視点が役立ちます。

  • 段階的な慣らし:日中の覚醒時にマスクを試着する短時間の練習から始める
  • 感覚的な配慮:マスクの素材、ストラップの締め付け、空気の音について本人の反応を観察する
  • 視覚的支援:手順を絵カードで示す、装着後に楽しめる活動を組み込む
  • 家族・主治医との連携:本人にとって何が困難かを具体的に伝える
  • 他の手段との組み合わせ:体位(背臥位を避ける)、減量、夕方以降のアルコール・鎮静薬の調整

CPAP が継続できない場合でも、睡眠時無呼吸が放置されることは長期的な健康リスクが大きいため、体位治療、減量、鎮静薬の整理、口腔内装置の検討など、できる範囲の代替策を医療スタッフと相談することが重要です。

4-3 その場でどうするか ― 睡眠時無呼吸を疑ったとき

その場でどうするか

夜勤中、いびきが途中で止まる/あえぐような呼吸をしている/日中に強い眠気がある/起床時に頭痛を訴える利用者に気づいたとき

  1. まず、その場で1分だけ立ち止まって見る──通り過ぎずに、ベッドサイドで1分、呼吸を見てください。見るのは3つです。──①いびきが途中で止まるか、②止まったあと、あえぐような大きな呼吸で再開するか、③胸やお腹は動いているのに、息の音がしないか(気道がふさがっているサインです)。
  2. 止まっている時間を数える──時計の秒針か、心の中で数えます。「何秒止まったか」「1分間に何回止まったか」を、そのまま書いてください。「無呼吸あり」ではなく「23時40分頃、10〜20秒ほど息が止まり、大きないびきで再開。5分間に4回」と書きます。
  3. 体位を変えてみる──仰向けで悪化します。横向きになるよう、背中側にクッションや丸めたバスタオルを入れて、体が仰向けに戻らないようにします。枕が高すぎて顎が引けていないか、低すぎて頭が反っていないかも見てください。体位を変えて音が変わったかどうかも、記録に値する情報です。
  4. その場の環境を確認する──鼻がつまっていないか、口だけで呼吸していないか、寝具が顔にかかっていないか。
  5. 日中の様子とつなげて記録する──夜の観察だけでは足りません。①朝、起こしにくいか、②起床時に頭が痛そうか・不機嫌か、③午前中や食後にうとうとするか、④夜間に何回トイレに起きるか。この4点を、夜の観察とセットで書いてください。
  6. 1週間分をまとめて医療へ渡す──1回の観察では判断できません。「何時から何時のあいだに、何回くらい、何秒くらい」を、できれば数日〜1週間分そろえて、看護職・嘱託医に相談してください。あわせて、体重の変化、眠剤・抗精神病薬の処方内容も伝えます。これらは無呼吸を悪化させます。
  7. ダウン症の方では、疑ったら必ず上げる──ダウン症の方は解剖学的に無呼吸が起きやすく、しかも認知機能の低下と結びつきます。「いびきが大きい」だけでも、報告する理由になります。
  8. CPAPが始まったら、段階的に慣らす──いきなり夜通し装着しようとしないでください。①日中の覚醒時にマスクを顔に当てるだけを数分から、②次に装置の音を聞かせながら装着、③次に短時間の昼寝で使用、④そのうえで夜間へ。絵カードで手順を示し、装着後に楽しみな活動を組み合わせます。マスクの素材・ストラップの締め具合・空気の音のどれが嫌なのかを、具体的に医療者へ伝えてください。
してはいけないこと
  • 「いびきがうるさいだけ」で終わらせない──無呼吸は、高血圧・不整脈・脳卒中・心筋梗塞の危険を高め、認知機能の低下を早めます。生命予後に関わる所見です。
  • 呼吸が止まっている人を、揺すって起こさない──通常の無呼吸は自然に再開します。慌てて揺り起こすと、本人が驚き、睡眠がさらに分断されます。ただし、唇や爪が紫色になっている、揺すっても反応がない、呼吸が再開しないときは別です。ただちに応援を呼び、救急対応に移ってください。
  • 眠剤やアルコールで対応しようとしない──ベンゾジアゼピン系や鎮静系の薬、アルコールはのどの筋肉をゆるめ、無呼吸を悪化させます。「夜中に起きるから眠剤を」という発想は、この場合は逆効果です。
  • 日中の眠気を「怠けている」と評価しない──記録に「意欲がない」「参加拒否」と書かないでください。夜眠れていない人は、日中活動できません。書くのは、うとうとしていた時刻と場面です。
  • CPAPを無理に装着させない──押さえつけて着けさせると、その後まったく受け入れられなくなります。装着できなかった日も、記録して医療者に伝えてください。マスクの種類を変えるなどの調整ができます。

4.2 ナルコレプシーと特発性過眠症

ナルコレプシーは、いつでもどこでも入眠してしまう「入眠発作」、笑いや驚きで力が抜ける「カタプレキシー(情動脱力発作)」、入眠時の鮮明な幻覚、目覚めた直後に動けない「睡眠麻痺」などを特徴とする過眠症です。多くは思春期から若年成人期に発症し、視床下部のヒポクレチン(オレキシン)系の機能障害が中心的な機序とされています。比較的稀な疾患ですが、見過ごされやすく、適切な治療で生活の質が大きく改善するため、思春期以降に発症した「強い日中の眠気」は鑑別に挙げる価値があります。

薬について、現場の期待値を調整しておく

ナルコレプシーの日中の眠気にはモダフィニル〔モディオダール〕が用いられます。ただし日本では、この薬は流通管理の仕組みのもとで、登録された医師・医療機関・薬局でのみ処方・調剤されることになっています。「眠気が強いから、次の受診でこの薬を出してもらおう」という段取りにはなりません。まずは確定診断のための睡眠専門医療機関への紹介が先で、そのうえで登録要件を満たす医療機関での処方となります。ご家族への説明の際も、この点を先に共有しておくと、期待と落胆のずれを防げます。

