医師相談記録の書き方

この仕事の中心にあるもの

全層 約30分
この章で学ぶこと

当法人には常勤の医師がいません。非常勤の医師が2週に1回ほど訪れ、その場で必要な判断をします。医師がその方を見ているのは、2週間のうちの数十分です。残りの2週間を見ているのは、職員だけです。

その2週間を医師に渡すための書類が、医師相談記録です。A4一枚。診察の前に職員が書き、主任が点検し、診察の場に持っていきます。この記録がよければ、医師は的確な指示を出せます。この記録が薄ければ、医師は薬の話しかできません。

本章では、この様式の各欄に何を書くか、そして何を厚く書き、何を薄く書くかを扱います。この配分ができるようになることが、職員の育成の到達点です。

どこから読めばよいか

初めて書く方は、2節「様式の全体」と3節「各欄に何を書くか」を読み、4節の記入例を1つ見てから書き始めてください。2回目以降の方は、5節「何を厚く書くか」をお読みください。ここが本章の中心です。

1. この記録は何のためにあるか

医師が書く書類のうち、職員の仕事に直接返ってくるものが二つあります。処方と、障害支援区分の医師意見書です。

どちらも、医師がその場で見たものだけでは書けません。2週に1回、数十分の診察で分かることには限りがあります。医師が書ける内容は、職員が渡した情報の範囲を超えません。

とくに医師意見書は自由記載です。書式が決まっていないということは、中身が渡された情報の質でそのまま決まるということです。薬の調整の経過だけを渡せば、意見書は薬の話になります。日々の生活で何にどれだけ手がかかっているかを渡せば、意見書はそれを書けます。

この記録が扱う範囲

食事・入浴・排泄といった基本的な介助の量は、行政の認定調査に共通のチェック項目があり、そちらで把握されます。この記録が扱うのは、その枠に収まらない部分です。こだわりのために日課が回らない、特定の音で午後がつぶれる、決まったものしか食べられない、気分の波で必要な人手が月ごとに変わる──こうしたことは、チェック項目には欄がありません。書かなければ、存在しないことになります。

もう一つ、この記録には別の役割があります。書く過程が、見る訓練になるということです。

家族歴から発達歴をたどり、症状がいつどう始まったかを書き、いま何にいちばん手がかかっているかを言葉にする。これを繰り返すうちに、日々の場面で目に入るものが変わってきます。この記録は医師のための書類であると同時に、職員自身のための訓練の道具です。

2. 様式の全体──二つの層

様式はA4一枚です。ただし、中身は性質の違う二つの層に分かれています。

内容更新書き方
基礎情報 氏名・生年月日・手帳・区分・病名・処方・家族歴・周産期・既往・検査 一度作れば固定。変わったときだけ直す ○をつける、数字を入れる程度。簡潔でよい
自由記載 生育歴と経過/いま最も手がかかっていること/相談内容 診察のたびに更新 用紙の半分以上をここに使う。重みに応じて配分する

この分け方が分かると、負担感がまったく変わります。毎回A4一枚を書くのではありません。基礎情報は一度作れば以後は確認だけ。毎回書くのは、動いた分だけです。

基礎情報は、薄くても必ず埋める

いま問題になっていないことでも、基礎情報の欄は空けません。空欄は「なかった」ではなく「見ていない」を意味します。「けいれんの既往なし」と書いてあれば、それは確認済みの情報です。空欄なら、確認したのかどうかが分かりません。

