第2章 発作の観察と記録
この章で学ぶこと
てんかん発作の大多数は、診察室の中ではなく、施設での日常生活の中で起こります。食事中、入浴介助中、集団活動中、就寝時、起床時──発作を最初に目撃し、最も詳細に観察できるのは、現場の施設職員です。この観察の質が、主治医の診断と治療選択を左右します。
本章では、発作を目撃した瞬間から医療スタッフに情報を伝えるまでの観察・記録・伝達の一連の流れを、実務の視点から解説します。発作の5つの観察軸、焦点性と全般性を見分ける手がかり、施設で使いやすい発作記録票のテンプレート、そして観察を歪めるバイアスと、その対処法まで扱います。
本章の構成
1.なぜ職員の観察が決定的に重要か
前章で確認した通り、ILAE 2017新分類は発作型(レベル1)から診断が始まり、てんかん型・症候群へと階層的に深化していきます。そしてこの最初のレベルの判断──焦点起始か、全般起始か、起始不明か──は、発作の目撃情報に全面的に依存します。脳波もMRIも、発作そのものを映すことはできません。主治医が発作の性格を判断する最も確実な手がかりは、発作を見た人の証言なのです。
外来受診の短い時間中に発作が起こることはまれです。発作は、日常生活の中で、最も自然な文脈で発生します。入浴中、食事中、活動中、睡眠中、起床時、トイレで、廊下で──いずれの場面でも、最初に気づき、最初から最後まで見届けるのは、そこに居合わせた職員です。職員が何を観察し、何を記録したかが、診断そのもの、薬剤選択、そして外科治療の適応判断までをも決定づけます。
発作の観察と記録は、単なる事後報告ではなく、てんかん診療そのものの最上流にある臨床行為です。「先生に診てもらう前の準備」ではなく、「すでに医療の一部」と位置づけることが、本マニュアル全体を貫く姿勢です。
2.発作を目撃したとき、最初の30秒
発作を目撃したとき、職員がまずすべきことは「安全の確保」と「時刻の記録」の2点です。詳しい観察は安全が確保されてからでよく、むしろ焦って記憶に頼ろうとするより、時刻をメモすることの方が後々の情報価値ははるかに高くなります。発作の持続時間は、5分を超えれば「てんかん重積状態」の領域に入り、救急対応の判断に直結する重要情報だからです(詳細は第5章)。
多くの発作は2分以内に自然に終息します。したがって最初の30秒〜1分は、慌てず、利用者さんの安全を守りながら観察に徹する時間帯です。この時間帯にやってはいけないこと、やるべきことを、以下に整理します。
- 口の中に物を入れない(指・箸・タオル・ハンカチなど)──窒息・歯牙損傷・職員の指の負傷を招きます。「舌を噛まないように」は誤解で、発作中の舌咬傷は通常発作の最初の瞬間に起きており、後から介入しても防げません。
- 強く押さえつけない──発作による動きは、抑えようとすると骨折・脱臼・外傷の原因となります。緩やかに体位を支える程度に留めます。
- 揺さぶったり、叩いたり、声を荒げて呼びかけたりしない──発作の進行は抑制できず、本人にとっては恐怖体験となります。
- すぐに水を飲ませない──意識が戻っていないうちは誤嚥のリスクが高く、落ち着きを取り戻してから様子をみて勧めます。
- 発作中の本人を一人にしない──大声で助けを呼ぶ・内線で応援を要請するが、その場から離れません。
- 時刻を記録する──腕時計・壁の時計・携帯の時計で、発作開始時刻を確認します。
- 危険物を遠ざける──熱い食器、硬い家具の角、階段、水(特に入浴中)。本人を移動させるのではなく、危険物の方を移動させるのが原則です。
- 横向き(回復体位)にする──可能な範囲で、嘔吐物による誤嚥を防ぐため側臥位にします。ただし強い運動症状がある間は無理にせず、動きが落ち着いてから整えます。
- 眼鏡・義歯・きつい衣服の襟元を緩める──呼吸と安全のため。
- 観察する──できれば複数名で、下記の「5つの観察軸」に沿って。
- 5分を超えたら救急要請──重積状態の可能性を判断(詳細第5章)。
3.発作の5つの観察軸
