第13章 てんかん

発作を見たときに動けるようになるための、やさしい手引き

コア層 約12分/全層 約40分
本章の重要性

てんかんは、知的発達症(知的障害)のある方に最も多く併存する神経の病気です。障害が重い方ほど頻度が高くなります。そして発作は、診察室ではなく食事中・入浴中・活動中・就寝中に起こります。つまり、発作を最初に見て、いちばん詳しく観察できるのは施設職員です。発作が5分を超えたら救急車を呼ぶ口の中に物を入れない体を強く押さえつけない──この3つは、本章のなかでも特に命に直結する内容です。

この章で学ぶこと

てんかんの基本的な考え方、現場で出会う主な発作の「見え方」、発作を見たときの手順、救急車を呼ぶ基準、観察と記録のしかた、知的発達症や自閉スペクトラム症(ASD)のある方に特有の注意点、薬について知っておくこと、日常生活の安全対策を学びます。

大切な前提があります。診断も治療方針も、決めるのは医師です。職員に求められるのは、観察・記録・緊急時の対応・服薬管理の補助・安全確保の5つです。「これは何の発作だろう」と判断しようとしなくて構いません。「何が見えたか」を事実のまま伝えることが、いちばん医療の役に立ちます。

どこから読めばよいか

新任の方・時間のない方は4節「発作を見たときの対応」5節「救急車を呼ぶ基準」6節「発作が止まったあとの対応」7節「観察と記録」だけをお読みください。この4つの節には、その場でどうするかを示した緑色の枠(発作を目撃したとき/救急要請を判断するとき/発作後)が置いてあります。これだけで日々の業務に必要な内容は足ります。経験のある方・主任以上の方は、全体をお読みください。折りたたみの「もっと詳しく」は、関心のある方向けの補足です。

1. はじめに──なぜ施設でてんかんを学ぶのか

てんかんは、一般の人口では約0.5〜0.6%の方がもつ病気です。ところが私たちが支援している方々では、話がまったく変わります。知的発達症のある方では、障害が重くなるほどてんかんをもつ割合が高くなります。

どのような方か てんかんをもつ割合(おおよそ)
一般の人口0.5〜0.6%
軽度の知的発達症5〜10%
中等度〜重度の知的発達症約20%
最重度の知的発達症・脳性麻痺のある方30%以上
自閉スペクトラム症(ASD)全体約20〜25%
自閉スペクトラム症+知的発達症約30%

重い障害のある方が生活する入所施設では、3人に1人近くがてんかんをもつことも珍しくありません。てんかんの知識は一部の看護職のものではなく、現場職員全員の基礎知識です。

もうひとつ大事な事実があります。発作を見ることができるのは、医師ではなく私たちです。発作は外来の短い診察時間にはめったに起こりません。その場に居合わせた職員が「何を見て、何を記録したか」が、医師の診断や薬の選び方を左右します。

職員の役割の線引き

本章を通じて一貫している考え方です。診断するのは医師、治療方針を決めるのも医師です。職員がすることは次の5つです。

「これは発作かどうか」「薬を変えたほうがよいのでは」と職員が判断する必要はありません。判断のもとになる材料を正確に医療へ届けることが役割です。なお本編の第1章「神経発達症群」でも、重度・最重度の知的発達症ではてんかんなどの身体合併症が多いことに触れています。

2. てんかんとは何か/発作とは何か

よく混同される2つの言葉を分けて理解します。

ですから、1回発作を起こしたからといって、必ずてんかんとは限りません。ご家族への説明でも大切なポイントです。また、はっきりした急な原因で起こる発作は「急性症候性発作(きゅうせいしょうこうせいほっさ)」と呼ばれ、てんかんとは区別されます。原因が取り除かれれば繰り返さないからです。脳炎、頭のけがの直後、低血糖、極度の睡眠不足、アルコールの離脱状態などが原因になります。

施設でとくに多い「てんかんではない発作」──水中毒

知的発達症のある方の施設では、水を大量に飲んでしまうこと(多飲)による水中毒が、けいれん発作の原因として非常に多いことが知られています。水を飲みすぎると血液中のナトリウム(塩分)が薄くなり(低ナトリウム血症)、けいれんを起こします。抗精神病薬を飲んでいる方ではさらに起こりやすく、とくに夏場に多く報告されています。このほか施設で念頭に置くべき原因として、低血糖薬の離脱症状高熱をともなう脳の感染症(脳炎・髄膜炎)があります。

ですから発作のあとには「その日の水分の量」「食事と睡眠」「薬の変更」「体調の変化」もあわせて医療に伝えてください。原因を判断するのは医師ですが、この情報がなければ医師も判断できません。

発作の分け方の骨組み

国際的には、発作は「どこから始まったか」で大きく3つに分けられます。国際抗てんかん連盟(ILAE)という国際団体が定めた、医師が使う共通の言葉です。

発作の分け方の骨組み──「どこから始まったか」 焦点起始 脳の片側の 一部から始まる 例:片手だけがピクつく 全般起始 はじめから 両側が一斉に 例:突然倒れて全身が硬直 起始不明 始まりを見ていない ・わからない 例:気づいたら倒れていた 「起始不明」は立派な答えです 無理に決めず、見えなかったことは「見えなかった」と記録します
図1 発作の分け方の骨組み
この区別を最終的に判断するのは医師です。職員は「始まりをどう見たか」を伝えるだけで十分です。

ここで大事なのは、「起始不明」という選択肢が正式に用意されていることです。無理に決める必要はありません。「途中から見たのでわかりません」と正直に記録するほうが、医療にとって価値があります。

もっと詳しく:分類はどのように使われているのか

ILAEが2017年に公表した分類では、診断を3つの段階で少しずつ深めていきます。

  • 第1段階:発作型──1回の発作がどのタイプか(焦点起始/全般起始/起始不明)。脳波やMRIがなくても観察だけで判断できる段階で、職員の観察と直結します。
  • 第2段階:てんかん型──焦点てんかん/全般てんかん/全般・焦点合併てんかん/不明の4つ。脳波の所見が重要になります。
  • 第3段階:てんかん症候群──発症年齢、発作型の組み合わせ、脳波、画像、原因などをまとめた、ひとまとまりの病気の姿。West症候群、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群などが代表です。

あわせて原因(構造的・素因性・感染性・代謝性・免疫性・病因不明の6つ)と併存症も記載されます。職員が覚えるのは第1段階までで十分ですが、主治医の診断書に出てくる言葉が何を指すかがわかると、医療との会話が楽になります。詳しくは専門職向けのてんかんマニュアル第1章をご覧ください。