周産期に異常がなければ「異常なし」と書く。家族歴に特記がなければ「特記なし」と書く。陰性の情報も情報です。

印刷して使う様式は別ファイルにしてあります。医師相談記録 様式(印刷用)を開き、A4で印刷してお使いください。

3. 各欄に何を書くか

基礎情報

書くこと
療育手帳区分と判定年。これは行政の判定であり、施設では変えられません。
障害支援区分区分と認定年、次回更新の時期。こちらは実態に応じて認定されるもので、手帳の区分とは別のものです。
病名知的発達症以外の精神科的な診断名と、身体の病名。診断がついていなければ空欄でよく、「疑い」があればそう書く。
現在の処方薬剤名・用量・服用時刻。いつから、なぜ変わったかを一行添える。「○月○日、易怒性のため増量」など。
家族歴血縁者の精神科的疾患・てんかん・知的障害。分からなければ「不明」と書く(「特記なし」とは違います)。
周産期妊娠中の異常、在胎週数、出生体重、分娩の様子、仮死の有無、新生児期の異常。母子健康手帳があれば確実です。
既往歴けいれんの初発年齢、頭部外傷、中枢神経の感染症、手術、大きな病気。
検査脳波・頭部CT/MRI・血液検査の実施年と所見。この欄は医師と職員が共有するためのものです。過去に実施していれば、結果が手元になくても「○年に実施、結果不明」と書いておく。
施設内で実施した検査心理検査を施設で実施していれば、実施年・種類・結果。行政からは手帳の区分しか届かないため、この欄が事実上の心理情報になります。
「不明」と「特記なし」は違います

特記なし=確認したうえで、書くべきことがなかった。
不明=確認できなかった。情報源にたどりつけなかった。

この二つを書き分けてください。「不明」と書いてあれば、いつか情報が得られたときに埋められます。「特記なし」と書いてしまうと、二度と誰も探しません。

生育歴と経過(自由記載)

用紙のもっとも大きな部分です。二つの内容が入ります。

生育歴は、首のすわり・歩行開始・発語の時期、就学の経過(普通学級/特別支援学級/特別支援学校)、これまでの生活の場(家庭・入所施設・グループホーム)の順に、時系列で。分かる範囲でかまいません。分からないところは「不明」と書きます。

経過は、いま問題になっていることがいつ・どのように始まり、どう変わってきたか。ここが記録の中心です。

あわせて、次の二つを書き込んでください。医療のカルテには入っていないが、この記録には要る情報です。

いま最も手がかかっていること(自由記載)

この欄が、医師意見書に直接効きます。同じ診断名でも、何にどれだけ手がかかるかは人によってまったく違います。それを書くのはここだけです。

次の五つを、できるだけ入れてください。

  1. 何が──具体的な行動(「こだわりが強い」ではなく「更衣の順序が乱れると最初からやり直す」)
  2. どの場面で──起床時、食事、入浴、外出、就寝時
  3. どのくらい──1日何回、1回何分、週何日
  4. 職員が何名──見守りだけか、手を添えるか、2名がかりか
  5. それで何が起きるか──日課がどうずれるか、他の利用者にどう影響するか、職員の配置がどう変わるか

相談内容

一番下の欄です。大部分は「経過観察」に落ち着きます。それでかまいません。毎回何かを相談する必要はありません。

相談することがある場合は、次のような形になります。

4. 記入例(3例)

同じ様式でも、その方によって重みの配分がまったく違います。3例をご覧ください。いずれも基礎情報は埋まっていますが、自由記載の厚みが違います。

例1 てんかん発作が増えている方

医師相談記録
記入日 2026-08-10記入者 山田(生活支援員)点検 佐藤(主任)
基礎情報変更があったときだけ直す
氏名A様(男性・34歳)入所2011年4月/2階B居室
療育手帳A1(2004年判定)支援区分区分6(2024年認定・次回2027年)
病名てんかん(焦点起始両側強直間代発作)/知的発達症(重度)
身体特記なし
処方レベチラセタム 1000mg 分2(朝夕)/2026年5月に750mgから増量、発作増加のため
家族歴不明(実母死去、他に情報源なし)
周産期在胎38週・2,780g・正常分娩・仮死なし・新生児期異常なし(母子手帳で確認)
既往けいれん初発2歳/頭部外傷なし/中枢神経感染症なし/手術なし
検査脳波2019年(左側頭部に棘波)/頭部MRI 2019年(明らかな異常所見なし)/血液2026年6月(異常なし)
施設内検査実施なし
生育歴と経過診察のたびに更新