発作の観察は、次の5つの軸に沿って行うと、医療スタッフに伝わる情報として整理しやすくなります。すべてを完璧に観察する必要はありません。気づいた範囲で構わないので、憶測や解釈を加えず、事実だけを記録することが重要です。
軸1:開始──焦点か全般かを示す最大の手がかり
発作がどこから、どのように始まったかは、焦点起始か全般起始かを判別する決定的な情報です。手のしびれ、片方の口角の引きつり、片目の瞬き、頭の一側への回旋、一側だけの強直──いずれも焦点起始を強く示唆します。逆に、本人が突然倒れ、瞬時に全身が強直・間代する場合は全般起始の可能性が高まります。
また、発作の直前に本人が「何かおかしい」と訴えたか、ぼーっとしたか、特定の感覚(変な匂い、上腹部の違和感、恐怖感、既視感)を口にしたかは、焦点発作の重要な初期症状(旧「前兆」、ILAE 2017以降は「意識的に経験される発作」)を示している可能性があります。こうした訴えは、たとえ数秒の出来事でも記録しておく価値があります。
軸2:意識──応答と記憶の2側面から観る
発作中の意識の状態を判断するには、「呼びかけに応答できたか」と「本人が発作中のことを覚えているか」の2側面を観察します。日本てんかん学会の2017年公式訳では、意識が保たれる場合を「焦点意識保持発作」、失われる場合を「焦点意識減損発作」と呼びます。
応答の確認は、発作中に職員が「〇〇さん、聞こえますか」と声をかけ、手を握る、目を合わせるなど、できる範囲で試みます。ただし発作そのものを妨害してはいけません。声かけは1回か2回で十分で、応答がなくても執拗に繰り返す必要はありません。
記憶の確認は、発作が完全に終わってから、本人が落ち着いた後に「さっきのこと、覚えていますか」と穏やかに尋ねます。「覚えている」「覚えていない」「途中から覚えていない」など、本人の言葉のまま記録します。
+ もっと詳しく:2025年改訂での「意識」概念の再定義と、なぜ「応答と記憶の2軸」が重要か
第1章第11節で触れたとおり、ILAE 2025年改訂では、意識(consciousness)を「応答性(responsiveness)」と「想起(awareness)」の2要素で操作的に定義することになりました。これは、職員が日常的に行っている観察──声かけに反応したか、あとで覚えているか──と正確に一致します。
応答性と想起が乖離する場合
まれに、発作中に応答できるのに事後は覚えていない、あるいはその逆のケースがあります。前者は「発作後健忘(postictal amnesia)」によるもので、意識そのものは保たれていたと解釈されます。後者は「発作性失語」「発作性麻痺」によって応答できなかっただけで、意識は保たれていたと解釈されます。
施設での実用上は、このような特殊ケースの判別までを現場に求めるものではありません。「声かけに応答した/しなかった」「あとで覚えていた/いなかった」──2軸をそのまま記録するだけで、医師が適切に解釈します。
「意識の完全消失」ではなく「意識の障害」
多くの発作では、意識が完全になくなるのではなく、部分的に保たれたり変動したりします。目は開いている、動作はしているが呼びかけに反応しない、話している内容がちぐはぐ──これらはすべて「意識減損」に相当します。目が開いていること=意識があること、ではありません。
軸3:運動症状──何が、どこで、どの順に起きたか
運動症状の観察では、次の4点に注目します。
- 強直(こわばり)か、間代(ガクガクした律動的な収縮)か、両方の組み合わせか──「強直間代発作」は、最初に強直相、次に間代相という順で進行します。
- 左右対称か、非対称か──片側だけの、あるいは左右で明らかに差がある動きは、焦点起始を示唆する重要情報です。
- 頭や眼球が一方向に偏るか──「強制的な頭部回旋」「眼球偏位」は、のちに述べる側方化症状の一つです。
- 自動症の有無──口をもぐもぐさせる(口咽頭自動症)、手で衣服や寝具をまさぐる(手の自動症)、意味のない言葉を発する(言語自動症)など、無意識の反復動作。焦点発作(特に側頭葉起源)を強く示唆します。