3. 現場で出会う主な発作のかたちと、その見え方

ここでは施設でよく出会う発作を、「職員からどう見えるか」という視点で並べます。名前を覚えることが目的ではありません。「これも発作かもしれない」と思える引き出しを増やすことが目的です。

診断は医師が行います。この表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。発作の名前を当てる必要はありません。

発作の名前 職員からはこう見えます 注意したいこと
全般強直間代発作
(いわゆる大きなけいれん発作)
突然意識がなくなって倒れます。まず全身がぐっと硬くなり(強直=こわばること/10〜20秒)、叫び声のような声が出ることも。続いて全身がリズミカルにガクガクします(間代/30秒〜1分)。そのあと深く眠り込み、少しずつ意識が戻ります。 目覚めた直後に、混乱、頭痛、筋肉痛、舌を噛んだ跡、失禁が見られることがあります。5分を超えて続く場合は救急対応の対象です。
欠神発作
(けっしんほっさ)
数秒〜十数秒、急に動作が止まり、一点を見つめたまま反応がなくなります。倒れず、けいれんもしません。すぐ戻り、本人も「ぼんやりしていた」程度しか自覚がありません。 いちばん見落とされやすい発作です。1日に何十回も起こることがあります。「最近ぼーっとしていることが多い」と気づいたら医療に伝えてください。
焦点意識減損発作
(昔の「複雑部分発作」)
意識がぼんやりし、口をもぐもぐさせる、衣服や寝具をまさぐるといった無意識の繰り返し動作(自動症)が見られます。始まる前に「変なにおいがする」「見たことがある気がする」と訴えることがあります。 発作後の混乱が長く、数分〜数十分ぼんやりが続きます。「指示に従わない」「勝手な行動」と誤解されやすい発作です。
脱力発作 突然、体の力が抜けて崩れ落ちるように倒れます。予告がありません。 頭を強く打ちやすく、保護帽(ヘルメット)の検討対象になることがあります。
ミオクロニー発作 体や手足が一瞬「ビクッ」と動きます。ごく短く、意識は保たれていることが多いです。 物を落とす、食事中に手が跳ねる形で気づかれます。急に増えたときは医療に伝えます。
強直発作 体幹や手足のつけ根が数秒間ぐっとこわばります。睡眠中に多く見られることがあります。 短いため、夜間は見過ごされがちです。
焦点起始両側強直間代発作
(昔の「二次性全般化」)
はじめは体の一部(片手、片方の口角、頭が片側にぐっと向く)から始まり、そのあと全身のけいれんに広がります。 見た目は大きなけいれん発作と同じですが、始まりが片側だったかどうかで医師が選ぶ薬が変わります。「最初に何がどこから起きたか」は必ず記録してください。
「前兆」という言葉について

発作の前に本人が感じる違和感を、昔は「前兆(ぜんちょう)」と呼んでいました。しかし現在の国際分類では使われません。その違和感は「発作が来る予告」ではなく、すでに発作が始まっている状態(焦点発作の最初の場面)だとわかったからです。職員の実務としては呼び方は重要ではありません。本人が「変な感じがした」と言ったら、それ自体が発作の一部かもしれないと考えて、本人の言葉のまま記録することが大切です。

4. 発作を見たときの対応

ここが本章の最も重要な部分です。手順は次の通りです。

発作を見たときの対応の流れ 0秒 時計を見る・ストップウォッチを押す 同時に大きな声で応援を呼ぶ。その場を離れない。 〜30秒 周りの危険物をどける・頭の下に柔らかい物 眼鏡を外す。襟元をゆるめる。本人ではなく物を動かす。 〜2分 動きが落ち着いたら横向き(回復体位)にする 可能なら30秒以内に。同時に観察する。多くの発作は2分以内に終わります。 5分 頓服の使用と119番を「同時」に行う 頓服を使ったあと「効くまで様子を見る」のは誤りです。 発作が止まっても、呼吸と意識が戻るまで目を離さない
図2 発作を見たときの対応の流れ
頓服薬の使用条件・量・使い方は、あらかじめ主治医が定めた指示に従います。指示のない方には使いません。
その場でどうするか

発作を目撃したとき──少ない手出しで、安全と観察を両立させる

  1. まず、時刻を記録する──腕時計、壁の時計、携帯電話で発作の開始時刻を確認します。本人に手を出す前に、まず計時です。
  2. 同時に、応援を呼ぶ──大声で呼ぶ、内線で要請する。ただしその場からは離れません。一人で対応しないことが原則です。
  3. 危険物を遠ざける──熱い食器、硬い家具の角、階段、水(とくに入浴中)。本人を動かすのではなく、危険物のほうを動かすのが原則です。
  4. 頭の下に柔らかい物を置く──クッション、枕、たたんだ衣類。
  5. 眼鏡・義歯を外し、きつい襟元をゆるめる
  6. 動きが落ち着いたら、横向き(回復体位)にする──吐いた物がのどに詰まるのを防ぎます。ただし激しく動いている間は無理をせず、落ち着いてから整えます。
  7. 観察する──できれば複数名で(7節参照)。
  8. 5分を超えたら、頓服と救急要請を同時に行う5節参照)。
  9. 発作が止まっても、呼吸と意識が戻るまで目を離さない6節参照)。
してはいけないこと──古い常識は命を危険にさらします
  • 口の中に物を入れない──指、箸、スプーン、タオルなど、何も入れてはいけません。窒息、歯の損傷、職員の指のけがを招きます。「舌を噛まないように」というのは誤解です。発作中の舌の噛み傷は、通常いちばん最初の瞬間にすでに起きており、あとから何かを入れても防げません。
  • 強く押さえつけない──抑えようとすると骨折・脱臼・けがの原因になります。ゆるやかに体位を支える程度にとどめます。
  • 揺さぶったり、叩いたり、怒鳴るように呼びかけたりしない──発作の進み方は止められません。本人には恐怖の体験になります。
  • すぐに水や薬を飲ませない──意識が戻る前に飲ませると、誤嚥(ごえん=気管に入ること)の危険が高くなります。
  • 発作中の本人を一人にしない
  • 「そのうち止まるはず」と待たない──5分を超えたら、自然に止まる可能性は急に低くなります。
  • 時間を計らずに感覚で判断しない──30秒の発作が5分に感じ、5分の発作が10分に感じます。体感時間はあてになりません。

頓服薬について

発作時の頓服薬(とんぷくやく)は、5分を超える発作を止めることを目的に、あらかじめ処方されているものです。使う条件・量・使い方は主治医が事前に定めており、職員はその指示に従って使います。施設で使われる主なものに、ジアゼパム坐薬(ダイアップ坐薬)ミダゾラム口腔用液(ブコラム口腔用液/頬と歯ぐきの間に注入するもの)があります。後者は2020年から日本で使えるようになったもので、衣服を脱がせる必要がなく、集団活動中や外出先でも使えるため、施設の頓服として広がりつつあります。