首すわり4か月、歩行開始1歳6か月、発語なし。特別支援学校(知的障害)小学部から高等部まで在籍。卒業後、通所を経て2011年に当施設入所。

2歳でけいれん初発。以後、抗てんかん薬を継続。20代は年に2〜3回で経過。

2026年3月ごろから発作が増えています。3月2回、4月3回、5月4回、6月4回、7月6回。8月は10日までに3回。

発作の形も変わってきました。以前は夜間に、寝ている間に強直間代発作が起こる形がほとんどでした。5月以降は日中の発作が増え(7月の6回中4回が日中)、日中の発作では発作の前に右手を数秒間もぞもぞと動かす動作が見られるようになりました。この動作は以前の記録にはありません。

発作そのものは1〜2分でおさまり、5分を超えたことはありません。発作後は30分から1時間ほど眠り、そのあと1〜2時間ぼんやりしています。

5月にレベチラセタムを増量しましたが、増量後も回数は減っていません。増量後、日中に眠そうにしている時間が増えた印象があります。

適応行動:食事は自分で摂れる。更衣は上着のみ介助。入浴は洗身介助、見守り必須。排泄は日中自立、夜間はおむつ。金銭・外出は全介助。

概念的能力:発語なし。「ごはん」「おふろ」など日常の短い言葉は通じる。絵カードで次の予定を示すと落ち着いて動ける。時計は読めない。

いま最も手がかかっていること

日中の発作が増えたことで、これまで一人で過ごせていた時間に見守りが必要になりました。

入浴は5月以降、職員2名(1名が洗身、1名が発作の見守り)で対応しています。以前は1名でした。1回あたり25分。

日中の活動中も、以前は他の利用者と同じ部屋で作業していれば済みましたが、いまは職員が視野に入れておく必要があり、実質的に1名がついている状態です。

夜間は、発作後の嘔吐による窒息を防ぐため、20時から翌6時まで1時間おきの巡視を、通常の2時間おきから変更しています。

相談内容

□経過観察 ■薬について ■その他

増量後も発作が減っていません。薬の調整をご検討いただけますでしょうか。あわせて、発作の形が変わってきていることについて、脳波の再検査が必要かどうかご判断ください。日中の眠気が増えている点もご相談したいです。

例1で厚くなっている部分

経過です。月ごとの発作回数、発作型の変化、増量の前後の比較。基礎情報は簡潔ですが、空欄はありません。「家族歴 不明」も情報として書かれています。

この記録があれば、医師は薬の調整と検査の要否を判断できます。「最近発作が多いようです」だけでは判断できません。

例2 こだわりのために日課が回らない方

医師相談記録
記入日 2026-08-11記入者 鈴木(生活支援員)点検 佐藤(主任)
基礎情報変更があったときだけ直す
氏名B様(男性・28歳)入所2018年10月/1階A居室
療育手帳A2(2010年判定)支援区分区分4(2023年認定・次回2026年11月)
病名自閉スペクトラム症/知的発達症(中等度)
身体特記なし
処方なし
家族歴特記なし(両親健在、面会時に聴取)
周産期在胎40週・3,120g・正常分娩・仮死なし・新生児期異常なし(母子手帳で確認)
既往けいれんなし/頭部外傷なし/中枢神経感染症なし/手術なし
検査脳波2015年(異常なし)/頭部画像 実施なし/血液2026年4月(異常なし)
施設内検査田中ビネーV 2019年実施(IQ 41)
生育歴と経過診察のたびに更新

首すわり3か月、歩行開始1歳3か月、有意語2歳6か月。3歳児健診で発達の遅れを指摘され、療育センターに通所。特別支援学校(知的障害)に在籍。卒業後は自宅から通所、2018年に父の入院を機に当施設入所。

幼児期から手順へのこだわりがあり、家庭でも「順番が違うとやり直す」ことがあったと母から聴取。

入所当初のこだわりは、決まった席・決まった食器といった範囲でした。これらは環境を整えることで対応でき、日課への影響はありませんでした。

2025年秋ごろから、更衣の手順にこだわるようになりました。下着→靴下→ズボン→上着の順で、この順序が崩れると、いったん全部脱いで最初からやり直します。順序を守れば5分ほどで終わります。

2026年に入ってから、手順が増えています。現在は、各段階で衣類を3回たたみ直す動作が加わりました。1月ごろに始まり、5月には確実に毎回行うようになっています。

本人の様子ですが、手順を止められると激しく抵抗し、大声を出します。ただし、手順を終えたあとに安堵した様子や、すっきりした表情は見られません。手順の最中の表情は淡々としています。