軸4:持続時間──秒単位で把握する
持続時間は、開始時刻と終了時刻を可能な限り秒単位で記録します。体感では「長く感じた」「ずっと続いた」と感じても、実測すると1〜2分だった、ということはよくあります。この客観的時間こそが、医療的判断を支えます。
発作が5分を超えて持続する場合、または意識が完全に回復する前に次の発作が始まる場合は、「てんかん重積状態」の領域に入っており、救急対応が必要です(詳細第5章)。施設によっては「5分ルール」として、5分経過時点で自動的に救急要請する運用がなされていることがあります。
軸5:発作後の状態──診断情報としての「回復期」
発作が終わった後、本人がどのような状態だったかも、きわめて重要な診断情報です。次の点を観察します。
- 意識が戻るまでの時間──数秒で戻るか、数分かかるか、しばらく深く眠り込むか。
- 一側の麻痺の有無──発作後に片側だけ動きが悪い、力が入らない場合は「Todd麻痺」と呼ばれ、麻痺した側と反対側の大脳半球から発作が起きた焦点起始発作を強く示唆します。通常は数分〜数時間で回復します。
- 言葉の状態──話せるか、理解できるか、発音が不明瞭か。発作後失語は優位半球(多くは左半球)からの発作を示唆します。
- 身体症状──頭痛、筋肉痛、舌咬傷(特に側面の咬傷は全般性強直間代発作を強く示唆)、尿失禁、嘔吐、鼻をこする動作(発作後鼻こすりは多くの場合、発作が起こった同側の手で行われます)。
- 情動の状態──不安、混乱、涙、怯え。発作後の情動は本人の恐怖体験を反映することがあり、その後のケアに大きく関わります。
4.焦点性と全般性を見分ける実用的な視点
本章で最も重要な判別が、焦点起始か全般起始かです。この判別は、抗てんかん薬の選択(ナトリウムチャネル遮断薬は全般発作で悪化することがある等)、外科治療の適応、症候群診断のすべてに直結します。施設職員が完璧に判別する必要はありませんが、判別の手がかりを知っておくと、観察の精度が格段に上がります。
- 身体の一部だけから始まる(手・口角・頭の一側)
- 左右非対称の運動
- 発作前に本人が特殊な感覚を訴える(匂い、上腹部感覚、恐怖感、既視感)
- 意識が段階的に変わる(保持→減損へ)
- 口や手の自動症が出現する
- 頭や眼球の一方向への偏り
- 発作後に一側の麻痺(Todd麻痺)が残る
- 成人になってからの初発
- 開始時から両側同時の運動症状
- 発作の瞬間から意識消失(本人は発作を記憶しない)
- 欠神発作の場合、数秒間の凝視と動作停止
- 覚醒時や光刺激で誘発
- 睡眠不足や飲酒で誘発
- 家族歴がある(特に若年ミオクロニーてんかん)
- 小児期・思春期の発症
- 脳波に全般性棘徐波
ILAE 2017分類は、焦点か全般かを判別できないとき、「起始不明発作(unknown onset)」というカテゴリーを用意しています。無理に焦点/全般を決める必要はなく、「判別できない」と正直に記録することが、後に情報が追加されたときに分類を再検討する余地を残します。職員は判断しすぎるよりも、事実を淡々と記述する方が、医療にとって価値があります。
5.側方化症状──7つの所見
焦点起始発作では、発作の起源がどちらの大脳半球にあるかを示す「側方化(lateralizing)症状」が観察されることがあります。これは外科治療の術前評価で特に重要な情報となります。ドイツ語圏神経学のLüders、Acharyaらの大規模ビデオ解析研究(1998年)以来、次のような側方化症状が確立されています。
| 観察される症状 | 示唆する発作起源 | 特異度 |
|---|---|---|
| 全般化する前の強制的な頭部回旋 頭が一方向にぐっと向けられる |
対側の半球 (右に回旋すれば左半球起源) |
約95% |
| 発作時ジストニア 片方の腕や手が不自然な姿勢でこわばる |
対側の半球 | 約90% |
| 発作中にはっきりと話せる 自動症中でも言葉が発せられる |