最も重要なルール──頓服と救急要請は「同時」

「頓服を使ったから、効くまで様子を見よう」というのは、施設で最も注意すべき誤った運用です。頓服は発作を止めることもありますが、止まらないこともあります。そして効かなかったとわかるのは使ってから10〜30分後です。そのときには、脳へのダメージが心配される段階に入っている可能性があります。

5分を超える発作では、次のように役割を分けます。職員Aが頓服を投与、職員Bが119番、職員Cが搬送の準備(お薬手帳、処方リスト、保険証)。

頓服が効いて発作が止まった場合は、救急隊の到着時に「止まりましたが、念のため受診させてください」と伝えて相談します。救急要請が「呼ばなくてもよかった」という結末で終わるのは、失敗ではなく成功です。

5. 救急車を呼ぶ基準

発作が5分を超えて続く状態は「てんかん重積状態(じゅうせきじょうたい)」と呼ばれ、命に関わる緊急事態として扱われます。かつては「30分以上続いたら重積」とされていましたが、5分を超えると自然に止まる確率が急に下がること、30分を超えると脳に取り返しのつかないダメージが始まることがわかり、基準が5分に前倒しされました。これが現在の日本の標準的な基準です。

2つの時間の意味

つまり5分から30分までの25分間が、脳を守るための時間の窓です。施設の対応はこの窓に間に合うよう組み立てます。「15分・30分で救急車」という古い決まりで運用している場合は、施設の規程を見直してください。

その場でどうするか

救急要請を判断するとき──次のいずれかに当てはまったら119番

  1. まず、次のいずれかに当てはまるかを確かめる──ひとつでも当てはまれば、それだけで救急要請の理由になります。
    • 発作が5分を超えて続いている──時間がはっきりしなくても「長いな」と感じたら、計時した数字を見て判断します。
    • 発作が止まっても、意識が戻らないまま次の発作が始まる
    • 30分以内に2回以上の発作──1回1回が短くても対象です。
    • 呼吸の異常が続く──唇や顔色が青紫になる(チアノーゼ)、浅い呼吸が続く、気道がふさがっている疑い。
    • 吐いた物がのどに入った疑いがある(誤嚥)
    • 頭を強く打った、けががある
    • 水中・入浴中の発作(おぼれる危険)
    • 発作後の意識の戻りが、いつもより遅い・戻らない
    • これまでと明らかに違う形の発作が新しく出た
    • 高熱をともなう発作(感染症による発作の可能性)
    • てんかんの診断がない方の、初めての発作
  2. 当てはまったら、その場で119番通報する──5分を超える発作では、頓服と救急要請を同時に行います(4節)。
  3. 役割を分ける──職員Aが頓服を投与、職員Bが119番、職員Cが搬送の準備(お薬手帳、処方リスト、保険証)。
  4. 救急隊に伝える──氏名・生年月日・性別/発作が始まった時刻と今何分たっているか(計った数字をそのまま見せます)/発作の種類(全身のけいれん/片側だけ/意識だけがなくなった、など見えたまま)/発作中の呼吸と顔色/頓服を使ったか(何を、何分前に、どのように)/もともとの病気(てんかんの診断名、知的発達症の程度など)/直近の発作と普段の頻度/普段の意識やコミュニケーションの状態(医師が「発作から回復したか」を判断するうえで決定的に重要です)。
  5. 持っていく物をそろえる──お薬手帳・最新の処方箋のコピー/薬のアレルギー歴/症候群の診断書(とくに使ってはいけない薬がある方の情報)/保険証・医療証/最近の検査結果/主治医とご家族の連絡先/発作の動画を撮っていればその動画。あらかじめ利用者さんごとにまとめておくと、慌てずにすみます。
  6. 頓服が効いて発作が止まった場合も、受診を相談する──救急隊の到着時に「止まりましたが、念のため受診させてください」と伝えて相談します。
してはいけないこと──判断を鈍らせる5つの「落とし穴」
  • 「いつもと同じ発作だから大丈夫」──長い発作は「いつも」ではありません。基準は5分です。
  • 「ご家族に先に連絡してから」──家族連絡より救急要請が優先です。並行するのは構いませんが、順序を逆にしません。
  • 「主治医の指示を仰いでから」──時間外に連絡がつかない場合を想定して、あらかじめ施設の規程を整えておきます。
  • 「夜間でスタッフが少ないから」──少ないからこそ、早く救急を呼ぶべきです。
  • 「何度も呼ぶと病院に迷惑では」──救急隊も病院も専門家として対応します。遅らせる理由にはなりません。
Dravet(ドラベ)症候群の方では、必ず伝えることがあります

Dravet症候群という、乳児期に発症する難治性のてんかん症候群があります。この診断のある方では、ナトリウムチャネル遮断薬と呼ばれる一群の薬(カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、ラモトリギン、フェニトイン、ラコサミド)が、発作を著しく悪化させるため原則として使ってはいけません

ところが重積状態の治療では、ホスフェニトイン(フェニトインの仲間)が使われることが多くあります。ですから搬送のときに、「Dravet症候群のため、ナトリウムチャネル遮断薬は使わないでください」と、救急隊と救急外来の医師にはっきり伝える必要があります。そう書いたカードを本人に持たせておくと、確実に伝わります。

6. 発作が止まったあとの対応

発作が止まっても、職員の対応は終わりではありません。発作が終わってから、呼吸と意識が戻るまでが勝負どころです。ここでは、発作が止まったあとにすることを手順にまとめます。