職員の視点

「笑った瞬間に膝の力が抜けて崩れ落ちた」「驚いた拍子に首が前に垂れた」というエピソードは、てんかん発作や失神とは異なるカタプレキシーの典型像です。ナルコレプシーが疑われた場合の確定診断には、ポリソムノグラフィと反復睡眠潜時検査(MSLT)など睡眠医学的検査が必要です。日中の眠気が強い利用者で、こうした情動誘発性の脱力エピソードを目撃したら、医療スタッフに必ず情報提供してください。

5. 概日リズム睡眠覚醒障害(7A6x

体温やコルチゾール分泌、メラトニン分泌など、人間の生理機能は約24時間周期の概日リズム(サーカディアン・リズム)に従って変動しています。社会的に求められる就床・起床時刻と、本人の内的な概日リズムが一致していない場合、結果として「夜眠れず、昼眠い」という訴えが生じます。これが概日リズム睡眠覚醒障害です。

主な下位分類

分類 特徴と施設での意味
睡眠相後退型 就床と起床が社会的に望ましい時刻より3〜6時間後ろにずれる。青年・若年成人に多く、児童養護施設の中学生・高校生で「朝起きられない」「夜更かしする」という形で現れることが多い
睡眠相前進型 逆に就床・起床が前にずれる。高齢者に多く、夕方早くから眠くなり、深夜から早朝に目を覚ます。施設高齢利用者の「夕食前から居眠り、深夜2時に起きてしまう」という訴えがこれにあたる
不規則型睡眠覚醒リズム 明確な日中・夜間のリズムを失い、24時間にわたって短い睡眠が散在する。認知症の進行期、重度知的発達症で見られる。介護負担がきわめて大きい
非24時間睡眠覚醒リズム 内的リズムが24時間より長く、毎日少しずつ就床時刻がずれていく。視覚障害(光による同期の喪失)や一部の発達障害で見られる
シフト勤務型・時差型 職員側の問題としても重要。夜勤の多い職員自身の睡眠管理にも影響する
不眠か、概日リズム障害か――鑑別の視点

「眠れない」という訴えのなかには、本人の体内リズムに合わない時刻に寝ようとしているために眠れないケースが少なくありません。たとえば睡眠相後退型の青年は、22時にベッドに入っても眠れませんが、これは不眠というより「まだ眠る時間ではない」という生理的なずれです。職員の観察として「本人が自然に眠ってしまう時刻はいつか」「放っておくと何時に目を覚ますか」を記録することが、この鑑別に役立ちます。

もっと詳しく:知的発達症と概日リズム

知的発達症、特に重度・最重度の方や、視覚障害を併存する方では、概日リズムの不規則化がしばしば観察されます。これは中枢神経系の発達特性に加え、外的な同期信号(特に朝の自然光)が十分に取り入れられない生活パターンによっても増悪します。

支援的な対応の基本は、リズムの「同期」を意識した日課の構築です。

  • 朝の光暴露:起床後の明るい場所での活動、可能ならば屋外活動
  • 規則的な食事時刻:消化器系のリズムも概日リズムの強力な同期因子
  • 日中の活動量の確保:身体活動と社会的接触
  • 夕方以降の照度の低下:暗くなる環境を意識的に作る
  • 夜の青色光の回避:スマートフォン・タブレットの使用時間と種類の調整
  • メラトニン製剤(医師の処方):自閉スペクトラム症や知的発達症の入眠困難に対する有効性が報告されている

これらは薬物療法の前段階として、また並行して取り組むべき基本支援です。とりわけ朝の光暴露と日中の活動量の確保は、施設の日課のなかで実現可能な、しかし実効性のある介入です。

6. むずむず脚症候群と睡眠関連運動障害(7A8x

むずむず脚症候群(restless legs syndrome, RLS/7A80)は、一般人口においても決して稀ではない障害です。しかし施設の現場ではきわめて見過ごされやすい睡眠・覚醒障害の一つです。利用者本人が症状を言語化できない場合、夜間に「ベッドのなかで脚を動かし続ける」「夕方になるとそわそわして座っていられない」「眠れずに廊下を歩き回る」という形で観察されます。

診断要件(ICD-11/国際 RLS 基準)

RLS は以下の5項目すべてを満たすことが診断要件です。

むずむず脚症候群(RLS)の5つの診断要件 1 脚を動かしたい強い欲求 通常、不快な感覚(むずむず、引きつり、灼熱感、痛み)を伴う 2 安静・無活動のときに始まる、または悪化する 座っているとき、横になっているときに出現する 3 体を動かすと軽くなる 少なくとも動いているあいだは症状が和らぐ 4 夕方・夜に悪化する(または夜にだけ出る) 症状には1日のリズムがあり、午前中は軽い 5 他の状態でよりよく説明されない 下肢のけいれん、関節炎、抗精神病薬によるアカシジア、神経の痛みなどを除く 5項目すべてが満たされて、はじめてRLSと診断される
図10-3 むずむず脚症候群の診断要件