本人が手順をやめたがっている様子は確認できていません。言葉での確認は困難です。

適応行動:食事・入浴・排泄は自立。更衣は下記のとおり。金銭は職員管理。外出は2名で可。

概念的能力:2〜3語文で意思表示できる。「あとで」「明日」は通じない。絵カードによる予定提示は有効。数は3まで。

いま最も手がかかっていること

朝の更衣に、職員1名が25〜35分専従しています。入所当初は5分でした。

内訳は、順序どおりに進めれば5分、たたみ直しの動作で1回あたり2〜3分×4段階、途中で他の利用者の声などで中断が入るとそこからやり直しで、最初から10〜15分の追加になります。やり直しは週に3〜4回発生します。

結果として、B様は週に3〜4日、朝食に間に合っていません。朝食を別に用意して居室で摂っていただくため、厨房と職員に追加の手間が生じています。

朝の時間帯に1名がB様に専従するため、同じフロアの他の6名を、通常2名のところ1名で見ている時間が30分ほど生じています。

入浴でも同様の手順が始まりつつあり、7月から入浴時間が20分延びています。

相談内容

□経過観察 ■診断について ■薬について

この手順が、自閉スペクトラム症の特性としてのこだわりなのか、強迫症として考えるべきものなのか、ご判断をお願いできますでしょうか。手順が増えていること、止められたときに強く抵抗すること、終えても安堵した様子がないことが、判断の材料になりますでしょうか。

強迫症とみなすべき場合、薬物治療の対象になるかどうかもあわせてご相談したいです。

また、環境調整で対応できる余地があればご助言ください。現在は、朝の起床を20分早める案を検討していますが、本人の睡眠時間が減ることを懸念しています。

例2で厚くなっている部分

経過と、手がかかっていることの二つです。とくに「入所当初は5分だったものが、いま25〜35分になっている」という変化の記述が中心にあります。

そして他の利用者への影響まで書かれている点が重要です。「1名が専従するため、他の6名を1名で見ている時間が30分ある」──これは施設全体の職員配置の問題であり、区分認定が支えるべき実態そのものです。

相談内容も具体的です。「こだわりが強くて困っています」ではなく、何を判断してほしいのか、そのための材料は何かが書かれています。

例3 気分の波がある方

医師相談記録
記入日 2026-08-12記入者 田中(生活支援員)点検 佐藤(主任)
基礎情報変更があったときだけ直す
氏名C様(女性・41歳)入所2009年6月/3階C居室
療育手帳B1(1998年判定)支援区分区分3(2024年認定・次回2027年)
病名知的発達症(軽度)/気分の変動について経過観察中
身体甲状腺機能低下症(2020年〜、内科通院中)
処方レボチロキシン 50μg 分1(朝)/2020年から継続、変更なし
家族歴実母がうつ病で通院歴あり(きょうだいより聴取、2024年)
周産期不明(母子手帳なし、両親死去、きょうだいも把握せず)
既往けいれんなし/頭部外傷なし/中枢神経感染症なし/虫垂炎手術(20歳)
検査脳波 実施なし/頭部画像 実施なし/血液2026年5月(甲状腺機能は基準内、他に異常なし)
施設内検査実施なし
生育歴と経過診察のたびに更新

生育歴の前半は不明。小学校は普通学級、中学校から特別支援学級。卒業後は作業所に通所、両親の死去により2009年に当施設入所。

入所以来、調子の良い時期と悪い時期を繰り返しています。過去2年分を記録から拾い直しました。

活動が高まる時期——2024年4月(約3週間)、2024年11月(約2週間)、2025年5月(約4週間)、2026年4月(約3週間)。この時期は、朝5時前に起き出し、日中もほとんど休まず動き回ります。他の利用者に次々と話しかけ、作業も普段の2倍ほどのペースで進めます。夜は22時に就寝しますが、23時ごろまで室内を歩く音がします。睡眠時間は4〜5時間ですが、日中に眠そうな様子はありません。声が大きくなり、他の利用者とのいさかいが増えます。