その場でどうするか

発作後──動きが止まってから、いつもの状態に戻るまで

  1. まず、横向き(回復体位)にする──吐いた物がのどに詰まるのを防ぎます。ただし激しく動いている間は無理をせず、落ち着いてから整えます。
  2. 呼吸と意識が戻るまで、目を離さない──発作が止まっても、呼吸と意識が戻るまで目を離さないでください。てんかんによる突然死(SUDEP)は、大きなけいれん発作の「後」に呼吸と心拍の乱れが連鎖することで起こるからです(10節)。
  3. 意識の戻りを確かめる──呼びかけに応じるか、目線は合うかを見ます(声かけは1〜2回で十分)。落ち着いてから「さっきのこと、覚えていますか」と尋ね、本人の言葉のまま記録します。目が開いていること=意識がある、ではありません。重度・最重度の知的発達症のある方では、その方の普段の状態との差で評価します(8節)。
  4. けがを確認する──舌や口唇の傷、歯の欠けを確認してください。あわせて、片側だけ力が入らない状態はないか、話せるか、頭痛、筋肉痛、舌の噛み傷、失禁、嘔吐はあるかを見ます。
  5. 混乱・興奮には、叱責ではなく安全確保で応じる──今どこにいるか分からず、抵抗したり、暴言のように聞こえる言動が出たりします。これは意図的な行動ではありません。叱責ではなく、安全を確保しながら落ち着くのを待ちます。
  6. 清潔ケアは、プライバシーを守って速やかに行う──発作後の清潔ケアは速やかにプライバシーを守って行います。失禁があった場合、記録は淡々と事実として書き、後始末はプライバシーを守って速やかに行い、あとで繰り返し話題にすることはしません。
  7. 記録する──理想は発作中・直後にメモ、難しければ5分以内に書くことです。複数の職員が目撃したときは、相談する前にそれぞれが独立して書きます。発作後の気分の変化は「普段通り/混乱・興奮/抑うつ/易怒性」といった形で残します。書き方は7節にまとめてあります。
  8. 発作のあとの状況もあわせて医療に伝える──「その日の水分の量」「食事と睡眠」「薬の変更」「体調の変化」を伝えてください。原因を判断するのは医師ですが、この情報がなければ医師も判断できません。
  9. 意識の戻りが遅ければ、救急要請・医療相談に切り替える──発作後の意識の戻りが、いつもより遅い・戻らないときは119番です(5節)。けいれん発作のあと、普段なら30〜60分で戻る意識が半日たっても戻らないときも、医療機関への相談の対象です(11節)。
してはいけないこと
  • 意識が戻る前に水や薬を飲ませない──意識が戻る前に飲ませると、誤嚥(ごえん=気管に入ること)の危険が高くなります。
  • 発作が止まったからといって、その場を離れない──発作が終わったあとも本人から目を離さないことが、突然死の予防の核心です。
  • 発作後の混乱を「暴言・暴力」「指示無視」として叱責しない──これは意図的な行動ではありません。
  • 解釈を混ぜて記録しない──「強かった」「軽かった」は使いづらい情報です。「全身が2分間こわばり、そのあと30秒ガクガクした」のように事実の記述に徹します。
  • 記録を後回しにしない──時間がたつほど記憶は作り替えられます。
  • 失禁を、あとで繰り返し話題にしない──本人の尊厳に関わります。後始末はプライバシーを守って速やかに行います。
  • 発作を特別扱いしすぎない──日常に戻ることが尊厳の回復です。

7. 観察と記録

発作の観察と記録は、単なる事後報告ではありません。すでに医療の一部です。医師が発作の性質を判断する最も確かな手がかりは、発作を見た人の証言だからです。脳波もMRIも、発作そのものを映すことはできません。

見るべき7つのこと

すべてを完璧に観察する必要はありません。気づいた範囲でかまわないので、憶測を加えず事実だけを記録することが大切です。

観察の項目 具体的に見ること
① 発作の前の様子 直前に何をしていたか(睡眠中、食事中、活動中、入浴中)。睡眠不足や発熱、光の刺激はなかったか。本人が「変な感じ」「怖い」などと訴えなかったか。
② 始まり方 体の一部だけから始まったか、最初から全身か。手のしびれ、片方の口角の引きつり、頭が片側へぐっと向く──片側だけの変化はとくに重要な情報です。
③ 体のどこから/左右差 右だけか、左だけか、両側とも同じか。頭や眼球がどちらに向いたか。「どちら側か」の記録は、将来の手術の判断にまで影響します。
④ 持続時間 始まった時刻と、動きが止まった時刻。できれば秒単位で。5分を超えたら救急要請です。
⑤ 意識 呼びかけに応じたか。目線は合ったか(声かけは1〜2回で十分)。落ち着いてから「さっきのこと、覚えていますか」と尋ね、本人の言葉のまま記録します。目が開いていること=意識がある、ではありません。
⑥ 顔色・呼吸 唇や顔色が青紫になっていないか。呼吸が止まっていないか、浅くないか。
⑦ 発作後の様子 意識が戻るまでの時間。片側だけ力が入らない状態はないか。話せるか。頭痛、筋肉痛、舌の噛み傷、失禁、嘔吐はあるか。不安・混乱・涙はどうか。

なお失禁は本人の尊厳に関わる事柄ですが、同時に発作の種類を判断するうえで意味のある医学的情報でもあります。記録は淡々と事実として書き、後始末はプライバシーを守って速やかに行い、あとで繰り返し話題にすることはしない──この使い分けを職員間で共有してください。

記録の例

悪い記録の例 → 良い記録の例

悪い例:「Aさん、午後にてんかん発作。いつもより強かった。落ち着いてから休んでもらった。」
→ 何時に、どこから始まり、どのくらい続いたのかが分からない。「強かった」は書いた人の印象であって、医師には使えない。

良い例:「Aさん、14時32分、食堂で食事中に発作。最初に右手が10秒ほどピクピクし、続いて全身が硬直。14時33分頃から全身のガクガクした動きが約50秒。14時34分15秒に動きが止まる(合計約1分45秒)。発作中、呼びかけに応答なし、目線合わず。一時的に唇が青みがかったが、動きが止まってから戻る。失禁あり。横向きにして観察。14時50分に開眼、15時10分に呼びかけにうなずく(普段は名前を呼ぶと目線が合う方)。舌の右側に噛み傷あり。前日は21時就床、朝の薬は7時30分に飲めている。」
→ 時刻、始まり方、左右差、持続時間、意識、顔色、発作後の経過、普段との比較、服薬状況が入っており、医師が発作の型を判断し、薬を調整する材料になる。

記録を歪める4つの落とし穴

そして、発作がいつもと違うとき、「いつもと違う感じでした」では情報になりません。普段の姿と今回の違いを具体的に並べます。「普段は1分以内で終わる全身のけいれんですが、今回は3分続き、発作のあとも30分ぼんやりしていました」──このように言えると、医師は変化の意味を評価できます。そう言えるようになるためには、普段の発作の記録が積み重なっていることが前提です。

8. 知的発達症・ASDのある方のてんかん

ここが本章の読者にとって最も関係の深いところです。

なぜ併存しやすいのか

理由は2つあります。ひとつは共通の土台があるからです。脳が作られる時期に影響する遺伝子の変化や脳の構造の異常は、知的発達の遅れとてんかんの両方を同時に引き起こすことがしばしばあります。「知的障害があって、そのうえてんかんにもなった」のではなく、もともと一つの原因から両方が生じていることが多いのです。もうひとつはあとから脳が傷ついたからです。出生前後の低酸素、重い頭部外傷、髄膜炎・脳炎、虐待による外傷などは、両方を引き起こします。