背景因子

RLS の背景には、しばしば身体的な要因が潜んでいます。これらは医学的に治療可能であり、見つければ症状の改善につながる可能性があるため、特に重要です。

支援上の重要ポイント――抗精神病薬使用中の利用者

知的発達症で行動上の問題への対応として抗精神病薬を服用している利用者で、「夕方〜夜になると落ち着きがなくなる」「ベッドに入ると脚を動かし続ける」「なんとなく不機嫌になる」という観察があった場合、それは不安や易刺激性ではなく、薬剤誘発性の RLS あるいはアカシジア(静座不能症)の可能性があります。両者は重なり合いますが、「夕方〜夜に増悪し、運動で軽減し、脚を中心とする」という特徴が強ければ RLS が疑われます。「処方薬が増えてから夜のそわそわが始まった」という時間的関連も重要なサインです。本人を「落ち着きがない」と評価する前に、薬剤の側面からの評価を医療スタッフに依頼することを検討してください。

もっと詳しく:RLS の治療と知的発達症の利用者での評価

RLS の治療は、おおむね次の順で進められます。いずれも医師の判断によるもので、職員が処方内容に関わることはありません。ここでは、職員が観察すべきことに絞って示します。

  • 背景因子の除去:鉄欠乏があれば鉄の補充。誘発している薬剤(抗精神病薬、ミルタザピン、SSRI/SNRI、メトクロプラミド、リチウムなど)の見直し。→ 職員が見ること:食事の内容と量、月経の有無、出血の既往、処方の変更時期。
  • 薬によらない工夫:規則的な運動、カフェイン・アルコールの制限、夜の落ち着いた過ごし方、脚を温める・マッサージする。→ 職員が見ること:どの工夫で本人が楽になっているように見えたか。
  • 薬物療法:ドパミン作動薬や一部の抗てんかん薬が用いられます。→ 職員が見ること:①日中の眠気・急な入眠、②立ち上がったときのふらつき(起立性低血圧)、③吐き気・食欲低下、④そして最も重要なのが次の項です。
  • 症状が「早い時刻」に出るようになっていないか:ドパミン作動薬を長く使っていると、症状がより早い時間帯に出るようになり、より強くなることがあります(増強現象)。「以前は夜だけだったのに、最近は夕方から始まる」「最近は昼間もそわそわしている」という変化は、薬が効かなくなったのではなく、この現象の可能性があります。薬を増やすと悪化するため、必ず処方医に伝えてください。これは職員の記録がなければ気づかれません。

知的発達症の利用者で評価が困難な理由と工夫

RLS は本来、本人の主観的な「不快感」と「動かしたい欲求」を中心に診断されます。言語的な訴えが困難な利用者では、診断が原理的に難しくなります。職員の観察として有用なのは以下のサインです。

  • 夕方になると落ち着きがなくなる、座っていられない
  • ベッドに入ると脚を動かし続ける、脚を擦り合わせる、脚をベッドにぶつける
  • 夜間に廊下を歩き回る(不眠と区別が困難だが、その間「脚が楽になっている」様子があれば RLS を疑う)
  • 朝になると静かに眠っている――概日リズムの特徴
  • 家族歴で同様の症状をもつ親族がいる
  • マッサージや脚を温めることで一時的に落ち着くように見える

これらの観察を時間経過とともに記録し、医療スタッフに伝えることが、見過ごされがちな RLS を救い上げる鍵となります。

その他の睡眠関連運動障害

7. 睡眠時随伴症(7B0x

睡眠時随伴症(パラソムニア)は、睡眠中に望ましくない行動・体験・現象が生じる障害群です。ICD-11 では発生する睡眠段階に応じて、ノン REM 覚醒障害REM 関連随伴症に大別されます。この区別は重要で、両者は時間帯、内容、対応、そして基礎にある神経生物学的機序が大きく異なります。

観点 ノンREM覚醒障害(7B00系) REM関連随伴症(7B01系)
出現する時間 夜の前半(深睡眠から。入眠後おおむね1〜3時間) 夜の後半・明け方(REM睡眠が増える時間帯)
代表的なもの 夢遊病(睡眠時遊行症)/夜驚症(睡眠時驚愕症)/混乱性覚醒/睡眠関連摂食障害 悪夢障害/REM睡眠行動障害(RBD)/反復孤立性睡眠麻痺
声かけへの反応 ほとんど反応しない。覚醒させることが難しく、無理に起こすと混乱が長引く 覚醒すると比較的早く我に返る。会話が成立する
翌朝の記憶 ほとんど覚えていない(健忘) 夢の内容を覚えていることが多い
本人の体験 一過性の見当識障害(自分がどこにいて今がいつか、一時的に分からなくなる) 恐怖や不快感をはっきり伴う
多く見られる年代 小児・青年(覚醒の仕組みの成熟過程に関わる) 悪夢:年齢を問わない/RBD:高齢男性に多く、神経変性疾患の前ぶれでありうる(この点はCDDRの記述ではなく本マニュアルの補足)
その場の対応 強引に起こさない。安全を確保して静かに見守る(7-3節 そばにいて落ち着くまで付き添ってよい(7-3節

7.1 ノン REM 覚醒障害――夢遊病・夜驚症

夢遊病(睡眠時遊行症)

深睡眠中、典型的には入眠後 1〜3時間(夜の前半)に発生します。本人はベッドから起き上がり、目を開けて、いじったり、つぶやいたり、歩き回ったりしますが、声かけにはほとんど反応せず、覚醒させることが困難です。覚醒後は一過性の見当識障害(自分がどこにいて今がいつかが一時的に分からなくなる状態)があり、翌朝はエピソードに対する健忘があります。小児期に経験することは珍しくなく、家族内に同じ経験をもつ人がいることもしばしばあります。中心的な機序は、深睡眠から覚醒への移行を制御する生物学的メカニズムの成熟過程の問題と考えられています。

夜驚症

同じく夜の前半、深睡眠中に発生します。突然の大きな叫び声で始まり、強い自律神経興奮(頻脈、過呼吸、発汗、ときに失禁)と一過性の見当識障害を伴います。多くは10分以内に収束し、本人は再び深く眠り、翌朝は何も覚えていません。声をかけて起こそうとすると、かえって混乱が長引くことが多く、原則として静かに見守るのが適切な対応です。