活動が落ちる時期——2024年7月(約6週間)、2025年1月(約8週間)、2025年9月(約6週間)、2026年6月から現在(約9週間、継続中)。この時期は、朝の起床に声かけが3〜4回必要になり、日中は居室で臥床しがちです。食事量が半分ほどに減り、この2か月で体重が4kg減っています(54kg→50kg)。話しかけても返答が遅く、以前は自分でできていた洗面・更衣に促しと手添えが必要になっています。

その間の時期は、いずれの様子もなく、作業所への通所も安定しています。

甲状腺の薬は2020年から変更なく、血液検査でも基準内です。

適応行動:安定期は食事・入浴・排泄・更衣とも自立。買い物も職員の同行で可能。落ちる時期は上記のとおり促しと介助が必要。

概念的能力:日常会話は成立する。ひらがな・カタカナの読み書き可。簡単な計算可。時計は読める。自分の気分について「しんどい」「元気」と言葉で言える。

いま最も手がかかっていること

時期によって、必要な介助の量がまったく違います。これが最も対応の難しい点です。

安定期——身辺の介助はほぼ不要。見守りのみ。

活動が高まる時期——他の利用者とのいさかいを防ぐため、日中に職員1名が近くにいる必要があります。夜間も、他の利用者を起こさないよう、23時前後に2〜3回の声かけをしています。

活動が落ちる時期(現在)——起床の促しに1回あたり15分。洗面・更衣に職員1名が20分付き添い。食事は摂取量の確認と促しで毎食10分。入浴は拒否されることが多く、週2回の入浴を確保するために1回あたり30分の説得が必要です。1日あたりで、安定期より2時間ほど多く職員の時間を使っています。

体重が2か月で4kg減っている点を、いちばん心配しています。

相談内容

□経過観察 ■診断について ■身体面 ■その他

この気分の波について、ご診察をお願いします。過去2年の記録から時期を拾い直しましたので、上記をご覧ください。年に2回ほど、活動が高まる時期と落ちる時期を繰り返しているように見えます。

体重が2か月で4kg減っています。甲状腺の数値は基準内とのことですが、内科の先生にもお伝えすべきでしょうか。役割分担についてご指示ください。

現在の時期がいつまで続くかの見通しと、次に活動が高まる時期に何に注意しておけばよいかを教えていただけますと、職員の配置を準備できます。

例3で厚くなっている部分

時間軸です。過去2年分の波を、時期・期間・様子で並べています。これは1回の診察では絶対に見えません。職員が記録から拾い直さなければ存在しない情報です。

そして「必要な介助の量が時期によって違う」ことが、時期ごとに書き分けられています。平均では表せないものを、平均にせずに書いてある点が重要です。安定期だけを見れば区分3で足りますが、実際にはそうではありません。

周産期が「不明」であること、甲状腺の薬が変わっていないことも、それぞれ意味のある情報として書かれています。

5. 何を厚く書くか

ここが本章の中心です。様式のどの欄も大きさが決まっていないのは、毎回、何が重いかを考えてもらうためです。

原則

五つの原則
  1. 基礎情報は、薄くても必ず埋める。いま問題になっていなくても省かない。
  2. 厚く書くのは、いま医師に判断してほしいことに直結する部分。それ以外は薄くてよい。
  3. 判断してほしいことがなければ「経過観察」でよい。大部分はそこに落ち着く。無理に何かを見つけなくてよい。
  4. 厚みとは、長さではなく具体性。抽象的な文を10行書いても厚くならない。
  5. 迷ったら、「いつから」「どのくらい」「誰が何名で」を足す。この三つで、たいていの記述は使えるものになる。

厚みにならない書き方と、なる書き方

厚みにならない

こだわりが強く、決まった手順でないと動けない。

厚みになる

更衣は下着→靴下→ズボン→上着の順で、順序が崩れると全部脱いで最初からやり直す。順序どおりなら5分。やり直しが週3〜4回あり、そのときは25〜35分かかる。職員1名が専従。

厚みにならない

音に敏感で、大きな音が苦手。

厚みになる

掃除機の音を聞くと、その日の午後の活動に参加できなくなる(今年に入って7回、いずれも清掃日)。そのため清掃は本人の外出中に限定し、外出のない日は翌日に回している。