この理解には実務上の意味があります。第一に、複数の種類の発作が同じ方に共存することが多くなります。強直発作、脱力発作、欠神のような発作、ミオクロニー発作、大きなけいれん発作、焦点発作が、時期を変えて現れます。「いろいろな発作が出て困る」のではなく、「複数の発作型をもつ一つのてんかん」として理解するのが現在の考え方です。第二に、薬が効きにくい傾向があります。一般のてんかんでは約3分の2の方が発作のない状態に到達しますが、知的発達症をともなう難治性のてんかんでは10〜20%にとどまることも珍しくありません。発作が止まらないのは、職員の支援やご家族の努力が足りないからではありません。

「発作を抑える」から「その方の生涯を支える」へ

一般のてんかん診療では「発作を抑える」ことが第一の目標です。しかし知的発達症をともなうてんかんでは、それが実現しないことが多くあります。そこで必要になるのが「この方の生涯をどう支えるか」という長い視点です。職員の役割は、日々の観察と生活支援を通じてご本人とご家族の生活の質を守ることにあります。

観察の3つの特殊性

① 「普段のその方」との差で見る

重度・最重度の知的発達症のある方は、もともと呼びかけへの応答が限られているため、「意識があるかないか」を一般の基準で判断できません。そこで、その方の普段の状態との差で評価します。普段なら名前を呼べば目線が合う方が発作中は合わない、普段ならお気に入りの音楽に反応する方が無反応──こうした形です。ですから、その方ごとの「普段の応答のしかた」をあらかじめ職員間で共有しておくことが決定的に重要です。夜勤者、新任者、応援職員にも伝わっている必要があります。

② 常同行動との見分け

ASDのある方に多い常同行動(手をひらひらさせる、体を前後に揺する、同じ音や言葉を繰り返すなど)は、発作の自動症やミオクロニー発作と間違えられることがあります。見分けのポイントは3つです。

見分けるのは医師の仕事です。この表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。

見るところ 常同行動 発作(自動症・ミオクロニー)
本人が止められるか声かけや別の活動に誘うと止められることが多い止められない
意識の状態行動中も意識は保たれている意識が変わることが多い(ミオクロニーを除く)
状況との関係不安・退屈・特定の刺激など、決まった状況で出やすい状況に関係なく突然出ることが多い

ただし、これは職員が「発作ではない」と結論を出すための表ではありません。迷ったら記録して、医療に伝えるのが正しい使い方です。

③ 本人が前兆を訴えられない

言葉での表現が難しい方は、発作の始まりの感覚を訴えることができません。しかし言葉以外のかたちで示していることがあります。急に不安そうな表情になる/一点を見つめ周りへの関心が薄れる/決まった場所(壁際、ベッド、信頼する職員のそば)に身を寄せる/決まった音を出す/口に手を当てる、胸を触る、決まった部位をこする、など。

これは発作の予告ではなく、すでに発作が始まっている最初の場面である可能性があります。日ごろから、その方ごとの「発作の前の変化のパターン」を職員間で共有しておくと、発作を予測して安全を確保する時間を稼げます。

「行動の問題」と誤解されやすい発作

てんかん発作のなかには、そのまま「問題行動」に見えてしまうものがあります。処罰的・叱責的な対応をする前に、まず発作の可能性を検討し、医学的な評価につなげてください。

発作の型 実際に起きていること 誤解されやすい言われ方
焦点意識減損発作口をもぐもぐする、手をいじる、衣服をまさぐる、目的のない歩行「指示に従わない」「勝手な行動」「集中していない」
前頭葉から起こる発作突然立ち上がる、大声を出す、攻撃的に見える動作、不自然な姿勢「暴力行為」「反抗的な態度」「活動の妨害」
発作後の混乱状態今どこにいるか分からない、記憶があいまい、興奮、抵抗「暴言・暴力」「指示無視」「嘘をつく」
欠神発作数秒〜数十秒、動作が止まり反応がなくなる「話を聞いていない」「呼んでも返事しない」
側頭葉から起こる発作恐怖感、既視感(見たことがある気がする)、自動症、感情の変化「情緒不安定」「突然泣く」「理由なく怖がる」

見分けの手がかりは、突然始まったか(発作は前触れなく始まることが多い)、普段のその方らしさと合っているか(発作による行動は「らしくない」)、本人が覚えているか(発作中のことは覚えていないことが多い)、どのくらい続いたか(発作はふつう数分以内)、きっかけがあったか(発作は疲労・睡眠不足・薬の変更後に多く、行動の問題は対人関係や課題の困難と結びつく)、そのあとの反応(発作後は疲労と困惑)です。

夜間の発作は見落とされやすい

知的発達症や脳性麻痺のある方では、夜間の発作が一般よりも多いことが知られています。本人が訴えないため、朝の様子から夜間の発作を推測する観察眼が必要です。いつもより起きにくい、ぼんやりが長い、寝具が乱れている、失禁している、舌や口の中に噛み傷がある──こうしたことがあれば記録し、医療に伝えてください。

もっと詳しく:てんかん症候群の名前を知っておく意味

職員が症候群の名前を暗記する必要はありません。ただし担当する方の診断名を知っておくと、なぜその薬が使われ、なぜある薬が避けられているのかが理解でき、観察の視点も定まります。施設では、West症候群、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群、Rett症候群、結節性硬化症、Angelman症候群などの診断名に出会います。

担当する方に診断名がついている場合は、次の3点を看護職・主治医に確認し、支援計画に書き留めてください。症候群ごとに答えが決まっており、これが日々の安全対策に直結します。

  • その方に避けるべき薬があるか
  • その方の発作の誘因は何か(体温上昇、睡眠不足、光など。体温上昇が誘因になる症候群では、湯温と夏の室温がそのまま予防策になります)
  • 転倒をともなう発作があるか(保護帽の検討につながります)

症候群ごとの発症年齢・発作型・経過・薬の選び方と禁忌は、当法人の専門職向け『てんかんマニュアル』第3章に一覧としてまとめてあります。

9. 薬について職員が知っておくこと

抗てんかん薬は、神経細胞の過剰な興奮を抑えることで発作を予防する薬です。ここで大切なのは、てんかんの原因そのものを治す薬ではないということです。飲み続けている間、発作が起きにくくなる──それが薬の役割です。