職員の対応の原則

夜驚症や夢遊病のエピソードに遭遇したとき、最も大切なのは強引に起こさないことです。本人を声かけや揺さぶりで覚醒させようとすると、見当識障害が長引き、混乱から興奮や攻撃に発展することがあります。基本対応は次の通りです。
安全の確保:転倒・転落、ガラス・刃物などへの接触を防ぐ環境調整
静かな見守り:本人が落ち着くまで側で観察する
必要なら穏やかに誘導:歩き回っている場合、強く制止せず、ベッドへ戻るよう静かに導く
翌朝:本人にエピソードを詳しく説明する必要はなく、淡々と通常の朝を過ごす
記録:時刻、内容、自律神経症状、収束までの時間を医療スタッフに伝える

もっと詳しく:てんかん発作との鑑別

夢遊病・夜驚症において、必ず鑑別の対象となるのが睡眠関連てんかん発作です。両者は表面的には類似することがあり、誤った理解は本人の安全に直接影響します。鑑別のポイントは以下です。

  • 持続時間:てんかん発作は典型的にはより短く(多くは1〜2分以内)、終了がより明瞭。夢遊病・夜驚症は数分〜10分以上続くことがある
  • 運動の質:てんかんでは類型的・反復的な運動(自動症、間代性運動など)。夢遊病はより複雑で目的的に見える行動
  • 発生時間:前頭葉てんかんは夜間のさまざまな時刻に発生しうるが、夢遊病・夜驚症は深睡眠が多い夜の前半に集中
  • 頻度:てんかんでは一晩に複数回発生することが珍しくない
  • 意識状態:てんかん発作後はもうろう状態(postictal state)が見られることが多い

知的発達症の利用者は、もともとてんかんを併存することが少なくありません。「夜中に立ち上がって動き回る」エピソードに遭遇したら、夢遊病として扱い続ける前に、必ず医療スタッフに相談し、必要に応じて睡眠時脳波検査(ビデオ EEG)による評価を考慮してもらうことが安全です。とりわけ、エピソードの類型性(毎回ほとんど同じ動作)、持続時間の短さ、そして日中にも類似の動作が観察される場合は、てんかんを強く疑う材料となります。

夜間の発作と睡眠時随伴症の見分けは、専門家でも難しい

上の「もっと詳しく」に鑑別のポイントを挙げましたが、正直に申し上げると、この2つの区別は、脳波を取っても難しいことがあります。前頭葉から起こるてんかん発作は、暴れる・叫ぶ・自転車をこぐような動きをするなど、一見して随伴症とそっくりに見えることがあり、しかも発作中の脳波に変化が出ないこともあるからです。

だからこそ、職員の役割が決定的になります。職員が見分ける必要はありません。見分けられるだけの材料を残すことが役割です。次の5点を書いてください。

可能であれば、ご家族と本人の同意を得たうえで、動画を撮って医師に見せることがもっとも確実です。撮影の可否と手続きは、必ず管理者に確認してください。発作を目撃したときの対応、救急要請の判断については第13章 てんかんをご覧ください。

7-3 その場でどうするか ― 夜驚・悪夢のとき

その場でどうするか

夜間、利用者が叫び声をあげている/怯えている/ベッドの上で起き上がっている/泣いているとき

  1. まず、起こさずに、少し離れて見る──いきなり体に触れないでください。1〜2メートル離れた位置から、まず様子を見ます。見るのは2つです。──目は開いているか/こちらが見えている様子か、そして今が夜の前半か、明け方か目は開いているのにこちらが見えていない様子で、入眠から1〜3時間なら、夜驚(ノンREM覚醒障害)を考えます。
  2. 夜驚なら、強引に起こさない──これが本節の最重要事項です。声かけや揺さぶりで無理に覚醒させると、混乱が長引き、興奮や攻撃に発展します。多くは10分以内におさまり、自然に深い眠りに戻ります。
  3. 安全だけを確保する──ベッドから落ちないよう位置を整え、ぶつかりそうな物、ガラス、刃物、コード類を静かに遠ざけます。手を出すのは、けがを防ぐときだけです。
  4. 声はかけすぎない──黙ってそばにいてください。かけるなら「大丈夫ですよ」を、低い声で、数えるほどだけ。質問はしません。「どうしたの」「何が見えたの」は、この場面では混乱を強めます。
  5. 歩き出したら、止めずに誘導する──立ち上がって歩き始めたら、制止せずに横につき、そっとベッドの方向へ向きを変えます。「こちらですよ」程度の短い言葉で十分です。
  6. 明け方に、はっきり目覚めて怖がっているなら、悪夢として対応する──こちらが見えていて、話が通じ、夢の内容を覚えているなら悪夢です。この場合は逆に、そばにいて、落ち着くまで付き添って構いません。「怖い夢でしたね」「もう大丈夫ですよ」と伝え、明かりを少しつけ、水を一口すすめます。無理にすぐ寝かせなくて構いません。
  7. その場で記録する──①時刻(入眠から何時間後か)、②持続時間、③どんな様子だったか(叫んだ/汗をかいていた/息が速かった/歩いた)、④声をかけたときの反応、⑤おさまるまでにしたこと、⑥翌朝、覚えているかどうか⑥が、夜驚と悪夢を分ける決め手です。
  8. 翌朝は、いつもどおりに過ごす──夜驚の場合、本人は覚えていません。淡々といつもの朝を過ごしてください。悪夢の場合も、こちらから話題にする必要はありません。本人が話し始めたときにだけ、聴いてください。
  9. 繰り返すなら報告する──週に数回以上/毎回ほとんど同じ動き/一晩に何度も/けがをした/日中にも同じ動きが見られるのいずれかがあれば、記録をそろえて医療職に相談してください。てんかん発作との鑑別が必要です(上の囲み)。また、これまでなかった悪夢が急に繰り返し始まった場合は、トラウマ反応(第6章)、抑うつ(第11章)、薬の変更が背景にあることがあります。
してはいけないこと
  • 夜驚の最中に、揺さぶって起こさない──最も守ってほしい原則です。本人は今、深い眠りから中途半端に覚めた状態にあります。無理に引き上げると、見当識の混乱が長引き、恐怖と抵抗が強まります。
  • 翌朝に問い詰めない──「昨日の夜、大声を出していたよ」「何があったの」と尋ねないでください。夜驚では本人は覚えておらず、身に覚えのないことを責められた体験になります。悪夢の場合も、思い出させることは苦痛を再体験させることになります。
  • 他の利用者や家族の前で話題にしない──「昨日の夜、すごかったんですよ」と本人の聞こえるところで言わないでください。恥の感覚と、夜への不安を生みます。
  • 「怖い夢を見ないようにしましょう」と約束しない──本人にはどうにもできません。守れない約束は不安を強めます。
  • 電気を煌々とつけない──夜驚の最中に強い光を当てると、覚醒が中途半端に進んで混乱が長引きます。足元灯程度にとどめてください。
  • 記録に「不穏」「興奮」とだけ書かない──何が起きたのか分からなくなります。時刻・持続・動き・翌朝の記憶を書いてください。この4点がないと、医師は判断できません。