非優位半球 (多くは右半球) |
>90% |
| 一側性の間代 片側だけのガクガクした律動的な収縮 |
対側の半球 | >90% |
| 自動症中の意識保持 手の自動症が続くのに応答はできる |
非優位半球 | >90% |
| 発作後の言語障害 話せない、ちぐはぐな受け答え |
優位半球 (多くは左半球) |
80〜90% |
| 発作後の鼻こすり 発作後に無意識に鼻を擦る動作 |
同側の半球 (鼻をこする手の側) |
>90% |
発作観察で「どちら側」に症状が出たかを正確に記録することは、想像以上に重要です。将来、利用者さんが薬剤抵抗性と判定され、てんかん外科手術の適応評価を受ける場合、この「どちら側」の記録の積み重ねが手術側の決定に直接影響します。日々の記録が、10年後の手術判断を変えることがあります。
6.発作記録票のテンプレート
以下は、本マニュアルが提案する標準的な発作記録票のテンプレートです。各施設の既存フォーマットと照らし合わせ、不足項目を追加する参考資料として活用してください。付録で印刷用のA4版を提供します。
この記録票の最大の強みはチェック式項目です。急いで記入するときでも観察点を網羅でき、また、後から主治医が読み返したときも、何を観たかと何を観なかったか(観察の範囲)が明確になります。空欄は「観察できなかった」を意味し、虚偽の情報が混ざる余地を減らします。
7.観察を妨げるもの──バイアスと思い込み
どれほど熟練した職員でも、発作観察には認知バイアスが入り込みます。以下は、現場で特に見られやすいバイアスと、その対処法です。
(a) 確証バイアス
「この人はいつも全般発作だから、今回もそうだろう」という先入観が、目の前の現象を歪めて見せることがあります。実は今回は焦点起始の可能性がある、ということが見落とされがちです。毎回を「初めて見る発作」として観る姿勢が、診断の進歩を支えます。
(b) 解釈の混入
「発作が強かった」「いつもより軽かった」といった主観的評価は、医師にとって使いづらい情報です。「全身が2分間強直し、その後30秒間の間代があった」のように、事実の記述に徹する方が、はるかに価値があります。
(c) 記憶の歪み
発作を目撃してから記録票に記入するまでの時間が長いほど、記憶は再構成されます。理想は発作中・直後にメモを取ること、難しければ5分以内に書くことです。複数の職員が目撃した場合は、相談する前にそれぞれが独立して書くと、観察の食い違いが診断情報として活きます。
(d) 「演技」「気を引きたい」という決めつけ
とくに心因性非てんかん性発作(PNES)との鑑別が問題となる場面で、「演技だ」「気を引きたいだけ」と決めつける発言が現場で出ることがあります。この決めつけは最も危険です。PNESは本人にとって意図的な演技ではなく、また「演技」と思われた発作が実はてんかん発作だった例も多数報告されています。被虐待児の支援現場では特に慎重な対応が求められます(詳細は第7章)。
+ もっと詳しく:独立記述の価値と、集団記憶の罠
同じ発作を複数の職員が目撃したとき、まず相談してから記録票を書くと、集団で記憶を共有・修正することで一致した証言が作られますが、同時に情報の多様性が失われます。一方、各職員が独立に記録し、後から照らし合わせると、次のような豊かな情報が得られます。
- 同じ発作でも、観察位置によって見える側面が異なる
- 一致する部分は信頼度の高い所見
- 食い違う部分は、発作の変動性を示す情報になる
- 一人だけが気づいた細部が、のちに重要な診断情報となることがある
警察の目撃証言研究で確立された「独立陳述の原則」は、てんかん発作の観察にもそのまま当てはまります。複数目撃の場合こそ、まず書く、相談はそのあと──という習慣を、施設として共有することを推奨します。
8.医療への情報伝達──何を、誰に、どう伝えるか
発作の記録が整ったら、次は医療への情報伝達です。伝達の形は、緊急度と内容によって3つに分かれます。