施設でよく目にする薬

薬の名前(略号) とくに気をつけたいこと
バルプロ酸(VPA)幅広い発作型に使われます。体重増加、手のふるえ、血液中のアンモニアが上がること、肝臓への影響に注意します。
レベチラセタム(LEV)幅広く使われ、ほかの薬との影響が少ない薬です。一方でイライラ・攻撃性・気分の落ち込みが比較的多く出ます。
ラモトリギン(LTG)認知面への影響が少ない薬です。ただし飲み始めに急に量を増やすと重い発疹が出る危険があり、ゆっくり増やすことが必須です。
カルバマゼピン(CBZ)焦点発作の古くからの中心的な薬です。発疹、血液中のナトリウムが下がることに注意します。
クロバザム(CLB)難治性のてんかんによく使われます。眠気に注意します。
ゾニサミド(ZNS)食欲の低下、汗をかきにくくなること(熱中症に注意)、腎臓の結石に注意します。
フェノバルビタール(PB)眠気と認知面への影響があります。
トピラマート(TPM)考えが鈍る、言葉が出にくい、体重が減る、汗をかきにくくなる(熱中症に注意)などがあります。
ペランパネル(PER)攻撃性・怒りっぽさが比較的多く出ます。
フェニトイン(PHT)長く飲んでいる方では歯ぐきが厚く腫れる(歯肉肥厚)ことがあり、口腔ケアが重要になります。

飲み忘れ・急な中断がなぜ危険か

1回の飲み忘れが、命に関わる発作を招くことがあります

抗てんかん薬は、血液の中の濃度が一定に保たれることで効果を発揮します。1回の飲み忘れでも濃度が下がり、次に飲むまでの間、発作の危険が一時的に高まります。長いあいだ安定していた方が突然発作を起こしたときは、まず飲み忘れを疑ってください。

さらに危険なのが、自己判断による急な中断です。重積状態や、それまでなかった難治性の発作を引き起こすことがあります。ご本人やご家族の判断で薬をやめてしまうことがないよう、薬を続けることの意味を、職員全員とご家族が共有しておく必要があります。服薬をきちんと続けることは、てんかんによる突然死(SUDEP)に対して最も直接的で予防可能な対策でもあります。

飲み忘れが起きやすい場面:嘔吐・下痢のあと(飲み直すかどうか、あらかじめ主治医の指示を得ておきます)/食事拒否・摂食困難/外出・レクリエーション/受診・入院/ご自宅への帰省/職員交代・シフト交代/処方切れ・ジェネリックへの変更。

なお、ジェネリック医薬品(後発医薬品)に切り替わったときは、主成分が同じでも溶け方などが違うため、まれに発作のコントロールが揺れることがあります。切り替えの事実(日付、切り替え前後の製品名)を記録に明記し、その後1〜2か月は発作記録を特に詳しくつけることが推奨されます。

副作用として観察すべきこと

副作用かどうかを判断するのは医師です。この表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。

時期 どんなものか 職員が見るところ
すぐに出るもの 飲み始めや増量の直後。眠気、めまい、ふらつき、ものが二重に見える、吐き気など。量が減れば消えます。 薬の開始・増量の日と症状が出た日の関係を記録します。主治医が量を調整する根拠になります。
長く飲んで出るもの 数か月〜数年かけて現れます。体重の変化、骨がもろくなる、認知面の鈍化、歯ぐきの腫れ、歩き方のふらつきなど。 定期的な体重測定、歩き方の変化、日常生活動作の低下に注目します。
体質によるもの 量に関係なく、特定の体質の方に重いアレルギー反応として起こります。飲み始めてから2〜8週以内が多いです。 わずかな発疹・発熱・だるさを見逃さない。緊急受診の対象になることが多い領域です。
最優先の警告サイン──「新しい薬 → 2〜8週以内 → 発熱+発疹」

抗てんかん薬による重い皮膚や過敏性の反応は、新しい薬を始めた、あるいは量を増やしてから2〜8週後に起こることがほとんどです。次の3つがそろったら、必ず当日中の医療機関受診をご家族・主治医と調整してください。

とくにラモトリギンは、急に量を増やしたときの重い発疹の危険が高い薬です。処方が変わったときは、夜勤者を含む職員全員への情報共有を徹底してください。

言葉で訴えられない方の副作用に気づく

重度の知的発達症やASDのある方は、頭痛、めまい、吐き気などを言葉で訴えることができません。しかし本人は、副作用を行動・表情・姿勢・生活リズムの変化として、たしかに表現しています。

この表は、報告すべき観察のチェックリストとしてお使いください。

本当に起きていること 行動として現れる形
眠気午前中の傾眠、食事中の居眠り、活動への参加が減る、声かけへの反応が遅れる、座位を保てない
めまい・ふらつきいつもは歩く方が歩きたがらない、移動のときにしがみつく、壁伝いに歩く、立ち上がりに時間がかかる
ものが二重に見える片目を閉じる、目をこする、物をつかみそこねる、段差で戸惑う、頭を傾ける
吐き気食欲の低下、食事の中断、飲み込むときに顔をしかめる
頭痛額や側頭部に手を当てる、頭を押しつける動作、光や音を嫌がる、頭を叩く自傷
かゆみ・発疹の違和感同じ場所を頻繁に掻く、衣服を脱ごうとする、入浴を嫌がる(普段は好きだった方)
気分の落ち込み好きだった活動に関心を示さない、表情が乏しい、食事量の低下、生活リズムの乱れ
認知面の鈍化普段できていたことができない、指示の理解が落ちる、やりとりの量が減る
「普段と違う」という気づきに、最大の価値があります

副作用の観察でいちばん大切なのは、症状の名前を当てることではなく、「この方の普段と違う」という違和感を逃さないことです。「いつもと違う」「先週までと違う」という情報を、薬を始めた日・増やした日と結びつけて記録し共有するだけで、医療者は副作用かどうかを判断できます。長年その方を知っている職員の「何かおかしい」という直観は、診察よりも早く副作用を見つけることがあります。

ですから、行動の変化があったときは、対応法を話し合う前に「最近、薬に変化はなかったか」「この変化はいつから始まったか」を確認してください。とくに薬を始めて/増やして2〜4週以内、ジェネリックへの切り替え後、ほかの薬を併用し始めたあと、発熱・脱水・食事量低下のあとは、薬の影響を疑う根拠があります。行動を抑えるために向精神薬を追加する前に、いま飲んでいる抗てんかん薬の副作用を評価する──この順序を医療と共有することが、薬が増えすぎるのを防ぎます。

10. 日常生活の安全

てんかんのある方の生活を脅かすのは、発作そのものよりも発作にともなって起こる二次的な事故です。そしてその多くは、日々の支援のなかで防ぐことができます。何も起きなかった一日こそが、施設の支援の成果です。

入浴──日本の施設でいちばん大事な予防の場面

入浴は「命に関わる場面」です

日本の入浴文化は、深い湯船に熱いお湯で浸かることを特徴とします。これが、てんかんのある方にとって日常生活で最大の危険となります。てんかんのある方の入浴中の溺死は、繰り返し報告されています。重要なのは、これらが「長いあいだ発作のなかった方」「軽いとされていた方」にも起きていることです。ここで述べる対策は「過保護」ではなく、基本的な安全確保です。