7.2 REM 関連随伴症――悪夢障害と REM 睡眠行動障害

悪夢障害

悪夢は、生命の脅威、強い恐怖、屈辱などを体験する鮮明で感情的な夢で、REM 睡眠中、特に明け方に出現します。覚醒後は即座に見当識を回復し、夢の内容を比較的詳細に想起できる点が、夜驚症との大きな違いです。

悪夢が病的とされ、悪夢障害と診断されるのは、頻繁に出現し、本人に著しい苦痛または機能障害を引き起こす場合です。背景としては以下が知られています。

REM 睡眠行動障害(RBD)

本来、REM 睡眠中には筋活動が抑制されており、夢を見ていても身体は動きません。REM 睡眠行動障害ではこの抑制が解除され、夢の内容に従って身体が動いてしまう状態です。激しい夢の場合、ベッドから飛び出す、殴る、蹴る、叫ぶといった行動につながり、本人や同室者が外傷を負うことがあります。覚醒後は恐ろしい夢の内容を部分的に想起することが多い点で、健忘を伴う夜驚症や夢遊病と区別されます。

RBD と神経変性疾患――きわめて重要な臨床的意味

CDDRは、レビー小体病による認知症(6D82)の必須の特徴として、「反復する幻視(典型的にはよく形をなしたもの)」「エピソード的な混乱」「REM睡眠行動障害」「パーキンソニズムの所見が1つ以上(例:安静時振戦)」の4つを挙げ、このうち2つ以上が臨床経過に認められることを求めています(CDDR p.624)。RBDは、その4つの一つとして明記されています。

【本マニュアルの補足】本章が参照している精神医学の教科書(Lieb K 編『Intensivkurs Psychiatrie und Psychotherapie』第10版, 2023。章末の出典注記を参照)をはじめ、睡眠医学の文献では、REM 睡眠行動障害は50歳以降の男性に多く、神経変性疾患(特にレビー小体型認知症、パーキンソン病)の前駆症状でありうることが知られています。この点はCDDR p.624 には書かれておらず、CDDRはRBDを上記4徴の一つとして挙げるにとどまります。ただし現場での意味は大きいため、本マニュアルでは補足として記載します。

「夫が夜中に大きな声を出したり、急に手を振り回したりするので、ベッドを別にした」「夢を見ながら本当に動いている」といったエピソードは、のちの神経変性疾患の予兆でありうるものとして、医療的評価の対象となります。施設の利用者でこうしたエピソードが観察された場合は、必ず医療スタッフに情報提供してください。安全のための環境調整(ベッド周囲の硬い物の除去、ベッドガードなど)も並行して必要です。

反復孤立性睡眠麻痺

覚醒直後(または入眠時)に数十秒〜数分間、運動・発話ができなくなる状態です。意識は明瞭で、しばしば強い恐怖を伴います。健康な人でも疲労時に経験することがあり、ナルコレプシーの一症状でもあります。施設の利用者から「夜中に金縛りにあった」と訴えられた場合、本人が一人で抱えてきた強い恐怖体験であることが多く、まずは「珍しいことではないこと」「短時間で消えること」を穏やかに伝えるだけでも支援になります。頻度が高い場合は他の睡眠・覚醒障害との関係を医療的に評価する必要があります。

8. 知的発達症の利用者における睡眠障害の特徴

知的発達症の利用者では、睡眠の問題が一般人口に比べて明らかに高頻度で見られます。しかし、職員にとっての中心的な臨床課題は、「本人が睡眠の問題を言葉で訴えられない」点にあります。睡眠は本来、本人の主観的な訴え(「眠れない」「夢を見て怖かった」「脚がむずむずする」)を中心に評価されるものですが、こうした訴えを言葉にすることが難しい場合、職員の観察が決定的な役割を果たします。

