第 3 章 ・ ICD-11 ・ 6A4

カタトニア

独立症候群としての位置づけ

本章では、ICD-11 において「カタトニア」と呼ばれる一群の精神運動症状(心の状態が動作・姿勢・発話などの運動面に現れる症状)について、その概要と各カテゴリーを見渡す。本章は短くまとめている。症状を詳しく観察する方法や、施設場面での具体的な対応については、別に整備されている「ICD-11 に基づく神経発達症群と併存症の臨床マニュアル」付録「知的発達症におけるカタトニアの理解」に委ねる。

カタトニアとは

カタトニアは、精神運動活動の減少、亢進(過剰な高まり)、または異常な動きが、複数同時に認められることを特徴とする症候群である。評価にあたっては、観察、面接、身体診察を組み合わせる必要がある。

この症候群の位置づけは、ICD-11 で根本的に変更された。ICD-10 までのカタトニアは、統合失調症の下位型(緊張型統合失調症、F20.2)として位置づけられ、それ以外には身体疾患による二次性のものとしてのみ分類されていた。ICD-11 では統合失調症の下位型が廃止され、カタトニアは独立した症候群として単独に分類される。これは 1874 年の Kahlbaum の本来の概念への、一世紀以上を経た回帰でもある。Kahlbaum は当初から、カタトニアを精神運動・言語・意志の領域に及ぶ独立した症候群として捉えていた。

独立した症候群となったことで、カタトニアは統合失調症だけでなく、気分症、自閉スペクトラム症、不安症、産後精神症など、さまざまな精神疾患との関連で診断できるようになった。実際、急性期精神科病棟での臨床研究の報告によれば、カタトニアを示す患者の半数から三分の二は気分症(とくに躁エピソードや混合エピソード、うつ病エピソード)と関連していた。統合失調症と関連するものは、ごく一部にすぎないと報告されている。

症状群

ICD-11 のカタトニアには 15 の症状が挙げられており、これらは次の三つのクラスター(症状のまとまり)に整理される。診断には、どのクラスターからでもよいが、合計 3 つ以上の症状があることを満たす必要がある。

精神運動活動の低下

このクラスターには五つの症状が含まれる。凝視(視線が固定し、まばたきが減る)、両価傾向(動作の途中で行き詰まり、迷うように止まってしまう)、拒絶症(指示に逆らう、あるいは食事や水分を拒む)、昏迷(動かない状態に陥り、外からの刺激にほとんど反応しない)、緘黙(発話がまったくないか、ごくわずかしかない。ささやくような小声になり、聞き取れないほどになることもある)である。なお緘黙は、神経系の疾患や発達性発語または言語症など、発話に影響する他の疾患によって症状が説明される場合には数えない。

精神運動活動の亢進

はっきりした動機がないまま活動性が極端に高まった状態をいう。目的のない動き、抑えのきかない感情反応、衝動的な振舞い、攻撃的な行動などが見られる。なお、こうした亢進系の諸症状は、診断に必要な症状数を数えるときには、ひとまとめにして一つと数える。

異常な精神運動活動

このクラスターには九つの症状が含まれる。しかめ面(状況に釣り合わない奇妙な表情)、衒奇症(日常的な身振りが誇張されたり、文化的な文脈にそぐわない奇妙な動きをしたりする)、姿勢保持(重力に逆らった姿勢を自分から維持し続ける)、常同症(目的のない動作の繰り返し)、硬直(筋肉の緊張が高まり、動かそうとすると抵抗がある)、反響現象(相手の発話や動作をそのまま真似る)、語唱(単語や語句を止めどなく繰り返す)、蝋屈症(検査者が手足の位置を変えようとするとき、軽くて均一な独特の抵抗が感じられる。身体診察を要する)、カタレプシー(検査者などに受動的に取らされた姿勢を、重力に逆らったまま保ち続ける。身体診察を要する)である。

症状は、通常、少なくとも数時間は持続し、それよりはるかに長く続くこともある。ただし、昏迷・緘黙・拒絶症・カタレプシーなどの重い症状の場合や、自律神経症状(心拍・血圧・体温の異常)を伴う場合には、15 分程度の短い持続であっても、診断に数え入れる症状の一つとして認めてよいとされる。診断にはこのほか、症状が日常の機能に著しい障害をもたらしているか、重篤な身体合併症や死亡の危険をもたらすほどに重いこと、および症状が神経系の疾患の章に分類される一次性の運動障害(パーキンソン病など)ではより良く説明されないことが求められる。また、心拍・血圧・体温の異常(自律神経異常)を伴う場合には、該当する症状コード(原因不明の発熱 MG26、頻脈 MC81.0 など)を可能なかぎり並べて記録することとされている。脱水、消耗、嚥下性肺炎(飲食物や唾液が誤って気管に入ることで起こる肺炎)、横紋筋融解(筋肉の組織が壊れる状態)による腎不全など、生命の危険につながる合併症が起こりうるため、すみやかな評価と治療が必要である。