原則 具体的にどうするか
一人で入浴させない 発作の危険が残る方は、浴室内か脱衣所から常に目で見える距離で職員が付き添います。浴槽への沈み込みは1分以内に致命的になります。「見守りの距離」を施設の規程として明文化します。
湯温は38〜39℃ 熱いお湯(42℃以上)は体温上昇で発作を起こしやすくし、血圧の変動でヒートショックも招きます。Dravet症候群の方はさらに低めが望まれます。
湯量は浅く、座って 沈み込みを防ぐため、胸まで浸からない浅い湯量座った姿勢、介助者が体を支える形に。シャワー浴だけにする選択肢もあります。
入浴時間を決める 長湯は体温上昇とヒートショックの危険を高めます。1回5〜10分を目安に。
前後に水分を 入浴の前後にコップ1杯以上。脱水は発作を起こしやすくします。
環境を整える 滑りにくい床材、手すり、換気、急に熱くならない水栓(サーモスタット式)。
発作が起きたら すぐに湯を抜く → 浴槽から引き上げる → 横向きにする → 救急要請。この手順を職員全員で訓練しておきます。
入浴を延期すべきサイン

次のいずれかがあれば、入浴を延期し、清拭に切り替える判断を施設の運用に組み込んでください。入浴が日課であっても、1日中止することは事故防止のために受け入れられるべき選択です。

夜間の安全

てんかんによる突然死(SUDEP)は、約70〜90%が睡眠中か就寝直後に起こります。ですから夜間の見守りは、安全対策の柱のひとつです。

そして、発作が終わったあとも本人から目を離さないことが、この予防の核心です。SUDEPは、大きなけいれん発作の「後」に呼吸と心拍の乱れが連鎖することで起こるからです。発作が終わってから、呼吸と意識が戻るまでが勝負どころだと覚えてください。

転倒・けが・調理・刃物

なお、薬の副作用(眠気、ふらつき、ものが二重に見える)は発作がなくても転倒の危険を高めます。薬が増えた直後は特に注意して見守ってください。

睡眠不足・発熱・脱水・暑さ

睡眠不足、発熱、脱水は、発作を起こしやすくする直接の誘因であり、重積状態の原因にもなります。

水分の「多すぎ」にも注意

脱水は危険ですが、飲みすぎもまた危険です。2節で触れた水中毒は、施設の発作原因として非常に多いものです。脱水を防ぐ「時間を決めた水分提供」と、多飲のある方の「飲水量の把握」は両立させる必要があります。多飲の傾向がある方については、1日の飲水量と体重の変化を記録し、医療と共有してください。

活動・外出、口の中と骨の健康

てんかんがあっても、活動や社会参加は生活の質にとって欠かせません。「危ないから全部だめ」という過保護は、ご本人の自立と尊厳を損ないます。散歩・絵画・音楽・室内での活動は原則として制限しません。外出・買い物・公共交通の利用・軽い運動は同伴者をつけ、頓服薬を携行して行います。水泳・海水浴・登山・高い所の遊具は主治医の個別の意見を求め、最大限の監督をつけます。ダイビングや単独の登山、オートバイは原則としておすすめしません。

外出や旅行の前には主治医の意見を求め、頓服薬の携行、処方リストと医療情報カードの持参、行き先の医療機関の事前確認を行います。帰省の際も、発作の頻度・直近の発作・服薬・頓服の使用基準をご家族に伝え、「一人で入浴させない」「湯温と湯量の調整」をはっきりお願いします。なお一部のてんかんではテレビやゲームの画面、点滅する光が発作を誘発します。その場合は部屋を明るくして画面から2m以上離れ、休憩を頻繁にとります。

口腔ケアも大切です。フェニトインを長く飲んでいる方は歯ぐきが腫れやすく、歯科との連携が必要です。発作のあとは、舌や口唇の傷、歯の欠けを確認してください。また抗てんかん薬を長く飲んでいると骨がもろくなるため、歩かない方や日光に当たる機会の少ない方はとくに注意が必要です。

11. 精神症状・行動面との関係

てんかんは、発作のときだけの病気ではありません。発作の前後や、発作のない期間にも、気分や行動に影響が及ぶことがあります。ここは本編マニュアルの各章と最もつながる部分です。

発作の前後・薬による変化

見逃されやすい「ぼんやり」──けいれんのない重積状態

重積状態には、けいれん(体の動き)をともなわず、意識の障害だけが続くタイプがあります。「ぼーっとしている」「反応が鈍い」「話しかけても生返事」「いつもの活動をしない」といった状態が、数時間から、ときには数日にわたって続きます。

知的発達症のある方では、これが特に見つかりにくくなります。もともと反応のレベルが控えめであるため、軽い意識の障害が「今日は調子が悪いのだろう」「疲れているのだろう」で片づけられてしまうからです。

疑うべき状況:

この状態は脳波の検査でしか確定できません。施設で確定はできませんが、「いつもと違うぼんやりが半日以上続く」「けいれんのあとの意識の戻りが極端に遅い」「原因のわからない不自然な意識の変化」は、医療機関への相談の対象です。治療できる状態であり、早く見つければ後遺症を最小限にできます。「この方の、いつもの様子」を複数の職員が共有し、そこからのずれを記録する文化が、これを見つける唯一の方法です。

本編の各章との関係

カタトニアとの関係──第12章「カタトニア」

第12章で扱ったカタトニアは、動きが極端に減る・止まる、呼びかけに反応しない、同じ姿勢のまま動かない、といった状態を含む症候群です。一方、てんかんの側にも、意識の障害だけが続く状態(前項)や、動作が止まる発作があります。つまり、「急に動かなくなった」「反応がなくなった」という同じ見え方に、複数の可能性があるということです。

どちらであるかを判断するのは医師の仕事であり、しかもその判断は専門医にとっても難しいものです。職員がすべきことは鑑別ではなく、正確な情報提供です。いつから始まったか、どのくらい続いているか、普段の様子とどこがどう違うか、体温・脈拍・血圧、食事と水分と排泄の状況、服薬の内容と最近の変更、そしててんかんの既往と直近の発作──これらを整理して医療に伝えてください。てんかんの既往は、第12章の「医療連携時に伝えるべき情報」にも挙げられている項目です。なお第12章では、けいれんをともなわない重積状態がカタトニアのように見えうることにも触れています。