知的発達症で多く見られる睡眠の問題

睡眠の問題 知的発達症の利用者で重要な点
入眠困難・中途覚醒 感覚過敏(音、光、温度)、不安、日中の活動量不足、内的概日リズムのずれが背景になりやすい。「環境調整」が支援の第一歩
閉塞性睡眠時無呼吸 ダウン症の方で特に高頻度。肥満、筋緊張低下とも関連。CPAP の導入には感覚的・行動的支援が必要
むずむず脚症候群 言語化が困難なため見過ごされやすい。「夕方〜夜のそわそわ」「脚をバタつかせる」として観察される。鉄欠乏や向精神薬の影響を医療的に評価する
概日リズムの不規則化 重度の方で多い。日中の光暴露と活動の確保、規則的な食事時刻が基本支援
睡眠中の異常運動・発声 てんかん発作と随伴症の鑑別が必須。記録(時刻、内容、頻度)を取り医療連携
薬剤誘発性の睡眠障害 抗精神病薬による持ち越し鎮静(翌朝まで残る眠気)、ベンゾジアゼピンによる逆説的覚醒(眠くなるはずの薬で、かえって興奮したり落ち着かなくなったりすること)、SSRI による不眠など。処方変更との時間的関連を観察する

自閉スペクトラム症と睡眠

自閉スペクトラム症の方々では、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒が高頻度に見られます。背景には複数の要因が関与していると考えられています。

支援の出発点

自閉スペクトラム症の利用者の入眠困難に対しては、薬物療法を考える前に、感覚的環境と就寝ルーティンの調整を試みることが原則です。具体的には次のような視点が役立ちます。
・寝具の素材、肌触り(タグの位置、縫い目の感触)
・室温、空気の流れ、湿度
・常夜灯の明るさ・色温度(暖色系の弱い光が好まれることが多い)
・廊下や隣室の音の遮断(ドアの隙間テープ、耳栓の試行)
・就寝前30〜60分の活動の固定化(入浴、絵本、特定の音楽)
・スマートフォン・タブレットの使用時刻と内容の調整
これらの環境調整は、薬剤の追加よりもはるかに大きな効果をもたらすことがしばしばあります。

もっと詳しく:知的発達症の利用者における向精神薬と睡眠

知的発達症の利用者は、行動上の問題への対応として複数の向精神薬を服用していることがしばしばあります。これらの薬剤と睡眠との関係は複雑で、施設職員が観察を共有することで、処方の最適化に貢献できます。

不眠を引き起こしうる薬剤

  • SSRI、SSNRI(賦活的に作用しうる):服用開始・増量と時期的に一致する入眠困難
  • ステロイド:朝に投与しても夜の覚醒を引き起こすことがある
  • テオフィリン、β刺激薬(喘息治療)
  • カフェインを含む嗜好品・市販薬
  • L-チロキシン(甲状腺ホルモン、過量で)
  • 抗てんかん薬の一部(ラモトリギンなど)

過剰な眠気を引き起こしうる薬剤

  • 抗精神病薬(特に低力価薬、クエチアピン、オランザピン):日中への持ち越し
  • ベンゾジアゼピン、Z 薬:高齢者でとりわけ持ち越しと転倒のリスク
  • 抗ヒスタミン薬(鼻炎、皮膚疾患の処方)
  • ガバペンチン、プレガバリン
  • 三環系抗うつ薬

RLS・周期性四肢運動を誘発・悪化させうる薬剤

  • 抗精神病薬全般
  • ミルタザピン(とりわけ強く誘発)
  • SSRI、SSNRI
  • メトクロプラミド(ドパミン拮抗作用)
  • リチウム

睡眠中の異常行動を引き起こしうる薬剤

  • Z 薬(ゾルピデムなど):稀に睡眠中の自動行動(歩き回り、食事、運転、その間の健忘)が報告される
  • 抗精神病薬:稀に夜間のもうろう状態

「処方の変更前後で睡眠がどう変わったか」を時間経過で記録することは、施設職員にしかできない重要な貢献です。これは医師が外来診察だけでは把握できない情報であり、薬剤の調整と本人の生活の質に直結します。

高齢化する利用者と睡眠の変化――第9章への接続

近年、知的発達症をもつ利用者の高齢化が進んでおり、施設では加齢に伴う睡眠の変化への対応が重要なテーマとなっています。一般人口でも加齢に伴って深睡眠が減少し、中途覚醒が増えますが、知的発達症の方々ではそれに加えて、神経認知障害(第9章)の早期所見として睡眠パターンの変化が現れることがあります。

第9章で扱った「いつもと違う変化」の感覚は、ここでも有効です。「以前は朝までぐっすりだったのに、最近は夜中に起きて部屋を出ていく」「昼間にうとうとしている時間が増えた」――こうした変化は、神経認知障害群の早期サインでありうることを念頭に置いて記録し、医療スタッフに伝えてください。

睡眠・覚醒障害との境界について、CDDRが述べていること

CDDRは、軽度神経認知障害(6D71)の鑑別診断に「睡眠・覚醒障害との境界」という項を設け、次のように述べています。

不眠や睡眠時無呼吸などの睡眠障害・睡眠覚醒障害のある人では、記憶やその他の神経認知の障害の訴えが頻繁にみられる。その神経認知の障害が睡眠・覚醒障害によってよりよく説明される場合、軽度神経認知障害の追加診断は付与すべきでない」(CDDR p.611)

以下は本マニュアルの運用上の考え方です。次の順序で確認してください。

認知症を疑う前に確かめる4点を、チェックリストとして挙げます。

  1. いびきが途切れていないか──睡眠時無呼吸(4節)。低酸素と細切れの睡眠が、日中の眠気と記憶・注意の低下をもたらします。治療できます。
  2. 夜中に何度も起きていないか──不眠(3節)、夜間頻尿、痛み。細切れの睡眠は、日中の反応の鈍さとして現れます。
  3. 夕方から脚がむずむずしていないか──むずむず脚症候群(6節)。言葉にできない方では「夕方のそわそわ」としか見えません。鉄の補充や薬剤の見直しで改善しえます。
  4. 眠剤・抗精神病薬・抗ヒスタミン薬が増えていないか──薬剤性の持ち越し(8節)。減らせば戻ります。