| 緊急度 | 伝達先と方法 | 伝える内容の要点 |
|---|---|---|
| 緊急 重積・外傷・初回発作 |
救急要請(119) + 主治医・家族への連絡 |
施設名・住所・利用者氏名・年齢・意識状態・発作の持続時間・現在の呼吸/脈拍・既往のてんかん診断・常用薬・アレルギー歴 |
| 準緊急 普段と異なる発作・頻度増加 |
主治医への電話連絡 + 診療情報提供書準備 |
いつもと違う点を明確に(型・持続時間・回数の変化など)/記録票を持参し次回受診時に提示 |
| 通常 定例発作 |
次回受診時に記録票を持参 | 期間中の発作回数・各発作の詳細記録・頓用薬使用状況・副作用の有無 |
発作が普段と異なる場合、「いつもと違う感じでした」という伝え方では情報になりません。「普段は1分以内で終わる全般強直間代発作だが、今回は3分続き、発作後も30分意識が朦朧としていた」のように、普段の像と今回の違いを具体的に並べることで、医師は変化の意味を評価できます。普段の像を共有するためにも、発作記録票の継続的な運用が鍵となります。
9.動画撮影の倫理と有用性
発作の動画撮影は、てんかん診療においてきわめて強力なツールです。文章では表現しきれない発作の様子を、医師は動画から直接読み取ることができます。側頭葉てんかんの内側側頭葉起源か外側型か、前頭葉てんかんの過運動発作か、ミオクロニーか強直か──これらの判別は、動画があれば短時間で可能になります。
しかし施設での動画撮影は、倫理的・法的な配慮を欠かすことができません。以下の原則を施設として確立することを推奨します。
- 事前の包括的同意──利用者さん本人(同意能力がある場合)、ご家族、成年後見人のいずれかから、発作時の動画撮影と医療目的での利用について、事前に文書で同意を得ておきます。
- 撮影範囲の限定──顔・上半身など発作症状の判別に必要な範囲に限り、陰部・着替え中・入浴中などプライバシーに関わる場面での撮影は、別途の判断基準を設けます。
- 保管と削除のルール──撮影動画は施設の端末に保存し、個人端末・SNSへの転送を禁止します。医療機関への提供後は、原則として速やかに削除します。
- 他の利用者の映り込み防止──集団活動中の発作では、他の利用者さんが映り込まないよう構図に配慮します。
- 本人が嫌がる場合は撮影しない──発作後に本人が動画の存在を知って強い苦痛を感じる場合、その意思を尊重します。
動画が有用だからといって、一人きりの職員が撮影を優先し、安全確保や応援要請が遅れる事態は避けなければなりません。原則として、安全確保と応援要請が先、撮影は余裕のある場合に限るという優先順位を施設として共有してください。撮影のない発作記録票の方が、撮影のある不十分な初動よりもはるかに価値があります。
Summary of Chapter II
発作観察は、てんかん診療の最上流にある臨床行為である。発作の大多数は日常生活の文脈で起きるため、最初に目撃し、最も詳細に観察できるのは施設職員である。目撃したときは安全の確保と時刻の記録を優先し、口の中に物を入れない・強く押さえないといった古い常識からの脱却を徹底する。
観察は5つの軸(開始・意識・運動症状・持続時間・発作後)に沿って行い、焦点起始か全般起始かを示唆する所見を意識する。一側だけの運動、本人の前兆の訴え、自動症、頭部回旋、発作後のTodd麻痺などは焦点起始を強く示唆する。発作中の側方化症状(強制的頭部回旋、ジストニア、発作中の発語、発作後言語障害など)は、外科治療の術前評価で重要な情報となる。
記録は、解釈を交えず事実を淡々と記述する。複数目撃の場合は独立に記録する。記録票の継続的な運用が、「いつもと違う発作」を早期に捉える基盤となる。医療への伝達は緊急度によって3段階(救急要請/主治医連絡/次回受診時の提出)を使い分け、動画撮影は倫理的配慮のうえで慎重に運用する。
発作観察・記録・伝達は、てんかん治療を根本から支える施設職員の中核的業務であり、その質の向上は、利用者さんの生涯の治療予後に直結する。