夜中に起き上がって動き回る、突然おびえて叫ぶ──こうしたエピソードは、夢遊病や夜驚症のこともあれば、睡眠に関連したてんかん発作のこともあります。第10章では見分けの手がかりとして、持続時間(てんかん発作は短く、多くは1〜2分以内で終わり方がはっきりしている)、動きの質(てんかんでは決まった形の動きが繰り返される)、頻度(てんかんでは一晩に複数回起こることが珍しくない)、毎回ほとんど同じ動作か日中にも似た動作が見られるかを挙げています。

知的発達症のある方はもともとてんかんを併存しやすいため、「夜中に動き回る」を夢遊病として扱い続ける前に、必ず医療スタッフに相談することが安全です。また、睡眠不足そのものが発作の誘因になるため、睡眠の支援は発作の予防でもあります。

認知機能との関係──第9章「神経認知障害群」

つまり、高齢の利用者さんに初めて発作が起きたときは、それ自体が重要な情報です。必ず記録し、医療に伝えてください。

気分・行動との関係──第11章「気分症群」

てんかんのある方では、発作のない期間(発作間欠期)にも、抑うつがみられることがあります。「発作が落ち着いているのに元気がない」という状態を、「性格」や「もともとの特性」として片づけないでください。食事量・睡眠・活動への参加・表情の変化を記録し、医療に伝えてください。見るべき変化と記録のしかたは第11章にまとめてあります。

また、抗てんかん薬そのものが気分や行動を変えることがあります。レベチラセタムやペランパネルによるイライラ・攻撃性・落ち込みは、前項のとおりです。行動が変わったら、まず薬の変更を疑うのが本章の原則であり、第11章の「抑うつが疑われるとき」の手順と組み合わせて使ってください。とくに、「死にたい」という言葉や自傷が新たに出たときは、その日のうちに報告するという第11章の規則が、そのまま当てはまります。

逆の方向の注意もあります。気分症状に対して処方される薬のなかには、発作の起こりやすさに影響しうるものがあります。精神科の薬が始まった・変わったあとに発作が増えたときは、そのことを必ず記録して主治医に伝えてください。調整の判断は医師が行います。

てんかんとスティグマ

てんかんは古くから誤解と偏見の対象とされてきた歴史があり、現在でも「発作を見せたくない」「隠したい」という気持ちは残っています。知的発達症のある方も、発作を起こした場面の記憶と周りの反応から、こうした気持ちを内に抱えていることがあります。発作を特別扱いしすぎないこと(日常に戻ることが尊厳の回復です)、発作後の清潔ケアは速やかにプライバシーを守って行うこと、発作を見たほかの利用者さんにも簡潔に説明してからかいや排除が起きないよう配慮すること──こうした日々の配慮が支援の基礎になります。

「発作管理」は「○○さんが好きな一日を過ごすための支援の一部」であって、全部ではありません。この順序を保つことが、本章で扱ってきたすべての安全配慮を、人を守るためのものとして正しく位置づけることになります。

12. まとめと緊急時チェックリスト

緊急時チェックリスト──迷ったらここを見てください

【発作を見たら】

【絶対にしないこと】 口の中に物を入れない/体を強く押さえつけない/揺さぶらない・怒鳴らない/意識が戻る前に水や薬を飲ませない/一人にしない/「そのうち止まる」と待たない

【必ず救急車を呼ぶとき】

【救急隊に伝えること・持っていく物】 発作の開始時刻と経過時間(計った数字をそのまま)/発作の様子/呼吸と顔色/頓服を使ったか/診断名/普段の意識とやりとりのベースライン/お薬手帳・処方リスト/薬のアレルギー歴/禁忌薬の情報/保険証・医療証/連絡先(詳しくは5節)

この章のまとめ

てんかんは、知的発達症のある方に最も多く併存する神経の病気です。障害が重いほど頻度が高く、最重度の方や脳性麻痺のある方では30%以上にのぼります。そして発作を最初に見て、最も詳しく観察できるのは施設職員です。職員の観察の質が、診断の質、そして治療の質を左右します。

発作を見たら、まず時間を計り、応援を呼び、周りの危険物をどけ、動きが落ち着いたら横向きにする口に物を入れない、強く押さえつけない──この2つは命に関わる誤りです。そして5分を超えたら、頓服と119番を同時に。記録では解釈ではなく事実を書きます。「強かった」ではなく「何時何分から、どこから始まり、何分続き、そのあとどうだったか」を書く。この積み重ねだけが、「いつもと違う発作」に気づく土台になります。

知的発達症やASDのある方では、その方の「普段」との差で判断すること、常同行動やカタトニアとの見分けは医療に委ねること言葉にできない前兆のサインを職員間で共有することが鍵になります。発作が「行動の問題」と誤解され叱責されてしまう危険にも注意してください。薬については1回の飲み忘れが命に関わる発作を招くことがあるという認識が出発点です。新しい薬を始めて2〜8週以内の発熱+発疹は当日中の受診行動が変わったらまず薬の変更を疑う。日常生活では入浴が最も重要な予防の場面で、一人で入浴させない・38〜39℃・浅い湯量で座位・5〜10分・前後に水分が原則です。夜間は見守りの階層化と定期的な見回りを行い、発作が終わったあとも目を離さないことが突然死の予防の核心です。そしてすべての安全配慮は、ご本人の尊厳を守ることに従います。

さらに詳しく学びたい方へ

本章は、現場職員が必要とすることを中心にまとめたやさしい版です。より詳しい内容──ILAE 2017年分類の三層構造と病因の6カテゴリー、発作観察の5つの軸と側方化症状、発作記録票の詳細なテンプレート、てんかん症候群ごとの治療の論理、抗てんかん薬の作用機序と重篤な副作用、バルプロ酸による高アンモニア血症性脳症、重積状態の4段階と頓服製剤の比較、SUDEPの機序と予防、児童養護施設における心因性非てんかん性発作(PNES)との鑑別など──については、同じ著者による専門職向けの『てんかん臨床マニュアル』(全7章+付録)をご参照ください。施設で使用する発作記録票、緊急時連絡フロー、SUDEP予防チェックリスト、入浴安全チェックリストなどの実務用テンプレートも、同マニュアルの付録に収録されています。医療担当部署にお問い合わせください。

本章の記述は、当法人の『てんかんマニュアル』(精神保健福祉士・社会福祉士等の専門職向け・全7章)の内容を、現場職員向けに平易化したものです。数値・分類・薬剤名は同マニュアルと一致させています。より詳しい内容は同マニュアルをご参照ください。なお、てんかんはICD-11では第8章「神経系の疾患」に分類され、本マニュアルの他章が典拠としているCDDR(ICD-11の精神・行動・神経発達症群の診断要件)の対象外です。そのため本章には、CDDRに基づく数値の統一は適用されていません(2026年8月改訂)。