この4つは、いずれも対処できるものです。「日中ぼんやり=認知症の始まり」と早合点することは、治せるものを治さないまま、その方の生活を認知症の枠組みに移してしまうことにつながります。

もちろん、逆に「睡眠のせいだろう」と決めつけて認知症を見逃すことも避けなければなりません。職員の役割は、どちらかに決めることではなく、両方の情報をそろえて医療者に渡すことです。夜の記録(9節)と、ベースラインからの変化の記録(第9章3節)を、セットで持っていってください。

睡眠の変化は、気分の変化のサインでもあります

睡眠の変化を見たときに並べて考えるべき、もう一つの可能性が気分症群です。睡眠は、抑うつと躁のいずれにおいても、最も早く、最もはっきり現れるサインの一つだからです。

夜勤記録で最も重要な書き分けは、「眠れずにつらそう」なのか「眠らずに活動している」のかです。この2つは、まったく別の状態を意味します。詳しくは第11章 気分症群をご覧ください。

児童養護施設における睡眠とトラウマ

児童養護施設で生活する子どもたちにとって、夜間・就寝時はトラウマの主要な舞台となりやすく、就寝時の強い抵抗、反復的な悪夢、夜驚など、成人の知的発達症利用者とは異なる睡眠の問題が現れます。トラウマインフォームドな就寝支援の原則については、付録「児童養護施設における理解」にまとめています。

9. 観察と記録のポイント・医療連携

睡眠・覚醒障害の評価において、医療スタッフが診断と支援方針を立てるためには、夜間の様子に直接接している職員の観察と記録が決定的な役割を果たします。とりわけ、本人が言語化できない場合、職員の観察が唯一のデータ源となります。

9-1 その場でどうするか ― 夜間に起き出したとき

その場でどうするか

夜間の巡回中、利用者が起きて居室から出ている/廊下を歩いている/ベッドに座って起きているとき

  1. まず、明るくしすぎない──廊下の照明を全部つけないでください。足元灯か、手元のライトを下向きに使います。強い光を浴びると、体内時計が「朝が来た」と受け取り、そのあと眠れなくなります。
  2. 近づく前に、何をしているかを見る──声をかける前に数秒、観察します。トイレに向かっているのか/何かを探しているのか/目的なく歩いているのか/怯えているのか。ここで見たことが、そのまま記録になります。
  3. 正面からではなく、横から静かに声をかける──暗い中で正面から急に声をかけると驚かせます。「〇〇さん、〇〇(自分の名前)です」と、自分が誰かを先に伝えてください。
  4. 今の時刻を伝える──「今、夜中の2時ですよ」と、短く事実だけ伝えます。「まだ寝る時間ですよ」と指示にしないでください。
  5. 身体の理由を、順に確かめる──①トイレ(最も多い理由です。まずトイレに誘導してください)、②痛み(腰、膝、歯、お腹。表情としぐさを見ます)、③空腹・のどの渇き、④寒い・暑い(手足を触ってみます)、⑤脚のむずむず(脚をこすっている、動かし続けている)、⑥かゆみ・皮膚の不快夜間の起き出しの多くには、身体の理由があります。
  6. 無理に寝かせない──ベッドに戻すことを目的にしないでください。眠くないのに寝床に押し込むと、「ベッド=眠れない場所」という結びつきが強まり、翌日以降さらに眠れなくなります。
  7. 静かに過ごせる場所を用意する──眠れないなら、照明を落とした静かな場所で座って過ごしていただきます。テレビはつけません。温かい飲み物を一杯出す、そばに座る。眠気が来たら、そのときに寝床へ戻ります。
  8. 安全を確認して離れる──離れる前に、玄関・階段・浴室・調理室の施錠と、床の障害物を確認します。ふらつきがある方は、一人で歩かせないでください。
  9. 記録する──①起きた時刻、②何をしていたか、③きっかけとして思い当たること、④どう対応したか、⑤ベッドに戻った時刻の5点。
してはいけないこと
  • 記録に「徘徊」と書かない──本改訂で徹底したい一点です。「徘徊」と書いた瞬間に、「目的なくうろついている」という解釈が事実として固定され、次に読む職員の観察をゆがめます。実際には、トイレを探していた、脚がむずむずしていた、痛かった、怖かった――理由があったのかもしれません。書くのは、何をしていたかです。
    × 「2時、徘徊あり。声かけにて入床。」
    ○ 「2時10分、居室から出て廊下を食堂方向へ歩行。トイレの前で立ち止まる。誘導して排尿あり。2時25分、入床。入眠を確認。」
  • 「眠れないなら仕方ない」で終わらせない──夜間の起き出しがこれまでなかったのに始まった場合は、必ず日勤に申し送ってください。とくに高齢の方では、せん妄の始まりである可能性があります(第9章4-7節)。発熱、便秘、尿が出ていないか、薬の変更を確認してください。
  • 大きな声で呼びかけない──他の利用者を起こしてしまい、夜勤帯全体が崩れます。近づいて、低い声で話してください。
  • 腕を引いて連れ戻さない──暗い中で引っ張られると、恐怖と抵抗を生み、転倒につながります。並んで歩いて誘導してください。
  • その場の判断で頓服を使わない──指示のない投薬はできません。指示がある場合も、使った時刻と、その後の様子(眠れたか、ふらついたか、翌朝残ったか)を必ず記録してください。
  • 「昨夜は寝ませんでした」とだけ申し送らない──何時から何時まで、何回、何をしていたか。数字のない申し送りは、医療者には使えません。