厚みにならない

最近、調子が悪そうです。食事量も減っています。

厚みになる

6月中旬から、朝の起床に声かけが3〜4回必要。食事量は普段の半分。体重54kg→50kg(2か月)。以前は自分でできていた洗面・更衣に手添えが必要。同様の時期が2024年7月・2025年1月・2025年9月にもあった。

厚みにならない

偏食が強く、食べられるものが限られています。

厚みになる

白い食品のみ摂取(米飯・豆腐・うどん・食パンの白い部分)。一般食からの取り分けができず毎食個別調理。栄養補助食品を朝夕2回。体重は月1回測定、この1年で変動なし(48kg前後)。外出時は食事の確保が難しく、外出行事に参加できていない。

なぜ具体でなければならないのか

医師が書く書類は、審査会が読みます。審査会に精神科の医師がいるとは限りません。整形外科やリハビリテーション科の医師が読むこともあります。

それでも「更衣に職員2名で30分かかり、順序が乱れると最初からやり直しになる」は伝わります。専門の分野が違っても、これは分かります。

逆に「こだわりが強い」は、精神科の医師が読んでも何も分かりません。専門用語を避けるから伝わるのではなく、具体を書くから伝わります。難しい言葉を使ってよいかどうかを気にする必要はありません。何が起きているかを、そのまま書いてください。

書きすぎを心配しなくてよい

用紙に入りきらないときは、別紙を添えてかまいません。ただしA4一枚に収まる範囲で書けているかどうかは、それ自体が一つの目安になります。収まらないときは、たいてい「いま医師に判断してほしいこと」が絞れていません。

一枚に収まらない場合は、主任と相談してください。

6. 誰が点検し、誰が責任を負うか

書いた記録は、あなた一人の責任ではありません

この体制があるので、記入する職員は、間違いを恐れて薄く書く必要がありません。記録が薄くなる最大の原因は、能力ではなく、責任への不安です。見たことをそのまま書いてください。判断に迷うところは「判断がつきません」と書いてかまいません。

逆に言えば、主任は点検を形式的に済ませてはいけません。点検で見るのは、次の三点です。

  1. 基礎情報に空欄がないか。「不明」と書いてあるのは可、空欄は不可。
  2. 厚く書かれている部分と、相談内容がつながっているか。相談したいことの根拠が本文にあるか。
  3. 「いつから」「どのくらい」「誰が何名で」が入っているか。抜けていれば、記入者に確認する。

7. 各章とこの記録の対応

本マニュアルの各章は、この記録の「相談内容」欄を書けるようになるためにあります。

たとえば例2の「これは自閉スペクトラム症の特性としてのこだわりなのか、強迫症として考えるべきものなのか」という問いは、第7章 強迫症または関連症群第1章 神経発達症群を読んでいなければ、そもそも問いとして立ちません。「こだわりが強くて困っています」で終わってしまいます。

相談内容の欄に書くべきことが立てられるようになったとき、その章を読んだ意味があります。
相談内容の欄に立てられるようになる問い読む章
この行動は、もともとの特性か、それ以外の何かか第1章
排泄の失敗は、身体の問題か、環境か、心理的なものか第2章
この爆発は、衝動制御の問題か、要求への反応か第3・4章
この拒否や怒りは、不安によるものではないか第5章
この混乱は、過去の体験と関係していないか第6章
このこだわりは、特性か、強迫症か第7章
この食べ方は、特性か、対応を要する状態か第8章
この低下は、加齢によるものか、認知症か、せん妄か、うつか第9章
日中の眠気は、夜の何によるものか第10章
この波は、気分の障害ではないか第11章
この動かなさは、カタトニアではないか第12章
この発作の変化を、どう伝えるか第13章

どの章から読んでもかまいません。いま担当している方について、相談内容の欄に何を書けばよいか分からないとき、その問いに対応する章を開いてください。

本章で示した様式は、当法人において非常勤医師の診察に用いてきた記録をもとに構成したものです。記入例は、実在の利用者のものではありません。様式の各欄と記入例は、施設の運用に合わせて調整してください。