ICD-11 における四つのカテゴリー

カタトニアは ICD-11 において、以下の四つのカテゴリーに分類される。

6A40 他の精神疾患に関連したカタトニア。統合失調症またはその他の一次性精神症、気分症、自閉スペクトラム症など、他の精神疾患に関連して現れたカタトニアに付けられる。もとになった疾患のコードと並べて記載される。

6A41 物質または薬物によるカタトニア。特定の精神作用物質による中毒もしくは離脱の最中または直後、あるいは薬物の使用に関連して現れたカタトニアに付けられる。関連しうる物質としては、オピオイド、フェンシクリジン(PCP)、大麻、コカイン、MDMA または関連薬物、メスカリンや LSD などの幻覚剤が挙げられている。薬物としては、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、ステロイド、ジスルフィラム、シプロフロキサシンなどが挙げられている。診断には、カタトニア症状の強さや持続が、その物質の中毒や離脱に特徴的な症状(オピオイド中毒時の昏迷、アルコール離脱時の精神運動興奮など)を実質的に上回っていることが必要である。なお、自律神経異常を伴うカタトニアでは(どの型であるかを問わず)、悪性症候群(NMS。抗精神病薬などドパミン受容体を遮断する薬剤への曝露が原因と判断される、生命に関わりうる重い状態)との見分けが必要とされ、セロトニン作動薬への曝露が原因と判断されるセロトニン症候群との鑑別もあわせて求められる。

6A4Z カタトニア、特定不能。原因がはっきりしない場合や、カタトニア症候群による意味のある機能障害があるのに情報が足りない場合などに用いられる、残余カテゴリー(他のどれにも当てはまらないときの受け皿となる分類)である。

6E69 二次性カタトニア症候群。カタトニアの症状が、身体疾患の直接の病態生理学的な結果であると判断される場合に付けられる。本来は「他に分類される疾患に関連する二次性の精神または行動の症候群」のグループに属するカテゴリーであるが、他の形のカタトニアと診断上の共通性があるため、カタトニアの並びにも掲載され、診断の手引きが示されている。原因となる疾患の例として、自己免疫性脳炎、中枢神経系の感染症、脳腫瘍、頭部外傷、糖尿病性ケトアシドーシス、肝性脳症、ウィルソン病、ウェルニッケ脳症、甲状腺機能異常など、多彩な疾患が挙げられる。

他の章との関係

カタトニアが独立した症候群として位置づけられたことにより、この症候群は本書の他の章で扱う障害群と密接に関わることになった。

第 2 章の統合失調症またはその他の一次性精神症群では、精神運動症状として軽いカタトニア症状を伴うことがある。完全なカタトニア症候群がそろった場合には、もとの疾患のコードに加えて、6A40 カタトニアの診断が並べて記載される。

第 4 章の気分症群は、すでに述べたとおり、カタトニアの背景として最も多い障害群である。とりわけ重度のうつ病エピソード、躁エピソード、混合エピソードで現れうる。

第 1 章の神経発達症群、とくに自閉スペクトラム症との関連は、知的発達症および ASD の支援に携わる施設職員にとって重要な主題である。この主題については、横浜基礎研究所の「ICD-11 に基づく神経発達症群と併存症の臨床マニュアル」付録「知的発達症におけるカタトニアの理解」で、観察の方法、悪性症候群との見分け方、施設場面での具体的な対応などを、図解とともに詳しく述べている。

成人領域における留意点

カタトニアは、臨床研究において精神科急性期病棟での推定有病率が 10〜15% と報告される症候群であり、けして稀なものではない。しかし、生活場面で症状が現れたとき、周囲からは本人がわざと行動を止めているように見えたり、風変わりな振舞いに見えたりすることがある。そのために、医療につながるのが遅れる場合がある。

この症候群について、本書の読者にとって特に重要な点は次の二つである。

第一に、カタトニアは原則として治療がよく効く症候群である。基礎にある障害(気分症、統合失調症、身体疾患など)への対応に加えて、ベンゾジアゼピン系薬剤や電気けいれん療法による治療が効果を上げることが多い。早く気づき、早く精神科医療につなぐことが、本人のその後の経過を大きく左右する。

第二に、自律神経症状を伴うカタトニアは医学的な緊急事態である。心拍・血圧・体温の異常を伴う場合、横紋筋融解からの急性腎不全、脱水や消耗による全身状態の悪化、嚥下性肺炎など、命に関わる合併症が起こりうる。職場や学校・施設の場面で、本人が動かない・話さない・食べない・反応しないといった状態が観察された場合、それを単なる「やる気の問題」「ふざけている」と解釈してはならない。速やかに医療機関へつなぐことを検討する——この認識を、関係するすべての職種で共有しておくべきである。

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