夜間の観察項目

記録の例

悪い記録の例 → 良い記録の例

悪い例:「Bさん、今夜も眠れず徘徊。落ち着かない様子。」
→ 何時にどう起きて、どのくらい歩き、どのように落ち着いたかが分からない。

良い例:「Bさん、22時就床。23時頃まで脚を動かす様子あり、ベッドのなかで脚をこすり合わせている。1時頃ベッドから出て廊下を約15分歩行、その後再入床。3時、5時にも短時間の歩行あり。歩行中、脚を気にする仕草あり。先週まではこのような夜間歩行は見られなかった。先週水曜から抗精神病薬が増量されたところ。」
→ 時刻、行動内容、本人の様子、変化のタイミング、薬剤との関連が記載されており、医療スタッフが RLS や薬剤副作用の評価に活用できる。

医療連携を考えるべきタイミング

速やかな医療相談を要する状況

以下の状況では、施設内対応のみで様子を見ず、医療スタッフへの相談・受診を検討してください。
激しいいびきと呼吸停止、特に肥満・ダウン症の利用者(睡眠時無呼吸の評価)
これまでなかった夜間の異常運動・発声(てんかんとの鑑別が必要。第13章
反復する夢の再演的行動、ベッドから飛び出す、隣の人を殴るなど(REM 睡眠行動障害の可能性、神経変性疾患の評価)
急に始まった日中の強い眠気、特に食後に座位で眠り込む(睡眠時無呼吸、薬剤、内科疾患)
カタプレキシー様のエピソード(笑い・驚きでの脱力、ナルコレプシーの可能性)
夕方〜夜のそわそわ・脚の動き(RLS、アカシジア、薬剤副作用)
処方変更後の新たな睡眠の問題(薬剤との関連評価)
反復する悪夢、就寝時の強い抵抗、トラウマ背景がある場合(心理職・医療スタッフとの連携。第6章
睡眠の減少とともに、活動量・多弁・いらいらが増えている(躁状態の可能性。第11章
急に出現した夜間の見当識障害・徘徊、高齢利用者の場合(せん妄・認知症の評価、第9章4-7節

支援的アプローチの基本

睡眠・覚醒障害への支援は、身体・環境・心理・薬剤の各側面を統合した多面的なアプローチが原則です。施設職員は、医療スタッフ・心理職と連携し、利用者ごとに個別化された支援計画を構築する一員となります。

この章のまとめ

睡眠・覚醒障害は、知的発達症の利用者・児童養護施設の子ども・高齢化する利用者のいずれにおいても、施設職員がきわめて頻繁に遭遇する併存症です。ICD-11 はこの領域を独立した第7章として整理し、ICD-10 の「器質性/非器質性」の二分法を放棄して、観察される現象による分類――不眠(7A0x)、過眠(7A2x)、睡眠関連呼吸障害(7A4x)、概日リズム障害(7A6x)、運動障害(7A8x)、睡眠時随伴症(7B0x)――を採用しました。

施設職員には、表面的な「眠れない」「日中眠そう」という観察の背後に、閉塞性睡眠時無呼吸(特にダウン症の利用者)、むずむず脚症候群、薬剤副作用、概日リズムの乱れ、トラウマ関連の夜間覚醒、認知症の早期所見など、多様な要因が潜んでいる可能性を読み取る視点が求められます。とりわけ、本人が言語化できない場合、夜間の様子に直接接する職員の観察が、医療的評価の唯一のデータ源となることを忘れてはなりません。

そして睡眠の問題は、しばしば本人の苦痛、安全、生命予後、認知予後に直結します。「眠れないだけ」「いびきがあるだけ」と片付けず、変化に気づき、観察し、医療スタッフに伝える――この基本姿勢が、本章を貫く実践原則です。

最後に、本章で最も強調したい一点を繰り返します。睡眠の問題は、認知機能の低下を装います。「日中ぼんやりしている」を認知症の始まりと決める前に、夜に何が起きているかを確かめてください(8節の囲み)。無呼吸も、むずむず脚も、薬の持ち越しも、対処できるものです。

本章のうちCDDRを引用している箇所は、WHO『Clinical Descriptions and Diagnostic Requirements for ICD-11 Mental, Behavioural and Neurodevelopmental Disorders』(CDDR, Geneva: WHO, 2024)の原文と照合しています(2026年8月改訂)。CDDRの日本語版が刊行された際には、あらためて追記する予定です。

なお、本章の睡眠・覚醒障害の分類は、ICD-11の第7章(睡眠・覚醒障害)にもとづいています。ただし、CDDRはICD-11第6章(精神、行動または神経発達の疾患)のみを対象としており、睡眠・覚醒障害は扱っていません。また、本マニュアルはICD-11第7章の原典を入手できていません。そのため本章は、ICD-11に早くから準拠して書かれた精神医学の教科書である Lieb K(編)『Intensivkurs Psychiatrie und Psychotherapie』第10版(München: Elsevier / Urban & Fischer, 2023)の記述を参照して作成しています。同書は睡眠・覚醒障害についても独自にまとめており、当法人の『精神医学マニュアル』でも同じ文献を用いています。本章でCDDRを引用しているのは、他章との関係を述べた総論部分(pp.27–28)、レビー小体病による認知症の必須の特徴(p.624)、および軽度神経認知障害と睡眠・覚醒障害の境界を述べた部分(p.611)です。薬剤名は日本で実際に処方されるものに限っています。実際の診断・処方はすべて医師の判断によります。

参考文献:Lieb K (Hrsg.). Intensivkurs Psychiatrie und Psychotherapie. 10. Auflage. München: Elsevier / Urban & Fischer, 2023.